C_伝奇・オカルト

2018/05/16

泉ウラタ/吉田真侑子 「死神にだって、愛はある。」 1巻 ノース・スターズ・ピクチャーズ 徳間書店

 死者の魂を天国に導く”死神”が、権限を過剰に駆使して人々に時間を与える。その時間は「30分30秒」。  決められた死にはあがなえませんが、人々は突然与えられた「30分30秒」で、何をしようとするのか。。  オムニバス形式で、「30分30秒の使い方」とその与えられた時間で考え、得られた何かについてを綴った、そんな作品です。

 この「30分30秒」は、必ず誰にでも与えられるべきものではなく、「特別な場合」に限って与える事が出来るもの。それをとある死神が、全体に対してどのくらいの頻度かは判りませんが「連発」するわけですね。

 彼らは死に行く者の側に”産まれた時から”つきまとい、それぞれの人生を共に眺め、そして一緒に過ごして行きます(そういう意味で、時空は超越した存在ではありますが、そこはサラッといった感じ(笑))。

 それぞれの物語に登場する人々は、必ずしも未練が残るというニュアンスとはまた違うのかもしれません。けどやり残したこと、自分が付けたかった落とし前について、その「30分30秒」という非常に短い時間の中で、それぞれやり遂げていく事になります。

 物語のパターンは、ある意味で無限にあると思いますが、その「30分30秒」までに至るプロセスが、そしてそれを使ってやり遂げる何かが、一つずつ丁寧に綴られている、そんな感じのお話でしょうか。

 まあ、ちょっと過剰に権限行使しているだけに、すでに1巻目から「お目付」が付いちゃったりして目を付けられている死神くんが、あとはいかに上司も納得のいく「理屈」を作り出していくのか。。

 ネタもそうですが、物語の構成力や説得力、そして読者が納得できるようなシチュエーションが準備できるのか、、結構縛りのキツイ作品な気がとてもしますが(汗)、少なくとも1巻については、それぞれが上手に構成されているなあ、と思いました。

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2018/05/09

武月睦 「やおろちの巫女さん」 全4巻 ヤンマガKCスペシャル 講談社

.  魔王の心臓を取り戻そうと、やおろちが憑いた巫女に日夜アタックする3匹の怪物達の、緊迫もありつつ、どこかのほほんとしたやり取りを綴ったコメディー作品です。

 やられてもやられても、まるで日課のようにそれを当たり前に受け入れ、そしてまた性懲りもなく巫女に挑む怪物3匹は、高校生である巫女の先祖の代から数百年、延々とそれを繰り返しています。
 まあ、そこまで長いと色々とユルユルでもありますが、どちらかというと問題なのは”やおろち”を宿す巫女の方。どっちが邪神やねんというくらい”やおろち”は禍々しく、様々な術で抑えながらも、巫女の体を徐々に蝕んでいきます。代々”やおろち”を卸せるのは血筋の決まった家系の女性のみ。そしてそれぞれが短命に終わる宿命を背負っています。

 所々でその”やおろち”の禍々しさの方が強調されてきましたが、4巻では過去にやおろちを降ろした歴代の巫女達について、そしてそれを”見守る”怪物達の今と変わらぬ行動までを描いています。

 完全に地域の日常に溶け込んでしまい、戦っている時以外は「ウルトラファイト」の怪獣よろしく(笑)、公園やら川辺やらでのんびり時間を潰す怪物達は、長寿命であるが故に、様々な人々を看取ってきた訳ですが、、、はたしてそもそも”悪”なのかどうかも微妙な立ち位置といったところ。そもそも、宿っている”やおろち”は何としても倒して心臓を取り返したいものの、”巫女自身”を倒したいかといえば、実はそれも少し違っていると、、その辺りの雰囲気が、4巻全体を通じて直接的ではなく、長い歴史を踏まえて間接的に語られていく、という感じでしょうかね。

 最初のうちは吉本喜劇よろしく、繰り返しネタの中に、ちょっと人情的なエピソードが入って来るといった感じで、弱冠間延び感もありましたが、4巻までのエピソード全体によって、なんか彼らのその行動原理が、ストレートではなく”何となく察することができる”という感じでまとまったかなと。

 大団円といえば大団円なのかもしれませんが、けど何か全てが解決した感じもしない、少し寂しい叙情感も感じる幕引きなのかな、という気もします。
 彼らは彼らで、巫女も含めていろんな意味で時を大切にして、そして楽しみ満足しているわけですけどね。

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2018/01/24

イダタツヒコ/広江礼威 「築城院さんハシャギ過ぎ」 1巻 サンデーGXコミックス 小学館

 邪悪とも言い切れず、相手を言葉で翻弄する謎の女子高生「築城院さん」と、その対面する人物の視線だけが描かれ、そして一方的に築城院さんの”セリフ”だけで物語が進行する、伝奇・オカルト的な雰囲気を醸し出す、少し不思議なオムニバス作品です。

 まず最初に断っておきますが、私は原作である「RE:CREATORS」は未読です。
 というより、その作品からのスピンオフであることを、巻末の書き込みを読むまで知らなかったくらいです(爆)。なので、あえて彼女の”能力”については触れません。というか、読み終わるまで私もそれが”能力”なのか判らなかったし(笑)。

 原作での「築城院さん」の立ち位置(悪役である?)と作風は判らないんですが、そういう予備知識が全くない状態において、何か引き込まれてしまう、面白い、、、と思ってしまった次第です。

 そもそもイダタツヒコも広江礼威、どちらもも大変好きな作家さんですから、なんでこういう組合せやねん?という、ちょっとビックリした感もあったんですよね。漫画のキャリアとしてはイダタツヒコの方が長いわけで(といっても、長期連載となる作品は確かにあまりなく、最近は原作者としての作品が多いですし)、不思議な感じがしたんですが、実際に読んでみて、「ああ、これはイダタツヒコの世界観だ。。」と納得してしまいました。

 原作を知らないが故に、このキャラクターがどこまでアレンジされているのかは判りませんが、彼女の語り口や、そして話し相手の視線だけで進行するという、かなり思い切った「一人芝居」のような構成のこの作品自体は、色々な伏線や仕掛けで楽しませてくれるイダタツヒコ的な演出そのもので、原作とは異なるオリジナルな味付けかと思います。

 そしてその「舞台」に、このある意味で妖艶で濃い「築城院さん」というキャラが、完全に見事に填まっているなあ、と思う次第です。

 アニメ放映の際(そちらも見てはいませんが)、広江礼威がキャラデザインでアニメに関わっているのかな?、という浅い知識しかなかったため(実際には原作者として物語まで含めてどっぷりだと、この作品を通じて知りましたが(汗))、コミックス版も出ているのが気になりつつ、ちょっと手を出していませんでした(キャラデザという認識だったので、手に取っていなかったという食わず嫌い(汗)。。。大反省)。

 ただ、このスピンオフ作品が面白かったから、原作を読もうかなというのとは、弱冠違います。この作品は完全に<元作品とは無関係に>実験的で面白い作品になっています。

 そしてこれを通じて、広江礼威が原作としてどれだけ関わっているかという部分を改めて知ることになったので、改めて興味を持ったのです。

 正直、オカルト系が好きな人なら、原作の予備知識は全くなくとも十分過ぎるくらい楽しめるでしょう。また、物語の意外性や漫画の構成の絶妙さ加減からも、漫画好きな人でも楽しめるんじゃないかな、と思ったりしました。

 そして原作から入った人でも「同じ材料使ってるけど、カレーが肉じゃがになりました」的に、変な話、二次創作物的な感じで楽しめるのではないかな、と思ったり(・・・あくまで原作知らないので、元からどれくらい乖離してるかは判りませんけど(汗))。

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2018/01/17

くろたま 「社畜に死神が憑く案件」 1巻 ジーンピクシブコミックス KADOKAWA

 仕事ができるが、ある意味お人好しで他人の仕事までバリバリとヘルプしまくり、いわゆる「社畜」と化したOLの家に死神が押し掛けてくる、そういう案件のお話です。

 ただし死神がやってきたのは「命を奪う」のではなく、きちんと寿命を全うするために、寿命をイタズラに縮めるだけの、彼女の<超荒れた生活>を正すため。

 一巻では「死神」の活躍の場は、家事と休日の生活までですが、結局のところ根本的な問題は、デキるが故に頼られ、そしてテキパキと仕事もこなすが故に、他人の為に残業時間が増えるだけの、彼女の会社での仕事ぶりな訳ですね。。

 死神に生活のヘルプをさせるにしても、こういう理由付けでやるんかっ、というアイデアも面白いんですが、それ以上に気になるのが、スーパー凄腕社員である彼女の活躍ぶりと、そのしわ寄せがすべて自分の生活を犠牲(本人自覚なし)にしているという点ですね。

 ある意味では、キャラとしては他の漫画であれば、本当に「優秀な切れ者社員」として描かれる存在かもしれません。けど残業で午前様が続けば、精神的にも体力的にも無理が生じるもの。そういう意味で、トラブルやその解決までの道筋も、さらっと描いてはいますけど、日常的にどこの会社でも起こり得る内容であって、とてもリアルに「なぜ(日本人は)働きすぎてしまうのか」を、婉曲的に描いている気もするのですよね。。

 単なるコメディーではあるんですが、どこかこう、実際に会社などで働いてる人にはわかる、ドキッとしたシーンが随所にあったりします。

 自分自身や、周りの状況でこういうシチュエーションあったよなとか、こうせざるを得ないだろうけど、負担ハンパないよな、、とか、妙に身につまされるとともに、そんな自分らをフォローして支えてくれる「会社ではない場所」の存在って、本当に大事だよな、、と考えさせられる、そんな作品です。

  

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2017/05/29

阿部洋一 「新・血潜り林檎と金魚鉢男」 全2巻 アース・スターコミックス 奉文堂

 頭が<金魚鉢>の背広の紳士が唐突に現れ、金魚鉢の中の金魚が人を襲うと、その人は<金魚>になってしまう。。

 そんな恐怖に怯える街で活躍するのが、スクール水着を着た少女、”血潜り”達で、彼女達でしか金魚男の毒を処置できない。但し、その能力を使って”潜れる”のは、襲われたばかりでまだ金魚になっていない人のみ。金魚になってしまった人々は、もう金魚のままで居るしかない。。

 スク水女子が街中を走り回ってる段階で、なんかもう小さな劇団のアングラ演劇の世界を彷彿とさせますが(・・・アングラは死語かしら?)、まさにそういう雰囲気の漂う作品です。

 敵対する同士とも言える「金魚鉢男」と「血潜り」ですが、ある意味では「血潜り」も特殊な職業。金魚鉢男が消えてしまえば、存在意義は当然消滅してしまいます。既に彼女らも”人ではない”とも言えますし、そんな葛藤を巡る戦いに、話は急展開していくことになります。

 2巻ではとうとう宿敵の「金魚鉢男」を倒すことに成功はしたものの、それによって却って最悪の事態が引き起こされ、街そのものが金魚毒に飲み込まれていきます。その状況を打開するためには、ヒロインである”林檎”の存在が不可欠となる訳ですが。。

 ストーリーや設定が突拍子ないので、なかなかストーリーの説明をするのが難しんですが、この作品自体は「文化庁メディア芸術祭漫画部門」の審査委員会推薦作品にもなっています。

 ところが電撃コミックスジャパンが2012年に休刊。 その後、2015年にコミックアーススターで復活を遂げる、という経緯がありました。電撃コミックスジャパンでの既刊本(全3巻)も再版され、5冊目にしてやっと完結を迎えることになったわけです。

 どこか夏休みの終わりのような不思議な世界観と、唐突に現れる謎の<金魚鉢男>の存在が、何とも独特な雰囲気を作り出しています。

 想像を超えた意外な”結末”を迎えた作品ですが、ある意味では”この世界観を維持しつづけた”ということでもあるのかもしれません。勿論、ここに至るまでのストーリーもなかなか面白く、ワクワクとは違うかも知れませんが楽しませてくれる作品でした。

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2017/05/17

上山道郎 「オニヒメ」 2巻 ヤングキングコミックス 少年画報社

 「剣豪ディスク」と呼ばれる刀の鍔(つば)に宿った剣豪達の技を引き出し、異界からの魔物と戦う、謎の出自の女子高生の戦いを描く、剣豪アクション作品です。

 簡単に説明してしまうなら、「特撮ヒーローもの」と言った方が雰囲気が伝わるかもしれませんね。最近の某ヒーローは色んなカードを装着して技を繰り出すわけですけど、この作品の場合にはそれは刀に付ける鍔状の「剣豪ディスク」な訳です。

 普通の剣術、剣道ものとは一線を画するのは、やはり「ツマヌダ格闘街」で培った、古武術に則った体の姿勢や動きなどのアクションでしょう。

 最低限の動きで、想像を超えた半端ないパワーを生み出す古代剣術を含む古武術・・。その基本は立ち姿を含む姿勢ですが、やはりそれをしっかり描けているからこそ、炸裂した時の迫力が感じられます。これ、普通に動画で見てしまうと、かえって判りにくいかもしれません。。ある意味、漫画だからこその表現である気もします。

 作品自体は、剣豪ディスク同士を使った、怪異との剣術による戦いです。主人公は剣道も習ったこともない少女ですが、その出自に秘密があったり。。もう一人のヒロインは、秘密組織に所属して怪異と戦う戦士の一人な訳ですが、こちらは語り部としての位置付けとも言えますね。

 で、、、、この作品の特筆すべき事は、過去の作品である「怪奇警察サイポリス」と世界観を共にしているということです!(←勝手に興奮しているらしい)。

 「怪奇警察サイポリス」は1995年まで「コロコロコミックス」に連載された全9巻の児童向け漫画です。細かな解説はWikipedia  に任せますが、児童向けという文法は守りつつも、正直、少年漫画として掲載されていてもおかしくないクオリティーの作品だったんですね(※個人の感想です)。

 現在、マンガ図書館Zで無料で読むことが出来ます。 ・・・というか、正直、コロコロコミックスの単行本を全部探すのは、他のコロコロ作品以上に、現在ではかなり難しいでしょう(私もかなり前、探すのにとても苦労した記憶がありますが、ここ10年くらいは古書店で1冊も見たことがありません。ネット古書店を探せばあるのかもしれませんが、、、)。

 当作品のヒロインは、サイポリスの登場人物の血を引き継いでいる、という設定となっています。そして2巻では、勿体ぶらずにモロにその登場人物達が現れるという大盤振る舞い(笑)。

 半ば打ち切りのような形で終わってしまった、20年以上前の児童漫画の設定を蘇らせたのは、やはり古武術への半端ない知識と、特撮ものへの熱い想い(作者本人の)とが融合して結晶した、と言ってもいいんじゃないでしょうか。

 ある意味、児童向けとはいえ細かな裏設定に当時から拘っていたからこそ、青年漫画とのコラボが実現したんじゃないかなあと思うと、なんか感慨深いですねぇ。。

 と、勝手に盛り上がっていますが(汗)、過去作品の下敷きがなくても、特撮ものが好きな人にも、そして古武術に興味がある人にも、それぞれの予備知識が全くなくとも十分過ぎるくらいのクオリティーで楽しめる作品になっているんじゃないかなあ、と思います。
 

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2017/04/17

ながべ 「とつくにの少女」 3巻 BLADE COMICS マックガーデン

 とある「外」の森の中で、ある異形の人物と暮らす一人の少女。その少女を巡って、人が住む「内」と、人外のモノが棲む「外」の世界の間で起きる”何か”を描いていく、そういう物語です。

 「外」の世界を「外(と)つ国」と言い、そこに住まう人々は化け物扱いされています。その「外」の住人がどのように作られるかと言えば、実はその異形の生物に触れることで、人だけではなく獣も含めて「感染」するかのように変化していきます。

 ある意味では、「感染者のなれの果て」が隔離されているのが「とつくに」と言えるのかもしれません。城壁に囲われた「内(うち)つ国」の方が、狭い感じがしますけどね。

 表紙にも登場する異形の人物は、勿論言葉も喋れます。そして少女が感染しないよう、一緒に住みながらも決して触れないよう、そしてとつくにの住人達にも触れさせないよう、ある意味では微妙な距離感で共同生活を営んでいます。

 あどけない少女は伯母を待っていますが、実際のところは捨てられたに近い状態で、主人公が引き取り、守ってきたわけですが、3巻ではその捨てたはずの伯母が現れ、兵士に守られながら少女を「内つ国」に連れ去ってしまいます。そして少女が到着した村では、、、

 1巻、2巻では半ば謎に満ちた不思議な森と、その中で何かを恐れながら、そして互いの素性も謎のままながら、少女の落ち着いたあどけなさに救われながら日々を小さな幸せを感じながら生活する、そんな2人を描いていました。

 2巻の終わり頃から、「とつくに」と「うちつくに」の、ある意味では非情な争い事が始まり、物語が3巻に向けて大きく動き、伏線や謎が徐々に明らかになりつつあります。本当の意味での少女の<秘密>は、4巻において明かされる事になりますが、不思議な世界観だけのファンタジー作品というだけではなく、複雑な人間模様が、一気に進んでいく感じですね。

 この作品、読み始めた当初から「絵本のようだな」という印象を受けていたんですが(そういう評価もチラ見しましたが)、改めて<絵>を眺めてみると、ちょっとびっくりしました。効果線など、動きを表現する線がほぼ無いんですね。いや、全くないと言ってもいいかもしれない。。

 ある意味では全て「静止画」として描かれているんですが、意識しないとそういう”効果”を使っていないことが認識できない。動作の途中の動きが、しっかりとしたデッサンで描かれているので、それで「動いている途中」と認識するんでしょうかね。。

 そして淡々とした必要最小限の会話や心理描写のト書きなどから、想像力を掻き立てられるような、そんな感じです。ある意味、絵本というメディアも、限られたページ数の中で、静止画と文字だけで情報を読者に与えるわけですが(動きのある絵もありますが、比較的静止画が多いですよね)、それに近い表現方法なので、「絵本のようだ」という印象を受けるのかもしれません。

 そういう意味では、イメージ的な作風を見て楽しむのがメインの作品かな、と思っていたんですが、2巻、3巻以降で一気に物語が動き出し、ああ、こういう表現方法でもドラマティックな展開が描けるんだなあ、、と、改めて面白い作品だなと認識した次第です。

 余談ですが、某作品でイメージ戦略に成功したからって、あんまし「人外」って単語を使わない方がいいんじゃないかなあ、と最近思う次第です。確かこの作品も、1巻の帯は「人外×少女」だった気がします。その後、なんか猫も杓子も使い始めてしまって、この単語は食傷気味かなあと。。この作品・作風は、某作品とはまた味付けが全然違う、非常に個性的な作品だと思うんですね。3巻以降は、もっと違う独特のセンスを表現するようなキャッチコピーを考えるべきだなあと思ったりもします。。
  

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2016/10/25

山西正則 「放課後!ダンジョン高校」 7巻 リュウコミックス 徳間書店

 とある離れ孤島にある高校ですが、高校とは名ばかり。実態は、その高校に出入り口のある古代遺跡=<ダンジョン>(魔窟)で発掘をするため、生徒達は授業そっちのけでお宝を求めてダンジョン探検に繰り出すという(先生もグルです)、そんな謎の古代遺跡の冒険譚、といったところでしょうか。

 7巻では、地下の謎の太陽のある空間での、生死を賭けた駆け引きといったところになります。

 前から紹介したいと思っていたんですけど、毎回ふと悩むのは、「この作品の雰囲気を、どうやって文章にしたらいいんだろう?」ということだったりします。例えば表紙も見ての通りでそれっぽい訳ですが、彼女は元アイドル。その格好は100%「コスプレ」の域を出ないというか、、サバゲで軍服を着るのと同レベル。ダンジョンだからファンタジーな格好せにゃ、といった感じです。

 それじゃ格好だけかと言えば、掘り出されるお宝は真剣な<オーパーツ>の固まりばかり。武器にもなりますが、体に取り込むことにより、少しずつ蝕んでいくような厄介なものもあり。この辺りは、ダンジョンもののゲームに近いですが、もう少しエグい謎な道具、そしてそもそも、このダンジョン自体が誰がどういう目的で、どうやって作ったのか謎だらけ。深淵部には誰もまだ近づけず(モンスターもいて、奥の方ほど強力。そして地図も出来ていない)、帰ってこなかった者も、命を落とす者も出るという<ゲームではない真剣勝負な場>とも言えます。

 それぞれが大小のオーパーツを駆使して危機を乗り越えていくものの、どこかこう<日常>的な部分から、大きく逸脱してないというのが、この作品というか作者の作風の特徴、と言ってもいいんでしょうかね。。

 それは勿論、日常的なやり取りの自然さもありますが、どちらかと言えば登場人物同士のコミュニケーションの中に、様々な伏線があり、深いところで疑心暗鬼も含めて<駆け引き>があり、心理描写が多いわけではないんですが、客観的に見てそういう駆け引きの世界に重点が置かれている、というところから来るんじゃないかなと。。。 

    ↑ほらうまく書けないじゃん!!! ヽ(`Д´)ノ

 登場人物それぞれに色々な事情や過去があり、それが徐々に伏線となって物語に絡んでいく、そんな作品なわけです。ある意味、アクションといってもめっちゃ派手なシーンがある訳ではありません。変な話、「演劇」として演じられるレベルと言ったらいいんでしょうかね。。派手なシーンや舞台装置自体より、やはり物語自体の面白さで勝負しよう、という感じじゃないかなあ。。

 どちらにせよ、普通のファンタジーものと比較してしまうと、オリジナリティー色もとても強い、かなり異色な作品です。けど、なんか読んでいくと続きが気になり、引き込まれていくんですよね(先が全く予想が出来ないというのもあり)。

 上手く紹介できないなあ。。ということで、無料試し読みページも紹介しておこう。。

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2016/07/27

江島絵理 「少女決戦オルギア」 全3巻 ヤンマガKCスペシャル 講談社

 1巻のコメントはこちら

 女子高生達のバトルはヒートアップし、やがてその戦いの目的と、犠牲の末に得られるもの、それを知ったことで生じる動揺などが錯綜していきます。
 最終的な戦いとその結末は。。。

 ということで、生死を賭けたバトルシーンの動きが尋常ないです。パ○○はどうでもいいんですが(違)、新体操の選手のような躍動感溢れる動きと駆け引きに、ぐいぐいと引き込まれます。なんかもう凄いなあ、としか言いようがないw

 そして戦いの末に得られるものが何か判明したことで、ヒロインの戦意は一気に消失。けど、そこから立ち直り、”目標”を改めて見定めることになります。

 ページの半分で、選手が半分とはいえ80人以上残っている段階でしたが、話は急展開していきます。数々の目論見が明るみに出て、それを知った上で、何をどう変えていくか、スイーツを賞味しながら女子会して・・・って、まあそのギャップはまたギャップでいいんですけど、ここからのまとめ方が凄いなあと。

 当然、「この巻で全てまとめる」というのが、秘密裏に作者に指令として伝わったのでしょうけど(と遠回しに書いてみる)、この尺の中でストーリーを組み立てるのに必要な<伏線>を的確に摘み取って描き切り、そしてこの限られた枠の中に描きたかったと思われるラストバトルをガッツリと盛り込み、最高潮のところで幕を引くと。。。

 その後どうなったか、ということは当然誰もが思うでしょうけど、そこを描くことは蛇足でしかないですよね。

 彼女は想定外も含めた戦いの末に、<目的>を掴み取った。本当に幸せになれるのかは判りませんが、それはいいじゃないですか、と。。

 なんかこう、よくこの尺の中に上手にまとめたなあと、改めて思いました。

 描こうと思えば、この後のカオスな世界も描けるかもしれませんけど、どうでしょう?けど、この美しいラストに対しては蛇足にならないかな?というのが心配。。


 ただ最後に一言。
 ページ数の都合はあったのだと思いますけど、最後のオマケ漫画の前に、空白で1ページは欲しかった(笑)。もうちょい余韻に浸らしてよ!ということで。

(※けど、嫌いじゃないですよ!頑張れ「すぐ死ぬ〜ズ」!w)

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2016/07/14

宮永龍 「アインシュタインの怪物」 1巻 Gファンタジーコミックス スクウェア・エニックス

 漁村の外れに棲む「魔女」と呼ばれる少年アインシュタインと、その漁村の漁師の息子の交流と、その数奇な運命を綴った、少しシュールでメルヘンな物語です。

 怪物とは、魔女な少年が生み出すことになる「継ぎ接ぎの死体」のこと。その”怪物”が生み出される過程に漁師の息子は巻き込まれていくわけですが、、というか、まあ<本人が望んだ>ことが実現されただけ、でもありますね。ある意味では責任の重圧も相当なものですが、二人は「一蓮托生」な世界へと旅立つ事になります。

 物語のあらすじは本の裏にも書いてあるので、そちらを見つつ本編を楽しんでいただければいいとして、この作品の特筆すべきは、その絵柄と色使い、そして全体の雰囲気ですね。

 かなりデフォルメをきかせた人物描写、そしてヨーロッパ風な世界の雰囲気は、まさに<絵本>の世界です。カラー表紙のパステルカラーな色使いと絵柄だけでも、中身の雰囲気は伝わる・・・かな?
 恐らくですけど、美術系の学校などで基礎はしっかり学ばれているのだろうと推察されます。デッサンが多分しっかりしているから、ここまでデフォルメしても、人物の動きに違和感がないんじゃないかなと。。

 ある意味では、子供向けのアンデルセン物語のアニメに近い雰囲気があるかもしれません(あくまで近いモノに分類しただけですけど)。背景の描写も緻密で小さなコマ全体が絵本の1ページずつのような、そんな感じでしょうかね。

 内容的には、肉親の死や村人の偏見差別、そして怪物&魔女として追われる彼らの顛末など、若干重くシュールな場面もありますが、その中で育まれる二人の絆のような何かが、全体の雰囲気を小さく照らすように折り込まれていて、暗い話になりそうな材料を、ちょっと暖かく明るくしてくれています。

 まあ、何というか女装癖かよ!で、実は年増な魔女な少年の受け答えや仕草も可愛いんですよね(なんか事あるごとに<少年!>と言い聞かせないと、性別を誤解しそうなくらい・・・というか、本当に男の子の”まま”なんかな?)。そして若干頼りなさそうな雰囲気ながら、決断と行動力、そして割り切りの早さが魅力な漁師の息子も、結構いい奴なんですよね。まだまだ一人前でもないのに、色々背負って大変ですけどね。。

 ファンタジーでメルヘンな雰囲気ながら、1巻の終わりには船も手に入れて、何となく冒険活劇的な流れも出てきましたので、独特な雰囲気と相まって続きが結構楽しみな作品だなあと。

  

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