C_アクション

2018/04/25

赤瀬由里子 「サザンと彗星の少女」 上下巻 リイド社

 地球が様々な宇宙人とも交流し、生活している数百年後の未来、他星人の居住用の小惑星の整備を生業としている青年サザンは、ロケットバイクに跨がる一人の少女と出会い、そして大冒険活劇へと巻き込まれていく事になります。。

 あらすじ云々は読んでからのお楽しみとして、この作品は非常に独特な雰囲気を醸し出しています。
 独特といっても、いわゆる雰囲気は1980年代のアニメの世界ってところでしょうか。何しろこの作品、<全フルカラーコミックス>な訳です。そしてカラーインクのような着色だなと思ったら、水彩で彩色しているっつーんですから、まあノスタルジー感を感じるのも当然でした。
 ※フルカラーで、1000円台/冊という価格帯に抑えるというのも凄いですが。

 全て彩色されているが故に、動き的にはあまり激しい描写がされるのではなく、イメージとしては昔のアニメのフィルムコミックス(アニメの画面をコマ割したもの。最近はあまり見かけませんが)といった雰囲気です。

 そこを冗長と感じるか、一周まわって新鮮と感じるかは人それぞれですが、WEBコミックとして発表され、それなりに掲載時に人気を獲得できたということは、単なるノスタルジーを感じた人だけが引き込まれた訳ではないのでしょうね。

 SF的な要素もかなり入り込んでいますが、その辺りの考証はまあ大きな問題ではなく(笑)、そういう意味では<おおらかにサイエンス・フィクションを楽しむ>というコンセプトだと言えるかなと。

 結構なスケールで離ればなれになったり、迷惑が掛かると遠ざかる彼女を追いかける、特に凄い特殊能力があるわけでもない等身大の主人公は、感情移入しやすい部分もあり(けどまあ色んな意味でムチャクチャですが(笑))、敵対する謎の飛行船のボスと彼女との、ある意味では共通点に至るまでのストーリーなど、いい意味での<スペース・オペラ>として存分に楽しめる、そんなエンターテイメント作品になっているかなあと。

 微妙な懐かしさ(笑)と引き込まれるようなストーリー、そしてアメリカ映画的な大団円など、、、最後の方はセオリー通りに「こうなるよな」って、どう読んでもわかるんですが(笑)、けどなんか判っている結果なのに、のめり込んで読んでしまっている自分がいました。

 そういう意味で、漫画ではあるんですけど、映画的な手法も使って観客を引き込むような、そんなテクニックも使われているような気がします。これは全てのページを極彩色で装飾した、そういう色彩センスの良さも大きく貢献しているのかもしれません(よく考えたら暗い宇宙の話なのに、本当に色彩豊かなんですよね(笑))。
 

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2018/04/19

山城良文 「反逆のオーバーズ」 1巻 BEAM COMIX エンター・ブレイン

 数々の超能力を持ったヒーロー、通称「オーバーズ」達が、互いに争い、そして世界が崩壊したのち、復興しつつあるとある世界。。

 オーバーズは「悪」というレッテルを貼られ、残党は管理組織によって追われ、そして消されていく、、、そんな世界の中で、オーバーズに憧れる一人の少年が大戦を生き残った超能力者達と出会い、管理局と反逆する彼らとの泥沼の戦いに巻き込まれていく、そんなお話です。

 まあ、彼自体がこの戦いの始まりでもあり、そして”鍵”となる人物ではありますけど、ヒーロー達が反逆者として追われ、消されていくという世界観、そして平和を愛し人々を守る筈のヒーローが「そうではない」という辺り、常識的な部分を壊しながら、追われる身となったヒーロー達と、管理局に協力する”元”ヒーロー達の、壮絶な戦いが繰り広げられます。

 まあ、1巻だけではまだストーリーの全体像は見えてきませんが、ストーリーの構成や魅せ方については、アクション系少年漫画として、既に十分過ぎるくらいの領域には達しているかなと。

 物語は、かなり残酷な方向に流れていくのか、本当の意味の「正義」は何なのか、これは2巻以降の展開を乞うご期待、といったところでしょうね。流れ的には、面白いと思った人は裏切らない展開となっていくかな、と思いますが(希望的観測)。
  

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2018/03/16

岡野める 「殺し屋ドロシー」 1巻 マンガハック

 さて。困ったことに(別に困ることもなんですが)、この作品はTSUTAYA限定販売、となっているんですね。
 なので、一般の書店では購入ができません。無料でとりあえず一部を読むことはできますんで、そちらなども参考に。

 動物が主人公となっている街で探偵をしている耳の欠けたオオカミが、とある依頼をきっかけとして、悪人専門の”殺し屋ドロシー”と、街の裏の実力者達の抗争事件に巻き込まれていくという、ちょっとコミカルで、そしてハードボイルドな作品です。

 上記の説明はかなり端折っていますが、ドラマの構成はなかなか先が読めず、そして血を見るのが嫌いなその”探偵”の過去も、ある意味では謎に満ちている、といったところ。

 元々はWEB掲載漫画の書籍化のようですが、面白いというか言われないと気がつかない人もいるかもしれませんが、この作品はトーンを全く使っていません。陰影から何から、全てペンで描かれています。なんだか昔の同人誌を思い出してしまいました(笑)。

 正直、トーンを使わずにこれをやるには、メッチャ技量が要ると想像されますんで、これは狙った画風なんだろうなと思います。その狙い通り、ベタと網掛けだけの絵柄だけで、アメリカのギャング映画ばりな世界が、雰囲気よく描かれています。登場人物が動物に置き換えられている以外は、国や都市名は実在のまま。

 この世界観の細かなところはまだ判りませんが(人類が滅びた後とかそんなSF的な話ではなく、ただのファンタジーな設定だけという気もしますが)、何というかドラマの作り方がスピーディーで、そしてB級アクション的な展開もあり、謎や伏線が徐々に明らかになるなど、エンターテイメント作品として上質な感じがします。

 動物を擬人化して描くという作品は色々とありますが、この作品は純粋に人間を動物に置き換えて描いているだけですんで(まあ、動物の習性や性質など、結構よく描き込まれているので、そうとも言い切れない部分の法が多々ありますが(笑))、あとは伏線バリバリなドラマと演出を楽しむ、そういう作品だと思います。

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2018/03/12

ジジ&ピンチ 「下獄上ものがたり」 1巻 ヒーローズコミックス ヒーローズ

 悪行の限りを尽くしたカンダタは、自ら命を絶つことによって地獄へと突入する。自分より強い誰かに”痛めつけられる”事を求めて。。

 地獄と鬼、そして苦しめられる罪人達、というモチーフ自体はセオリー通りですが、それに付随する様々な設定は独創的な、地獄ファンタジー作品といったところでしょうか。

 盗み等の悪事にも殺生にも何の感慨もなく、感情の赴くままに周囲を破壊し尽くそうとするカンダタは、まるで何もわからない赤子が好き勝手気ままに殺戮を繰り返しているようなもの。さらに痛みを「快楽」と感じてしまうという異常な性質から、自分より強い者に傷つけて欲しいが為に、好き放題やりたい放題。さらに無敵に近いくらい強いんですから始末に負えません。

 そんな彼が地獄に来たのも、先にも書いたとおり「自分を傷つけられる強い奴」を求めて。
 そしてそのターゲットになったのは、気が進まない中で火炎地獄の獄長を努める、何故か地獄で拷問を止めたいと考えながらそれを実現できないで悩む一人の少女であったと。
 何故か働けないという”呪い”が掛かり、日々サボりながら生活していた彼女は、カンダタの襲来の中、地獄で誰も出来なかった「カンダタへの必殺の一撃」を繰り出してしまい、、、、そして自分より強いと思ってしまった彼に、付きまとわれる羽目に陥ります。。

 まあ、あらすじの触りを書いてみましたが、誰もがよく知っている”地獄”という舞台でありながら、誰もが何らかの”呪い”に縛られている地獄の住人達の不思議さ、そして生と死の設定などなど、かなり個性的でファンタジー要素が強い作品になっています。さらに言えば、主人公の殆ど動物並みの行動原理や、地獄のシステム自体に疑問を持ち、そしてどこか深いところで反発を持っている火炎地獄の獄長である少女、さらにその姉妹が2人、合計4人でさまざまな地獄を、まさに言葉通り”渡り歩いていく”という、そんな冒険活劇になっています。

 とにかく設定が面白いんですね。地獄というシチュエーションは、色々な人が弄っていますけど、人の魂がどうなるかというシステム(名札)や、色々な”呪い”により、獄長や看守達にも縛りが存在すること、さらに言えば、物語の先が読めないというか、カンダタの暴走の仕方が半端ないというか(笑)、地獄と天国のシステム自体、この作品中ではかなり独特な設定とされているので(それもまだ全容が紹介されていない)、なかなか「次はどうなるのかな?」という部分で想像を超えてくるので、楽しめるといったところです。

 ちょっとモラル面が崩壊していますが(笑)、先が読めないスリルと共に、独特な世界観で描かれた地獄巡りを楽しめる、そんな作品かなあと思います。

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2018/03/02

伊藤勢/田中芳樹 「天竺熱風録」 3巻 ヤングアニマルコミックス 秋田書店

 中国から天竺(インド)へ、唐からの使節団として派遣された王玄策(実際人物)。そこであるクーデターに巻き込まれ、仲間と共に投獄されてしまいます。そこから脱出し、三十数名の牢屋に残した仲間をいかに救おうというのか、その大胆な策と行動力、そして魑魅魍魎な印度周辺を取り巻く小国の覇権争いを描いた、印度化計画・・・じゃないや、歴史冒険アクション活劇(+ギャグ)作品です。

 伊藤勢といえば印度でしょっ!(意味もなく断言)

 デビュー作である「ニルヴァーナパニック!!」からもう印度臭全開でしたが、あれから25年。。。全てがここに花開いているような、そんな気がします(←個人の感想です)。そういえば、3巻の表紙にもなっている女将軍って・・・(意味深)。

 もうエスニック臭というか印度臭がハンパないです。

 民衆の衣装から当時の建築物、そして風習やその他諸々、日本でも中国でもヨーロッパでもない、仏教文化だけではない様々な宗教の世界と共に描かれる、今のインドともネパールとも違う独特な<世界>が、作品の中に溢れかえっています。さらにそこに伊藤勢の渾身の”ギャグ”が隠し味のように唐突に現れたり、そして肉体を駆使した迫力のアクション・シーンまでてんこ盛りですから、ほんとに採算度外視です(←かなり言い過ぎ)。

 原作は「銀英伝」の田中芳樹ですが(こちらの挿絵はは藤田和日郎ですね)、この作品自体は全1巻で完結しています。そもそも登場人物自体は”実在の人物”であるということ、そして史実をベースとしている、ということが驚愕です。読み始めてみれば、もう見たこともない世界観から「ファンタジー?」とも思えてしまうような、エンターテイメント作品になっています。そもそも物語自体が波瀾万丈過ぎて「ホントにこんな事があったの?こんな人が実在したの!?」と、読み進みながら2度ビックリ。

 勿論、史実には人となりの詳細な記述がないため、キャラ付けから物語の進行自体には、かなり原作者の創作アレンジが入ってドラマ仕立てにはなっているようです(Wikipediaより)。私は原作を読んでいないので、この作品をさらに漫画化するに当たってどのくらい脚色されているか判りませんが、、、、作品の雰囲気を見る限りは、原作への忠実性よりも「演劇(漫画)としてのさらなるアレンジ」を楽しむことを考えた方がいいんじゃないかな、と思いました(まあ原作では、微妙な駆け引き中の微妙な表情までは描かれていないでしょうからね)。

 大好きな作家のために、ちょっと熱が入りすぎてしまいましたが(大汗)、原作自体の面白さもあるのでしょうけど、展開がドラマチック過ぎて、そして腹の探り合いのような駆け引きや、登場人物達の状況分析も面白く、そして迫力のアクションやその演出も見事でして。。1巻の時はまだ序の口だったのか、物語自体が凄い狭い世界だけだったのであれでしたが(そりゃまあ、牢屋の中のお話が主ですから、狭いですわな(笑))、2巻、3巻と続くうちにスケールが大きくなり、ほんとに冒険活劇そのものの展開になってきました。

 「ファンタジー」や「アクション」というキーワードで引っかかった人なら、存分に楽しめる作品だなと思います。

 しかしまあ、創作アレンジが入っているとはいえ、本当にこんな波瀾万丈な状況に置かれ、それを知力と行動力で解決してしまった人がいたんですねえ、、、 「事実は小説よりも奇なり」は、ある意味本当にその通りだなあと。
 

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2018/02/26

椿歩実 「××でも魔法少女になれますか?」 全2巻 裏少年サンデーコミックス 小学館

 魔法少女ものも色々とありまして、熟女や男性が何故か変身してしまう系など色々とありますが、まさに<老婆>が魔法少女になってしまう、というのがこの作品。まあ、他にも女子ではない者が”魔法少女”にされたりしていますが(笑)。

 老婆といっても”癒し系”の系統ですね。変身してしまうと若返っちゃう訳ですが、心の闇に取り憑かれた”魔人”達を、ある意味では<癒やし>て浄化してしまうという、そんな感じで活躍します。そして、そこに何故か”感情を奪い”ながら魔人を消去していく、別の魔法少女”達”が現れ、直接ではないにしろ、この二組の魔法少女達が、ついに決戦(?)に挑むことになるという。。

 部品だけを見てしまうと、他の作品でもありそうなシチュエーションも色々あるんですけど、全2巻でのまとめ方が秀逸だなあと思いました。

 変身できるようになっても、実は昔から魔法少女に憧れている孫には打ち明けられないヒロイン(88歳)。ある意味敵対している魔法少女達も、誰かを助けたいという意志で行動し、そして泥沼に填まってしまう(まあ、ダークサイドに堕ちてしまうというか。。)訳です。が、それらの伏線となっていた数々の問題を、上手に畳んで大団円に持ち込んでいるわけです。

 全2巻となった事情などは何かあるのかもしれませんけど、物語のスパン的にも、なんか”映画を一本”を見ているような、そんな丁度いい尺でまとまっている感じです。そして伏線の取りこぼしもなく、心の痛みを乗り越え、みんなある意味では”幸せ”になれる、そんな感じにまとまっているかなあと。。

 魔法少女を題材にした作品は沢山ありますが、設定を昇華しきれなかったり、持ち味(個性)を活かしきれない作品もまあ多い中、この作品は、ほのぼのとした雰囲気を最後まで活かし、ちょっとウルトラCもありますが、ドラマも一気に展開して楽しめる、全2巻に実に上手に収まっている作品かと思います。
 

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2018/02/21

茂木清香 「赤ずきんの狼弟子」 1巻 KCコミックス 講談社

 タイトルからして、「これどういう作品なんだろ?」と疑問に思われるでしょうが、「赤ずきん」とは、主人公である赤毛の”狩人”の通称です。

 ファンタジーではありますが、世界観にちょっと捻りがあります。この世界に存在するのは、「人間」と「獣人」、そして人と区別がつかない、獣人狩り専門の「狩人」の3種類。人の中から狩人が産まれるのかどうかは、1巻の段階では微妙に判りませんが、少なくとも”狩人”は人間とは違う存在、という位置づけで描かれています。

 そういう特殊な世界観による一つの制約というか、この物語の一つのキーは、「狩人は獣人の声は聞こえない(意図的に遮断?)」という特殊な設定です(逆に言葉は、人間も獣人も狩人も共通。狩人から獣人には言葉は伝わりますが、逆は出来ないということ)。

 これにより、ヒロインである”人狼”少女とは、かなり一方的なコミュニケーションとなり、行動に相当の制約が生じる、という事になりますが、まあそもそも少女を手元に置くことになったのも、ある意味では気まぐれ(といいつつ、過去に因縁はあるようですが)。

 人と獣人が相容れず、人を襲う獣人と戦い続けるクールな狩人と、ある意味ではかなり微妙な立ち位置で、幼獣がゆえにろくに戦えもしない人浪少女との凸凹コンビの活躍を描く、一風変わったファンタジー作品です。

 まあファンタジーといえば何でもアリとはいえ、そこに「どういう制約を設けるか」が、ある意味ではその作品のキモではないかな、と思います。まあ、その理をぶち壊すような主人公が出てくる、というのも王道ですが(笑)、この作品の場合、能力とかそういう部分への制約ではなく、「言葉が一方に通じない」という、一風変わった制約を設けているところが、結構個性的だなあと。。

 実はこの方の作品、前々から気になりつつも、ちょっと手を出していなかったのですが(汗)、こういう捻った仕組みを入れ込んでくる辺り、中々面白いなと思ったので、遡って読んでみたいなあ、という気になりました。。

 迫力もあり、そして登場人物達の行動原理も(ある意味では)判り易く、なかなか楽しめる作品です。

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2018/02/16

杉谷庄吾【人間プラモ】 「猫村博士の宇宙旅行」 全1巻 宙出版

 初っぱなの太陽系<キッチュな宇宙人てんこ盛り>に見事に騙されてしまいますが、読み進むうちにそんな設定も全て<伏線>であることに気付かされ、つい唸ってしまいそうに。。

 とにかく何というか、SF考証を駆使しまくった壮大なスペース・オペラ的な作品になっています。主人公の「宇宙美人ハーレム計画」以外は(笑)。
 ・・・と言いつつ、その行動原理すら植え付けられた脳内記憶であったというオチの凄さに、感服といった感じです。はい。

 最初の設定の不純さ(笑)から、和気アイアイとした太陽系の旅あたりまでは完全に”罠”です(断言)。

 そこからは空間跳躍から古代文明の謎、そして「宇宙の果てには何があるのか」まで、相対性理論から空想科学の粋を尽くしたといっても過言ではないくらい、本当にてんこ盛り。
 そして時間跳躍まで駆使して<全ての始まり>が何であるのか、全ての伏線が綺麗に折り畳まれていきます。そしてラストのオチの何とスピーディーなことか(笑)。

 帯の宣伝文句である「これは、SF好き、冒険好き、漫画好きに贈られた素敵で楽しいプレゼントである!」という言葉だけで、この作品の全てが語られちゃってる気がします。いやまあ本当にこの通りです。読み進むうちに「なる程」と心の中で頷いて納得してしまうことを、何回も繰り返してしまいました。。漫画のストーリーとしても、ホントによく練られているなあと。

 下手にあらすじなんて書く必要はない、上記のキーワードに一つでも引っかかるものがあったら、絵柄に騙されずに「まあ読んでみなさい」としか言い様がない、そんな作品だと”強く”思います。
 

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2018/02/10

かばた松本 「路地裏バンチ」 2巻 ジャンプコミックス 集英社

 おてんばで暴走気味(笑)な少女(いわゆるお嬢様)が、屋敷から抜け出して迷い込んだのは、街の片隅にできた、ホームレス達のたまり場・・・。

 そしてそのたまり場には、様々な過去を持つ人間達がたむろしており・・・。

 まず最初に断っておきますが、作品の主人公は誰なのか?という部分。
 とりあえずは、2巻の表紙に出てくる青年の視点で主に描かれていくのですけど、災いの元(?)でもあるおてんばな少女と共に、ヒーローとしての謎の老人(1巻表紙)が登場します(まあ、こちらが主人公とも言えますが)。

 作風としては、アメリカのB級アクション映画といったところかなあと(西部劇的な感じもあるかな?)。

 いわゆる青年は、(色々と事情はあるかもですが)ごく普通の路地裏ホームレスで、真面目で優しいけどヘタレな、何の得意技もない一般人という立ち位置です。ホームレス達も、癖はありますけど、概ね一般人が殆ど。そういう普通の人々が、様々な<特殊な技能を持った奴ら>の戦いに巻き込まれていく、という感じでしょうかね。

 なので、ある意味では読者は感情移入しやすく、そして路地裏に次々と現れる輩の異常さが引き立つといったところかも知れません。。

 まあ、何にせよ「ハト」と呼ばれる謎の老人が無双すぎますけど、それと同等にやり合える、お嬢様付きの執事も曲者です(笑)。そしてニヒルで何を考えているか判らない、路地裏のもう一人の”危険人物”に加え、2巻では「歩く凶器(いや狂気?)」のような人間まで現れ、殺伐とした雰囲気になります。
 物語的には、まだまだどんどん殺伐として生きかねない雰囲気ですなあ。。

 ”今は”人は殺さないと誓った老人と、平気で人を殺戮できる人間(実際に死人も出てくる)との対峙は、コメディー調な仮面を被りながら、実はかなり”ハードボイルド”な作品でもあったりすると。。
 静である意味、平和なはずの路地裏が、徐々に殺伐とした雰囲気に浸食されていくわけですね。。

 「アメリカのB級アクション映画」と書いたのは、こういう表現が雰囲気が判り易いかな、と思ったのですけど、何といっても2巻巻末の「特典映像」という後書きが、構成的にも面白かったので、それも踏まえてのお話です(笑)。

 よく話と話の間の空きページ(1ページほど)に、オマケで一コマとか4コマで、その後のオチを描くというのはよくやられていますけど、これを巻末に集めてDVDなんかによくある”特典映像”という括りにして、結構なページ数を割いて遊んでいる(笑)んですね。

 ああ、こういう方法があったわ(笑)と、ちょっと楽しませてもらいました。

 そしてこれを見ながら、「ああこの人、映画が結構好きなんだろうなあ」と思った次第です。そう思いながら作品全体を見てみると、目指しているのはアメリカのB級アクション系の作品なのかもなあと(※私が想ってるだけなので、違うかも知れませんけどっ!)。

 何にせよ、少年漫画でありながら、かなりハードボイルドな作品でもあるという、表紙の見た目からはちょっと判りにくい、そんな作品だなあと思ったりしました。
  

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2018/02/08

環望 「泪~泣きむしの殺し屋~」 1巻 アクションコミックス 双葉社

 様々な事情から、一人の人間を勢いで殺してしまった女性。。  しかし、何故かその証拠が次々と隠匿され、届いた謎のスマホからの指令を受け、新たに別の人間を殺める事になっていく、そんなサスペンス・ストーリーです。

 冒頭での”殺人”に至る事情は、1巻の中でストーリーが進むと共に、徐々に明らかになっていきます。そしてそれ以上に不気味なのが、スマホから指令を送ってくる”謎の組織”の存在、、、

 殺害する相手は、ある意味では殺されても一向に構わない程度の悪人という設定なので、「必殺系」とも言えなくはないんですが、その刺客に向かわされるのが、その日まで何の訓練すらも受けたこともない、一介のOLであるということです。

 しかし、その”組織”の謎については、徐々にジワジワと存在感を増していきます。
 何でもない日常の中に潜む”協力者”達の存在が、ある意味では不気味です。出会い頭に「話は聞いている。」という一言で存在が明らかになりますが、どこをどう見ても普通に生活している”市民”でしかないと。

 そんな普通の”市民”を、色々な弱みを握りながら組織化しているのかもしれない、、、そんな予感がよぎります。

 凄腕の殺し屋ではなく、「そこらにいる普通の人」を協力者、もしくは暗殺者に仕立てるという辺りが、何というかリアリティーもあり、不思議な感覚なんですね。

 様々な伏線から”彼女が何をしたのか”も明らかになっていきますが、そういう謎解き的な部分の周到さもなかなか深いなあと。

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