C_不条理系

2018/02/02

ドリヤス工場 「テアトル最終回」 全1巻 サイコミ 講談社

 ある意味、「一発ネタ」として何かの物語の最終回から始まるというのは、とり・みきやその他の方がやられていますが、それを単行本1冊まるまる全部、オムニバス形式で「何かのお話の最終回」だけで構成するという(ありそうなお話ばかりなので、そのパロディ的な)、なんかもう吉本喜劇か何かのノリで描かれた、ある意味では実験的な凄い作品です。

 物語もSFから人情ドラマから多岐に渡り、似たようなキャラが、ちょっとずつ違った設定で繰り返し登場する「スター・システム」で構成され、延々と様々な「よくありそうなお話の最終回」が登場しますが、オチはなんだか不条理っぽいものもあり。。

 それぞれが面白いかどうかは意見も色々分かれそうですけど、この「延々と繰り返す」という吉本喜劇的なノリは、並大抵の根性とエネルギーがないと出来ないことだと思ったりします。

 ちまたで話題となった「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」についても、省略の仕方についての意見はあれど、3冊も続けて描き続け、クオリティーも落としていないという辺りで、その根性と注がれているエネルギーは凄まじいような気がしています。読んだことがある作品で、結構納得のいくまとめ方をされているので、未読の作品のアレンジも「ああ、こんな感じのお話なんだ」って妙に納得が出来てしまうというのは、相当大変な作業だとは思いますけど、なんか凄いなと思ってしまう次第。。

 ある意味では小ネタではあるんですが、そういうエネルギー量は、この作品からもほとばしっている気がしたりします。漫画って色んな事が出来るんですねえ。。

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2017/08/24

小林銅蟲 「寿司 虚空編」 全1巻 三才ブックス

 まずもってして、この本をどう紹介すればいいのか、という問題があります。

 寿司、、そう。寿司屋の場面から始まるこの作品ですが、もう1ページ目を開いて2ページ目から、全て崩壊しています。

 突如始まる<グラハム数>探求の旅、そして<フィッシュ数>への数学的怒濤の展開、、あらゆる数学記号が飛び交い、数の大きさ=強さという前提で探求される数式の積み重ね、、、

 要するに「巨大数」を追い求めるという数学的なプロセスを、漫画という枠を使いながら、ビジュアル的に魅せてくれるという、、、そういう漫画・・・なのかもしれない何かです。

 というか、そもそも寿司屋であることが何の関連性もなく、異次元と繋がるわ、ヒロインは○○だわ、今どき珍しいくらいの崩壊型<不条理漫画>と化しているんですね。落語的な不条理ではなく、まあ吾妻ひでお的なカオスな不条理というか・・・。

 けどまあ、実際読んでいても数学アレルギーな私には、内容はちんぷんかんぷんなんですが(こらこら)、関数を使いながら展開し続け、数式だけで4ページ以上ズラズラと並べることで<数学をビジュアル的に表現する>という事をしているところが、何というか凄いなあと思ったんですね。

 内容は理解できなくとも、そのプロセスの面白さ、展開を続けていくと、あるとき突然、左右で消せる数字や枠が出てきて、そしてかなり単純な数字と記号の関数が導き出されてきた時、解りもしないのに(爆)、なんだか「・・・美しい、格好いいかもしれない。。。」と思わされてしまったりします。

 正直、この作品はどういう人が読むべきなのか、勧める相手がよく判らないという感じがありますが、思い切って<数学アレルギー>なヒトが読んでみたら、なんか数学の見方が急に変わってくるような、そんな感じも受けるかもしれません。

 ・・・が、ちょっとこのカオスな不条理展開は、その部分でかなりヒトを選ぶかもしれない・・・。私はもうこの部分だけでごはんが食べられるんですけど、一般的には不条理漫画って「理解できない」ということで敬遠されてしまうんですよね。。

 まあ、嫌われている数学の世界と敬遠されている不条理の世界がここで融合し、新しい世界が開けていく・・・そんなことには・・・なってないかもしれませんけど、なんか頭の中がグネグネされる、そんな漫画です。

 けど、中身のメインテーマ(?)である「巨大数」については、査読まで付けて超本気モードな本です。これは御本人が好きでかなり拘ってやっていないと、ここまで踏み込み、そして噛み砕いて漫画として描くなど絶対できません。そういう意味では「巨大数とは何か」というとっかかりの入門漫画本としては、凄い本なのかもしれません。。

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2017/06/15

福田泰宏 「まどからマドカちゃん」 モーニングKC 講談社

 雨宿りで軒先を借りた部屋の窓から、無言のまま様々な「お誘い」をしてくる美人と、ただの通りがかりのサラリーマンの、窓を挟んで展開するオムニバス・ショートコントといったところですかね。

 このコントの縛りは、「窓」という枠を通じたコミュニケーションと、互いの不可侵(サラリーマン君が部屋の中に入ったり、また彼女が部屋から出てくることもない)、そしてヒロインが「無口」で身振り手振りで全て伝えるのみで、一言も喋らない、ということ。

 この3点の縛りを踏まえて、ほぼコントというかは不条理ギャグのような、美女とサラリーマンのやり取りが展開していきます。

 部屋の中は異次元ポケットかよ!っというくらい、衣装や内装がガラッと変わるのはまだしも、突如”釣り●”が出来たりと、ほぼ何でもアリな状態。ある意味では、ドリフの大爆笑ショート・コントといった味わいでしょうかね。

 それにプラスして、美人ですからそれなりのサービス・・・は、まあ最低限ありますよ、ということで。

 落語的なノリというか、そういうほのぼのとしたコントや不条理ギャグが好きな人にとって、結構楽しめる作品じゃないかなあと思います。

  私はこういうノリの作品、かなり大好きです(笑)。
  

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2017/05/29

阿部洋一 「新・血潜り林檎と金魚鉢男」 全2巻 アース・スターコミックス 奉文堂

 頭が<金魚鉢>の背広の紳士が唐突に現れ、金魚鉢の中の金魚が人を襲うと、その人は<金魚>になってしまう。。

 そんな恐怖に怯える街で活躍するのが、スクール水着を着た少女、”血潜り”達で、彼女達でしか金魚男の毒を処置できない。但し、その能力を使って”潜れる”のは、襲われたばかりでまだ金魚になっていない人のみ。金魚になってしまった人々は、もう金魚のままで居るしかない。。

 スク水女子が街中を走り回ってる段階で、なんかもう小さな劇団のアングラ演劇の世界を彷彿とさせますが(・・・アングラは死語かしら?)、まさにそういう雰囲気の漂う作品です。

 敵対する同士とも言える「金魚鉢男」と「血潜り」ですが、ある意味では「血潜り」も特殊な職業。金魚鉢男が消えてしまえば、存在意義は当然消滅してしまいます。既に彼女らも”人ではない”とも言えますし、そんな葛藤を巡る戦いに、話は急展開していくことになります。

 2巻ではとうとう宿敵の「金魚鉢男」を倒すことに成功はしたものの、それによって却って最悪の事態が引き起こされ、街そのものが金魚毒に飲み込まれていきます。その状況を打開するためには、ヒロインである”林檎”の存在が不可欠となる訳ですが。。

 ストーリーや設定が突拍子ないので、なかなかストーリーの説明をするのが難しんですが、この作品自体は「文化庁メディア芸術祭漫画部門」の審査委員会推薦作品にもなっています。

 ところが電撃コミックスジャパンが2012年に休刊。 その後、2015年にコミックアーススターで復活を遂げる、という経緯がありました。電撃コミックスジャパンでの既刊本(全3巻)も再版され、5冊目にしてやっと完結を迎えることになったわけです。

 どこか夏休みの終わりのような不思議な世界観と、唐突に現れる謎の<金魚鉢男>の存在が、何とも独特な雰囲気を作り出しています。

 想像を超えた意外な”結末”を迎えた作品ですが、ある意味では”この世界観を維持しつづけた”ということでもあるのかもしれません。勿論、ここに至るまでのストーリーもなかなか面白く、ワクワクとは違うかも知れませんが楽しませてくれる作品でした。

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2017/04/05

塩野干支郎次 「雑な学舎」 1巻 シリウスKC 講談社

 なんというか・・・。羨ましいくらい強烈に暴走する、学園不条理(?)ギャグ四コマ漫画といったらいいんですかねえ。

 簡単に説明してしまうと、女子高から急に共学になった学校にたった一人の男子生徒として転校してきた主人公が、謎の組織「雑部」に無理矢理入れられて、日々”女装”をさせられるという・・・。

 もとい、何というか普段は小声でしか喋らないその雑部の部長が、B級映画の”しらね~よ!”的な脇役俳優の名前を<絶叫連呼>しまくる、・・・・そんなマンガです(うん。多分これが正解!!)。

 とにかく超カルトで、誰が知ってるねん!的なB級映画ネタが、読者おいてけぼりで日常会話のように暴走する訳ですが(ちなみにカルトネタは映画だけではありません。。。)、作者の趣味がてんこ盛りという感じです。。

 けど、そのマニアックな話に<ついてけねー!>という人が多い筈ですが(断言)、何というか、、、、判らなくても一周回って面白くなってしまうという、なんだかタモリ倶楽部のような作品、といってもいいのかもしれません。

 まあ、とにかく雑にいろいろなB級ネタを散りばめながら、最後に全部ヒロイン(?)の<絶叫>で持っていってしまう(爆)、そんな作品だと思って気楽に・・・・。いやまあ、読む人は選ぶかもなあ。

 上にも挙げたように、タモリ倶楽部が<内容がマニアック過ぎて全然知らない分野な内容でも>楽しめる人であれば、思いっきり填まれる作品じゃないかな、と思ったりします。
  

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2016/09/13

ツナミノユウ 「つまさきおとしと私」 全2巻 KCx ITAN 講談社

 なんと・・・。全1巻かと思いきや、続刊がでました!
 けど、新刊案内に出ているのに、延べ5軒くらい本屋を探してしまいました。。 KCxなら青年コミックかと思ったら、ITANだからジャンル的にはレディース系なのですね(汗)。そりゃ見つからんわ。

 靴のつまさきを切り落とす妖怪「つまさきおとし」と、唯一、その小さな妖怪が見える女子中学生、長妻 咲の、、、熱愛・・・??

 ぶっちゃけ、神出鬼没な妖怪を、それを上回るストーキング能力によって追い続け、つまさきを切る行為を”愛のまなざし”で解説し、そして”愛によって”追い詰めていく、、、妖怪の「とし君」は日々、その精神攻撃に耐えながら自問自答するという戦いを強いられる、、、、という、サイコホラー作品です(違

 その果てには互いに存在しなければ生きていけなくなる、という<大いなる勘違い>というより、<精神的に追い詰められた者の末路>に行き着く、、、のか?? な、ある意味では凄い漫画だったりします。

 まあ、1巻からそうな訳ですけど、何か気まずいけど口に出せないもどかしさを感じている、あるいは他の人に感じさせる行動をする人のつま先を、意味もなく切り落とす不条理な妖怪が主人公だった・・・筈ですが(数話くらいまでは)、話数が二桁もいかないうちに、完全に超能力でもあるんか!というくらいなストーカー少女に追われ続け、精神的な駆け引きを常に強いられる妖怪を描くことになるという、本当に”サイコホラー”に近い作品になり、2巻ではある意味、その<総仕上げ>とでも言うべき「追い詰められた人間(妖怪)の思考を完全に崩壊させ、洗脳した結果は・・・・?」に至るという感じです。。

 けど、ある意味では純愛というか、全てを捧げる愛を体現し、それに感化されていく葛藤の過程を描いている、とも言えそう・・・ですけど(どこかこう、思いやりや気遣いも芽生えていくという)、やっぱ何か根本的な部分で間違ってると思います(笑)。

 ラストはある意味、”きょとん”としたオチとも言えるかもしれません。人によって評価は分かれるかもなあとも思いますが、そこまでの積み重ねてきた流れを踏まえれば、互いに<永遠の愛>を手に入れた、、、のかも? という意味なのでしょう。

 やっぱ何か大きく間違っている気がしますけど(笑)、本人達がよければそれでいいんでしょう、とゆーことですね。

 巻末には、「蝉丸残日録」とのコラボも”自虐的”に掲載されています。

 いずれにせよ、次回作に期待ですです。

 

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2016/09/09

クール教信者 「ホロビクラブ」 全1巻 チャンピオンREDコミックス 秋田書店

 短編集ということですが、本作品には大まかに2本の連作と2本の短編が収められています。

 一つ目はタイトルの「ホロビクラブ」連作。人類の滅亡についての大学ゼミに集う男女の禅問答のようなやり取りを描いた作品で、女性の先輩の異様(異常?)さと謎さが際立つ感じです。

 これは雑誌の廃刊で若干、宙を浮いてしまっていたような作品だったようですけど、変な話、着地点がよく判らないながら、「こういう場合にどうする?」という屁理屈だらけなやり取りと答えの中に、結構深いものがあったりなかったり。。。?
 案外、サラッと読むと面白かったりします。

 「うさぎのフラウ」は短編のファンタジーものです。何かどっかで見たような・・?と思ったら、作者が原作をやってる「ピーチボーイリバーサイド」に出てきてましたねえ。同じ世界観を共有する作品のようですけど、フラウさんカッコウ好すぎ(笑)。なんか急にファンタジーものの原作ってのもビックリしたんですけど(まあ「メイドラゴン」もあるか)、こういう下地があったんですねえ。

 「ハッピーデイズ」は、、、不条理ギャグなのかな?? ちょっと冒険したというか実験的というか(以下自粛

 最後の「キリのいいところで。」は、突発的に何だか始まる世界も守る特撮ものの世界!って感じで巨大なアレとアレが戦ったりするんですが、終わりありきの短期集中連載ということで、最後のオチも、実に”キリのいいところで”終わっています(笑)。

 方向性が全く異なる短編を集めた感じになりますけど、日常系なギャグコメディーがメインなイメージもありますが、色々な引き出しがあるんだなあ、ということと、さりげなく各キャラの心理的な深いところも描いている(それはほぼ全ての作品に共通するんですが)あたり、いろいろと楽しめる幕の内弁当的な短編集といったところです。

  

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2016/08/05

小池桂一 「ヘブンズドア -小池桂一 Ectra Works-」 全1巻 BEAM COMIX エンターブレイン

 脳内麻薬がたっぷり詰まった、小池桂一の短編集の新装増補版です。

 超寡作な作家さんなので、「ウルトラヘブン」の3巻が出たときは、あまりに間が空きすぎて、まだ続いていたのかとビックリしましたが(違)、まだ続いているようです(笑)。
 これもまたそのうち続刊が出るだろうと巻末予告を信じつつ、、。

 知っている人は知っている、という感じですけど、とにかくこの人の作品の特徴は<ヤバさ>といいますか、帯の「ペーパードラッグ」という表現は、本当にピッタリじゃないかなあと。

 夢と現実の垣根を越えて、緻密なビジュアルが誌面の上を飛び回り、不条理とも言える不思議な夢の世界や瞑想(迷走)、幻覚の世界へと誘われます。トリップで埋め尽くされ、そのコマ割の自由さによって幻覚と現実が溶け合うように融合していき、境界がまったく無くなっていく様は、読んでいくともう脳内の認識力が掻き混ぜられていくような、本当に麻薬を経験しているかのような感覚を受けます。

 本当に不思議なのは、別に私たちは麻薬なんて経験したことはない訳ですけど(・・・してませんよね?)、きっとドラッグをやったら、脳というか心の中はこんな風に色々なものが混ざって認識されるのかも、と何の疑いもなく思わされてしまう事じゃないかなあと。。
 夢の中にしてもそうですが、意識が混濁した中だと、あとから考えれば辻褄が合わないような事象や展開も、描写されているように何の疑いもなく受け入れ、その中で流されるように動いている、そこに変な話ですが”違和感”をあまり感じない。

 これは何というか、物語の構成自体が、それぞれの人々がちょっとは経験したことのある<夢>とか熱にうなされている時の<妄想><幻覚>で受けるイメージを、かなり的確に漫画という構成物の中に再現できているからじゃないかなあと。。恐らくそれらの入口というか、とっかかりの経験を介して、そこからさらに広げたイメージ世界が<本当に脳内の幻覚世界>であると認識させられてしまうと。。

 まさに脳内バーチャルリアリティーの世界かもしれません。。

 掲載されている多くの短編の中には「現実の時間軸」という視点が何らかの形で組み込まれています(全て妄想の中としか思えないものもありますが)。そういう立ち位置を確認出来たとき、そこまで描かれていた不思議な物語が、<脳内で作られた妄想や夢>であったことを認識することができます。この軸がなければ、本当にドラッグ状態に陥ってしまうかもしれないなあ、という感じもしますね。。

 夢や幻覚の世界って、映画などのビジュアルでも色々と再現されてはいますけど、漫画でここまでの表現ができるということが、本当に驚愕だなあと。
 逆にこれを元にして映像化って絶対無理じゃないかなと。もし仮に出来たとしたら、見ている人が現実感を失いかねない、もの凄く危険な動画になってしまうような、そんな気がします。。

 

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2016/08/03

まつだこうた 「超人間要塞ヒロシ戦記」 1巻 イブニングKC 講談社

 なんかこう、想像力をかき立てられながら、常に「・・・本当にそうなの?」という疑問を抱かせる不安な要素で突き進む、そんな風変わりな作品です。

 料理店で普通にアルバイトをしているフリーター「ヒロシ」。同じバイト仲間の「しずか」ちゃんは無表情で愛想もない彼に恋をするわけですが、実はその「ヒロシ」は、小さな宇宙人達が宇宙船を作り替えて人そっくりに作り、王族を中心として国家を形成している<人間要塞>であったのです。。。。
 まあ、何というか「マクロス」みたいな?(←全然違っ)

 というと、まあSFといえばSFですし、要塞の中での”人間”模様(お姫様を中心として、議会や駆け引き葛藤あれこれ)を見ていると、何となく宇宙ものの群像劇として構成されているんですが、「しずか」に翻弄される度に起きる「ヒロシ」の中でのパニック状態を見るにつけ、「・・・これ本当に宇宙人が中にいるの?」と疑問を投げかけられるわけですね(笑)。

 要するに多重人格の究極の形みたいにも見えてきますし、実は一種の寄生虫みたいのを擬人化しているようにも見えてきたり、、、、要するに、そういう<疑念>を常にどこかに抱かせつつ、なんか妙に律儀に群像劇が繰り広げられるという、そういう作品なわけです。

 まあ、起きる事件は今のところ、彼女が一方的に好意を寄せるが上のイベント(ちゅーとか、合コンとか)でしかないのですが、「ヒロシ」の中では大パニックです。彼女とおつきあいする訳にはいかないわけで(国家的にはw)、それをいかに避けるか、熱心な(けどなんか滑稽な)議論を繰り返したり、なんかもう勢いで誰かが暴走して行動してみたり。。さらに地球時間とは違う時間(数時間程度が数日に換算されています)で生きている彼らは、<彼らの生活を守るため>に、ありとあらゆる可能性を考慮し、何が最善かを模索しながら、長時間、「しずか」と対峙しなければいけないと。。

 ある意味、心理的な劇中劇のような描写の漫画は多数あるわけですが、このSF的な設定が<本当>かどうかもあるにせよ、ここまで「ありそうなイベント(バイト先の娘が好意を抱いてくれた)」だけで、よくまあこんなパニック作品を作れるなあと、感心することしきり。

 ある意味、体内の細胞達の日々の活動(戦い?)を描く「はたらく細胞」にも通ずるところもあるかなあ?

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2016/07/07

イシデ電 「逆流主婦ワイフ」 全2巻 BEAM COMIX エンターブレイン

 1巻のコメントはこちら

 主婦というキーワードだけで、様々なジャンルの物語を繋ぎ合わせたオムニバス作品集です。

 初っぱなの第1話のインパクト、その後に続く強烈な登場人物や物語の意外性に惹かれるわけですが、全体的な展開が、そこから入った読者の期待感からベクトルが少しずれちゃったのかもなあ。。というのが残念至極。

 物語はオムニバスでありながら、それぞれの世界観がどこかで小さく繋がっている。そして2つの登場人物がコラボするという、ある意味では極普通にオムニバス式の連作では使われる手法ですけど、私はこの手法は結構好きだし、意外性も絡めてよく考えられているなあ、と思ったりしました。

 ただ、読み切りのオムニバスという形式では、やはり最後はオチというか種明かしもしなければいけない。1話単位で読み終えると「なる程なあ」と納得もできて楽しめるのですが、要は最初の登場時に、”売り”の部分を全部出し切っちゃった感があったかもなあと。。

 同じ登場人物がその後の短編に出てきた時、「一発芸」で注目をかっさらってしまった後だと、「新しい芸は?」と問われる状況ができてしまったのかもなと。各々の登場時のインパクト以上の”芸”は出てこないので(どちらかといえば、裏設定をより細かく描写していくというスタイルですから)、そういう暗黙の期待に応えきるのが難しくなってしまったと。。要は2回目以降の登場時のハードルが上がってしまったということかもなあと。

 主婦というキーワードからは想像できないようなインパクトのある短編を読んだあと、当然続きモノにも同じインパクトを求めちゃう読者が結構いたのかもしれません。新たな物語がどんどん綴られているうちはいいんですが、2巡目あたりで再登場すると、「・・・?なんか違う?」と感じてしまう人もいたんでしょうかね。。
 さらにいえば、シリーズ物を一話完結式に順繰りに出していく、という形だったので、オムニバス短編とは若干違う感じだったかもなあと。2回目以降の登場時に、その前のストーリーの予備知識がないと、ちょっと内容が判りにくかったりするところもありましたし(雑誌購読では辛いかも)。

 こういう形式のオムニバス式の短編集は色々出ていますけど、話が全てでどこか繋がっているのであれば、何か軸がほしい気もしますね。この作品的には<主婦>という軸がそれに相当しますが、その軸となる定義を<幅の広い意外性>で破壊していることが売りであるものの、却って軸受がどこにあるのか掴みにくくなっちゃった感があり、(私みたいに変な奴じゃないと)作品の主題(軸足)がどこにあるのか、ちょっと掴めなくなってしまうのかもなあと。。

 私はどちらかといえば、この作者さんの持ち味は、無関係そうな物語も上手にパッチワークのように繋げていくこと、そして謎や意外性を醸しだしながら上手にストーリーを綴っていくことかなと思います(個人の感想です)。「餅巣菓さんに呼ばれる」なんかも意外性の集大成な気もしますし、「私という猫」とか叙情的な物語作りも上手いですから、2巻あたりはそういう本領部分もどんどん出てきたなあと思った矢先、終了ということで。。。

 この終わり方なら続きを描くことはできると思うんですが、どうでしょう?

 色々な整理に少し時間が掛かるかもしれませんが、いつか続編を期待してみたり。。
 
 ※あくまで勝手に思ったことを書いているだけなので、正しいとは限りませんのであしからず。。

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