C_日常系

2018/05/16

泉ウラタ/吉田真侑子 「死神にだって、愛はある。」 1巻 ノース・スターズ・ピクチャーズ 徳間書店

 死者の魂を天国に導く”死神”が、権限を過剰に駆使して人々に時間を与える。その時間は「30分30秒」。  決められた死にはあがなえませんが、人々は突然与えられた「30分30秒」で、何をしようとするのか。。  オムニバス形式で、「30分30秒の使い方」とその与えられた時間で考え、得られた何かについてを綴った、そんな作品です。

 この「30分30秒」は、必ず誰にでも与えられるべきものではなく、「特別な場合」に限って与える事が出来るもの。それをとある死神が、全体に対してどのくらいの頻度かは判りませんが「連発」するわけですね。

 彼らは死に行く者の側に”産まれた時から”つきまとい、それぞれの人生を共に眺め、そして一緒に過ごして行きます(そういう意味で、時空は超越した存在ではありますが、そこはサラッといった感じ(笑))。

 それぞれの物語に登場する人々は、必ずしも未練が残るというニュアンスとはまた違うのかもしれません。けどやり残したこと、自分が付けたかった落とし前について、その「30分30秒」という非常に短い時間の中で、それぞれやり遂げていく事になります。

 物語のパターンは、ある意味で無限にあると思いますが、その「30分30秒」までに至るプロセスが、そしてそれを使ってやり遂げる何かが、一つずつ丁寧に綴られている、そんな感じのお話でしょうか。

 まあ、ちょっと過剰に権限行使しているだけに、すでに1巻目から「お目付」が付いちゃったりして目を付けられている死神くんが、あとはいかに上司も納得のいく「理屈」を作り出していくのか。。

 ネタもそうですが、物語の構成力や説得力、そして読者が納得できるようなシチュエーションが準備できるのか、、結構縛りのキツイ作品な気がとてもしますが(汗)、少なくとも1巻については、それぞれが上手に構成されているなあ、と思いました。

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2018/05/09

武月睦 「やおろちの巫女さん」 全4巻 ヤンマガKCスペシャル 講談社

.  魔王の心臓を取り戻そうと、やおろちが憑いた巫女に日夜アタックする3匹の怪物達の、緊迫もありつつ、どこかのほほんとしたやり取りを綴ったコメディー作品です。

 やられてもやられても、まるで日課のようにそれを当たり前に受け入れ、そしてまた性懲りもなく巫女に挑む怪物3匹は、高校生である巫女の先祖の代から数百年、延々とそれを繰り返しています。
 まあ、そこまで長いと色々とユルユルでもありますが、どちらかというと問題なのは”やおろち”を宿す巫女の方。どっちが邪神やねんというくらい”やおろち”は禍々しく、様々な術で抑えながらも、巫女の体を徐々に蝕んでいきます。代々”やおろち”を卸せるのは血筋の決まった家系の女性のみ。そしてそれぞれが短命に終わる宿命を背負っています。

 所々でその”やおろち”の禍々しさの方が強調されてきましたが、4巻では過去にやおろちを降ろした歴代の巫女達について、そしてそれを”見守る”怪物達の今と変わらぬ行動までを描いています。

 完全に地域の日常に溶け込んでしまい、戦っている時以外は「ウルトラファイト」の怪獣よろしく(笑)、公園やら川辺やらでのんびり時間を潰す怪物達は、長寿命であるが故に、様々な人々を看取ってきた訳ですが、、、はたしてそもそも”悪”なのかどうかも微妙な立ち位置といったところ。そもそも、宿っている”やおろち”は何としても倒して心臓を取り返したいものの、”巫女自身”を倒したいかといえば、実はそれも少し違っていると、、その辺りの雰囲気が、4巻全体を通じて直接的ではなく、長い歴史を踏まえて間接的に語られていく、という感じでしょうかね。

 最初のうちは吉本喜劇よろしく、繰り返しネタの中に、ちょっと人情的なエピソードが入って来るといった感じで、弱冠間延び感もありましたが、4巻までのエピソード全体によって、なんか彼らのその行動原理が、ストレートではなく”何となく察することができる”という感じでまとまったかなと。

 大団円といえば大団円なのかもしれませんが、けど何か全てが解決した感じもしない、少し寂しい叙情感も感じる幕引きなのかな、という気もします。
 彼らは彼らで、巫女も含めていろんな意味で時を大切にして、そして楽しみ満足しているわけですけどね。

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2018/04/13

佐藤宏海 「いそあそび」 1巻 アフタヌーンKC 講談社

 コンビニもゲーセンも何もない、海辺の片田舎のとある街の片隅の、さらに旧道の脇の空き家に、突如<お嬢様(元)>が襲来。都会から急にど田舎にやってきて、ちょっと通常では考えられない四苦八苦(?)をしている彼女と、偶然にも出会ってしまった生きもの好きな少年との交流を描いた、生きものサバイバル系(?)物語です。

 作品自体のコンセプトもさることながら、キャラ設定が絶妙だなあと思いました。
 父親の事業失敗で、ある意味では裕福な生活からどん底の”自給自足生活”に、日本の片隅で突入した少女(中学生)ですが、田舎の海辺の自然としての当たり前が、当然ながら一人では何一つ解決できないと。
 そこに身近な自然が「あって当たり前」な上に、ちょっと生物の知識も他の子より持っている少年が、「何が食べられるか」から彼女に指南していくことになると。

 と言っても、普通であればそんな”サバイバル”な生活なんて、田舎でもしないわけです。
 けど、どん底に転落しても、人に頼らず借りも出来るだけ作りたくないという、生活力は別としてかなりしっかりとした考え方の少女と、いろいろ知ってはいたけど、それを”生きるため”に活かそうとは考えたこともなかった少年が、何とか手伝ってあげたいと右往左往するという辺りで、それぞれが「ないもの」を補完しあっているなあ、という感じがするんですね。

 作者自身、この少年のように「自分が置かれていた環境の価値」に、言われるまで気がつかなかったくらい、ドップリと田舎の自然を知らずに浴びていた訳で、その価値に気付かせてくれたのが、少女のような「それを価値と認めてくれる」人々、つまりは編集者さんだった訳ですね。

 全く違う価値観を持つ人が出会うことで、いろいろな気づきが産まれる、、、まあ勿論、ぶつかり合って理解が出来ないという悲劇も起きることはありますけど、この作品では、良い方向で「田舎の自然の良さ」に、住んでいた人達が気付かされていく、といったところでしょうか。

 まあベースが実体験と、田舎の魅力に気付いていなかった(・・・もしかしたら、まだ半信半疑かもしれませんが)御本人の価値感なので、作品の流れや生物の描写については何の違和感もなく楽しめます。それ以上に「食べる」という部分にある程度特化しつつ、いわゆる(多少流行の)狩猟系漫画とはまた少し違う、もっと地に足が付いたような流れと共に、どこか青春系の雰囲気もあるのがいいなあ、と思ったり。

 タイトルは「いそあそび」ですけど、遊びというよりは、住んでいる場所のとなりに普通にある、凄い自然というわけでもないけど、いろんな意味で豊かな”田舎の自然”を楽しく満喫できる、そんな作品かなあと。
 

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2018/04/06

みよしふるまち/縞田理理 「台所のドラゴン」 1巻 ジーンピクシブシリーズ KADOKAWA

 東欧「風」なとある国に留学した自然や動植物が好きな画家志望の女性が、とあるきっかけで部屋の中で見つけた卵から、トカゲとも何ともよく解らない動物が孵化してきます。  いつしか、種類も判らないその生きものと、東欧の「ドラゴ(いわゆるドラゴン)」伝説が重なっていき。。。

 偶然出会った生きもの(どう見てもドラ(ry )と一緒に、遠い東欧の片田舎の小さな小屋で一人暮らしをする少女(見た目)が、絵画学校に通いながら、狭い小屋(寝室も台所も一部屋)で日々を過ごす、そういう作品です。

 ”ドラゴン”がメインと言えばメインなのですけど、あくまで「急に現れた同居人」。ペットといえばそうなんですが、彼女にとっては先輩として部屋に棲み着いているヤモリと同等扱い。「一緒に住む隣人」といった雰囲気な気がします。ストーリーのメインはあくまで、日本を飛び出し、知人も最小限しかいない東欧のどこかの国で、自分が何をしたいのだろうという部分を探し、小さく悩みながら、「一緒に住む隣人」に癒やされる(時に振り回されますが(笑))といったところ。

 ざっくり言えば、若い女性の絵画を通じた自立への歩みと、その生活をちょっと潤してくれる、小さな”隣人”との交流を描く作品、と言った方がいいんでしょうかね。。

 原作では主人公はもう少し”年上”なのだそうで、コミックスにするに当たって、原作者も交えて年齢設定は下げたそうですけど(見た目が”小さい”のはまた別な気がしますが(笑))、どこか落ち着いて大人びた雰囲気を醸し出しているのは、その原作の雰囲気が残っているのかもしれません。

 とりあえずまあ、ドラゴンの漫画というよりは、東欧の田舎で自立を目指すレディー+可愛い動物+ファンタジー要素がほんのり、と言った塩梅の作品だと思ったらよろしいかと。
  

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2018/03/23

泉一聞 「テンジュの国」 1巻 KCデラックス 講談社

 チベット地方の小村で、主に薬草などを使った医者見習いの青年のところに、別の集落から親に背負われ、花嫁候補がやってくる。。

 アジアの山村の生活や、集落ごとに違う風習などをを紹介しつつ、親が決めた結婚とは言え、若い二人が少しずつ心の距離を縮めていく、そんな物語です。

 基本、主人公が薬草バカでのんびりした性格なところに、慎ましくおしとやかな少女がやってくる、ということで、住み込みとなった少女との間で、ギクシャクしながらも少しずつ親好を深めていく、そんな雰囲気ののんびりとしたアジアンチックなお話です。

 この系統の作品としては「乙嫁語り」がありますが、あちらは中央アジアからカスピ海までの範囲で、遊牧民的な部分が強いですね。チベットの方は放牧もしていますが、山岳地帯ということで、いわゆる山岳民族的な雰囲気があり、似ているところもありますけど、また少し違った味付けです。

 まあ、村の数だけ民族があるみたいな感じで、本当に小さな人々の集まりが独特の文化をそれぞれ育み、それでいて遠い地域の他民族との交流も盛んという、ネパールからチベットにかけては、国という単位とはまた違う世界観ですよね。

 南へ行けば印度という、これまた数百の民族がひしめき合うカオスな世界ですが(笑)、そちらは伊藤勢さんにお任せするとして(違)、とりあえずどこかのんびりとした(村の生活がのんびりというよりは、主人公がのんびりし過ぎ(笑))、そんなアジアンな雰囲気を楽しめます。

 次巻はちょっと”すれ違い”もあるような予告になっていますけど(知らない人を助けるかどうかというのは、単なる道徳的な問題だけではなく、集落への危機が及ぶかどうかという結構シビアな問題・・・?)、まあこの2人なら乗り越えられるでしょうかね。
 

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2018/02/28

今井大輔 「セツナフリック」 全1巻 ヤングチャンピオンコミックス 秋田書店

 近未来の登場人物達の微妙な心情とその変化を描く、そんなSF(スコシフシギナ)短編集です。

 いや、SFという括りは適切ではないかもしれません。作品を通して語られるのは、「もしも○○ができたら」とか、「もしも○○が○○だったら」という、ある意味、誰もがふと「こうしたら便利かも知れない」という事柄が<実現>した近未来であり、それが当たり前のように社会に浸透している、という世界です。

 実現性は別としても、あくまで<それが浸透し、当たり前になっている>ということがミソです。そんな世界で、「それをどう使うか」は個人の裁量というか使い方によります。そしてある意味では「依存症」などの社会問題にも発展し、「発売禁止」となるテクノロジーもあると。

 そういう「個人の使い方によって、黒にも白にもなる」という部分に、この作品はフォーカスを当てているんですね。

 運が好きなように使いこなせたら、意識をロボットに移せたら、バーチャル世界に没頭し過ぎたら、そしてあらゆる身体能力がインストールできるようになったら、etc.

 そんな世界設定の元で物語を描く場合、その世界全体を「群集」として、ある意味現代人から見れば狂気な世界として描くか、それに反発する登場人物を描くか(その世界に疑問を抱く、あるいは他の世界から来たという形など)、というのが、ごく一般的なセオリーだと思います。が、この作中ではあくまで空気のように「あたりまえのもの」として描かれているだけで、そのテクノロジーの詳細にはまったく触れず、家電製品の如く、「それを使って何をするか」が、この作品で焦点を強く当てている部分です。

 絶望的な状況に陥る、という状況はこの作品の中ではあまりありません(無い、とも言えませんけど、個人的にはそこまで最悪な状況に陥ってるようにも見えない)。あくまで「最新テクノロジー」を使いこなし、日々を生活する「普通の人々」の日常と喜び、挫折を描いた、そういう作品だということです。

 50年以上前の人々は、50年後には誰もが携帯電話(スマホであれば、パソコンと言ってもいい)を持ち歩いて生活しているなんて、想像も出来なかったでしょう。その頃なら、なんか百年以上未来なら、、というイメージでしたが、数十年で実現してしまったわけです。空中に画面が出るなんてのも、ヘッドアップ・ディスプレイは既に実現済で、普及段階に移行しつつあります。空中で機器を操作なんてのも、実験段階ではクリア(手を振るだけで音楽奏でたり、ゲームしたり)。何より「O.K.!○○○le」なんて声で機器を操作しちゃう世界が、お茶の間で使えるようになってしまいました。これなんか10年前の人達でも、こんなに早く実現するなんて思ってませんでしたよね。。

 そんな数十年後の「ちょっと便利になった未来」で、人々は新たなテクノロジーに囲まれ、どう生きているのか。。

 作者が意図して、または意識ているかは判りませんが、少なくともこの作品を実写にするとした場合、作中でCGや特殊技術が必要な部分は<ほぼ皆無>です。やろうと思えば、そのまま小道具を少し作る程度で実写化できますし、あるいは演劇でやるのにも耐えられるかもしれません。

 ある意味、こんな作風がこの作品の「味」であるとも言えますし、想像を超えた凄い世界ではない分、誰にでも読めるライトなSF作品であるとも言えるでしょう。どちらかと言えば、作品の世界観より、どんなシチュエーションでも「その中で足掻く人々」を、色々な角度から描くことに注力している、そういう部分に着目すべきな作品だなあと。

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2018/02/19

美代マチ子 「ぶっきんぐ!!」 1巻 裏少年サンデーコミックス 小学館

 美大を出て画家を目指すも挫折しかけ、放浪する中で入り込んだ街中の小さな本屋さん。。  とある事件をきかっけに、そこで働くことになってしまった主人公と、やる気のない店長代理との奮闘を描く、本屋再生物語です。

 本屋の日常業務や取次との関係など、本屋素人の主人公が働きながら知ることになる様々な問題が、作中で淡々と綴られていきます。本屋さん専門の問屋さんが神保町にあるなど、本屋さん経営に関連したウンチクも掲載され、本屋さんを経営してみたいとか、働いてみたいと思っている人などには、色々と有用なお話も掲載されています。

 そういう中で、街中にぽつんとある、チェーン店でもない中小書店の課題が山積、、、という部分が如実に描写されていきます。特に大きいのはやはり万引きですね。漫画1冊でも万引きされれば、その損失分を回収するためには数十冊以上売らなければいけないという理不尽さ・・・。しかし、万引き対策とはいっても、人の目を増やすか、高価な商品はレジ近くに並べるとか、限度があります。監視カメラを大量に付けるにしても、まあ最近は単価も安くなっていますが、数十万円以上の投資と運用ノウハウも必要です。

 そしてもう一つの大きな問題は、「無い本を注文しても、届くのに1週間~10日以上掛かる」という大問題です。これは機械的に取次からの配本だけを扱っていたり、新刊を注文しても必要部数を廻せて貰えない中小書店で起きまくる事態。そんならAmazonで買うわ、ということにどうしてもなってしまいますよね。実際、出来るだけ私は本屋で本を買いたいと思っているんですが、マイナー本ばかり買おうとするもんで、数軒の本屋を探し回っても新刊本なのに<無い>ということが発生します(大きな書店でも売り切れて消滅している)。その場合、1週間くらいで諦めて(でないと買い忘れてしまうので(汗))、Amazonで注文することはあります。。

 1週間も本を探し回って彷徨うなら、決まった本屋で注文すればいいじゃん、と言われればそうなんですけど、やはり出来るだけ早く読みたいという気持ちもあるわけで、じゃあAmazonで買えばいいじゃんと言われればそれもそうなんですけど、「本屋さんに頑張って欲しい」という気持ちがあるわけです。。

 妙なジレンマを毎日体験している昨今で御座いますが、「取次」を含む再販制度が中小書店を救ってきたという一面もあるものの、この大手偏重で出版社都合なシステムが根本的に変わっていかないと、少なくとも中小書店の未来は無い、、、と言えると思うんですよね。


 時系列的には現在(2018年)から10年前くらい、という時間軸である点には、一つ留意しておく必要があります。・・・これは暗に、「今でも通用するのか」という根本的な問題への暗示・・・でもある気がします。勿論、この時期を描いているのは、作者が自分の働いていた経験を活かすため、だとは思うんですけどね。

 10年経っていまどうなっているかと言えば、Kindleを筆頭とした電子書籍が、特にコミックス市場を席巻しており、業界の総売上げで見れば、紙ベースの出版金額とほぼ同等の市場規模となっています(ちなみに電子書籍の8割が、コミックスで占められています)。さらに言えばスマホで配信されるような媒体でコミックスが大量消費されており(この金額については電子書籍にはカウントされていないはず(カウントしようもないので))、紙ベースのコミックスは衰退の一途という状況です。

 まあ本は漫画ばかりではありませんが、実際に漫画の売上げが書店に貢献している比率は、雑誌に次いでやはり高いのが現状です。街中で生き残っている中小書店を見る限りにおいては、個性をウリに特定の分野に特化(芸術系とかサブカル系とか、特定の趣味系等)するというのが、一つの逃げ道というべきか、生き残り策の一つではありますよね。。これはある意味、この本でも取り上げている”救済策”の一つでもあります。

 けどそれが、どんな規模の書店でも通用するかと言えば、やはりそうではないよな・・・と思います。

 うちの近所で潰れた書店は3~4軒くらいは憶えています。小さな零細な書店で、雑誌等の取り置きで何とか凌いでいたような、そんなところばかりでした(憶えている限りは)。それがじゃあ、色々な方法を駆使すれば救えたかと言えば、、、それは多分無理だったでしょう。最低限、ある程度の広さと品揃えは必要だと思います。縦長で10畳もないような小さな本屋は、消えるべくして消えたということでしょうね。。

 この作品を読んでいると、色々な想いが頭の中を錯綜しまくるんですが、「応援したいけど出来ないもどかしさ」が特に強いんです。そしてPOPを作ったり特設コーナーを作ったり、サイン会を開催したりという頑張りは、色々な書店でも実際に見かけます。が、それは店主や店員さんを含めて「特定の人の頑張り」で維持されているものであり、その人が何らかの理由で辞めてしまえば、そこでプツッと切れてしまうものでもあります。。

 知り合いが居たわけでもないんですが、よく利用する書店の品揃えが如実に変わるということを、何度も見てきています。平台の作り方から新刊本の並べ方、そして既刊本にどんな本を並べるか、全て店員さん達の個性が表れる場所です。そこがガラッと・・・大抵は悪い方向に変わるのを目にする時、とても寂しく感じるんですよね。。

 色々な意味で「本屋さんを経営すること」が、過酷なデス・レースに成りつつあるいま、既存作品の愛蔵本化、文庫化や、簡易製本でコミックスに並べ続ける出版社(要するに、過去の遺産を再消費し続けているだけ)、大口の大型書店やチェーン店相手をしていれば食いっぱぐれがない取次問屋、再版システムがあるからと惰性で経営し続けている中規模以上の書店など、作家をどう育てていくかも含めて、真剣に考えなくてはいけない時期に、2018年は突入しつつあるんではないかなあと。。

 電子書籍は避けられない波です。私も完全に乗り遅れてはいますけど(色々な事情がありまして・・・)、毎月数十冊も購入している漫画を、どういう形態で買っていくかという部分を、今年は改めて考え直そうと思いました。

 この作品はある意味、長年モヤモヤしていた部分をハッキリと再認識させてくれて、そして書店の理想と現実について改めて考えさせられるきっかけを与えてくれた感じがします。
  

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2018/02/12

島崎無印 「乙女男子に恋する乙女」 1巻 星海社COMICS 講談社

 幼い頃のトラウマで男性恐怖症に近い女子高生を、電車の中で助けてくれたのは、どう見ても女性にしか見えない「女装男子」の”ゆき”で、、、様々な友人達も絡んでの複雑なお話の始まりです。

 対人恐怖症的に男性を怖がる主人公ですが、この「綺麗な男の娘」はさらっと男性であることを早速カミングアウトしますが、何故か彼(?)だけは平気。「男の娘カフェ」で働く彼(?)とも徐々に仲良くなるわけですが、当たり前ですがそれを心配する親友と、密かに彼女に想いを寄せる同級生(男子)も、この複雑な物語に巻き込まれていきます(笑)。

 「ココロは乙女」にも、実際のところ色々とあるわけですが、この物語の女装男子は、キラキラしたものが好きで女装をしているのであって、恋愛対象は男性という設定になっています。LGBTにも色々とありますけど、それも少し絡めつつも、かなりソフトに”男の娘”を描いている感じでしょうか。

 この作品である意味、感心したのは登場人物達の心理設定や行動原理が、「こういう状況ならこうするよな」「こうなったらこう考えるよな」と、まったく無理がないので、すーっと物語の中に入っていけて、そしてそれぞれが色々な想いを持ちながら、自然に行動していることかもなあ、と思いました。

 まあ男の娘をどう描くかも色々とあるんですが、ある意味、ヒロインだかヒーローだか複雑な「ゆき」は、本当に可愛いものが好きなだけで、そういう物を身につけてみたいと素直に思うだけの、そんな”男の子”だったわけです(巻末の番外編で触れられていますが)。そういう意味で、ある意味では非常に判り易い性格でもあるので、何というか「感情移入も案外し易い」キャラ設定だなあと。

 そして多少ネタバレになりますが、密かに想いを寄せていた男子も、何気に料理が上手くて女子力高いが為に見事に”巻き込まれ”ていったり(笑)、親友は親友である意味がさつで男の子(少年)っぽさのある設定となっており、それぞれのキャラと対照的な立ち位置を演じていたりと、いろんな意味でバランスが絶妙だなあと思ったりしました。

 ”男の娘”を描く作品もあまたありますけど、ちょっと独自な方向性を感じる、そんな作品かなあと思いました。

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2018/01/22

ワキサカ 「アイちゃんとえほん」 全1巻 ビッグコミックス 小学館

 帯にもある「昔話がえらいことになっている」は、読んでみないと弱冠判らないかもしれませんけど、主人公はとりあえず絵本好きなアイちゃんと、その朗読に付き合うお父さんのお話が軸になっています。

 問題は、アイちゃんが持ち寄る「絵本」の中身です。まあ詳細は読んでからのお楽しみ(?)ですが、しっちゃかめっちゃかに漫才用に書き下ろされたかのようにアレンジされています(笑)。

 この”謎”の絵本を提供しているのは、アイちゃんのお話を総合すれば「謎のおばあさん」のようなのですが、まるで某諜報部員の如く、様々な場所に潜伏しながらこの「謎アレンジな絵本」をアイちゃんに提供し、そしてお父さんは、ノンストップで怒濤のようにツッコミを入れざるを得ないという。。。

 そもそも、誰もが知っているメジャーなお話を、しっちゃかめっちゃかにアレンジしまくってる訳ですが、何でか最後には「いいお話」にまとまっちゃうという、ツッコミ入れてる方も力が抜けるというか、全面的に批判できない内容であったりするんですね。その辺りが、「謎のおばあさん」の意図が最後まで読めないという「うやむや感」と相まって、妙な読後感を与えてくれるというか、そんな作品になっています。

 まあ何というか、純真無垢なアイちゃん(天然のボケ役)と、的確に延々とツッコミをせざるを得ないお父さん、そして暗躍する謎のおばあさんと、童話の主人公達をのぞけば登場人物は結構少ないんですが、それぞれのキャラが立っていて、アレンジされた童話の先の展開が全く読めないという事もあり(笑)、ぐいぐいと読まされてしまうという不思議なパワーがあります。

 有名な昔話を面白おかしくアレンジするなんて遊びは、子供の頃は誰もがよくやった経験があると思います。それを大人風に上手に”最後になんだかいいお話になるように”アレンジしてあり、そしてその語り部である2人のやり取りが天然な漫才状態となっていて面白く読ませてくれる、そういうところがちょっと新しいのかな、と思ったりもしました。

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2018/01/19

本間実 「元女神のブログ」 1巻 モーニングKC 講談社

 元神属性な存在(吸血鬼等も含む)でありながら、人と恋に落ち、そして人として生きるという選択肢をした”女性達”の、子育てとその生き様について描いていくという、少しベクトルの変わった作品です。

 ファンタジー世界の主人公達が、現代社会下で「子育て」という現実的な問題に直面していき、”自分の存在は何か”を悩み考えていく、という物語ではあるのですが、読んでいけば判りますが、これは「出産・子育てのために”退職”せざるを得なかった女性の方々」の悩みを代弁している、とも言えるかもしれません。

 泉の女神であった過去から、神々しさをどこか失い、「普通の主婦」となってしまった主人公。「最初の頃の神々しさが無くなった」という義父の言葉から、様々な思いを巡らしていくことになりますが。。

 ちなみに”元”泉の女神である彼女を中心として、様々な人間生活を頑張る元人外の「母親達」が、オムニバス形式で登場し、それぞれ個別に感じる生活の悩みなどが描かれていきます。

 ある意味、本作の救いといったらアレですが、それぞれの母親が自分の子供を「ベタ惚れ」している、という部分は有り難いなあと思います。近年人気となった「コウノドリ」でも、出産の大変さのほか、仕事への復帰の壁、育児上の様々な悩みから、「ネグレクト」を引き起こしてしまう女性なども描かれていますが、ある意味、相談相手がいなければ、誰でも陥りかねない精神状態だとも言えます。

 そんな中、そういう逆境や苦労を「子供の可愛さ」ではね除け、自分なりの生き様を見いだそうとしていくこの作品の場合は、ちょっとベタベタ過ぎるところが人によってはアレかもしれませんけど、ある意味では子育てでどうしても失う事になるものを、「子供達が補填してくれる」という、ポジティブな描き方をしてくれている、という感じがします。

 世の中、そんなに上手くいく話ばかりではないのも確かですけど、多少なりとも失ったものより、もっと大きなものを得られる、「子育て」はそういうものなんだろう、と考えさせられる部分もある、そんな物語が綴られています。

 今後の展開としては「元の仕事への復帰」という壁へのチャレンジ、という部分も描かれていくのかな、という気もしたりします。もっとドロ臭い世界だという事は重々承知の上で、様々な種族ネタを活かして、どういう物語を描いていくのか、ちょっと楽しみな作品です。

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