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2018/06/01

伊咲ウタ 「ブキミの谷のロボ子さん」 1巻 電撃コミックスNEXT KADOKAWA

 AIの発展により、宅配便もAIロボが運び、店もレジも基本的に無人、そんな近未来で一人、人を避け、トレーダーとして生活している(いわゆるコミュ症)男の元に、法で規制されている人型AIを名乗る少女型アンドロイドが送りつけられてきます。「人間とは何か」について学習するために。

 人との関係が上手くいかず、許される限り独りで生活することを謳歌するコミュ症男に、一体「人間とは何か」の何を教えることが出来るのか?必死に”ロボ子”を追い出そうとするものの、落語のように屁理屈を並べて言葉攻撃をかわされまくります。そもそも、AIとして何だか行動がズレている上に、半端ない気合いで作られた”超美少女中学生”型の外観のため、周囲の眼もあり、、、なし崩しに同居というか「置いておく」ことになってしまった男の元には、身内である妹が突然訪ねてきて。。(いや、何日も前に一応連絡はしておりますが)。

 コミュ症の主人公から、人間とはなにかなんて学べるの?という辺りから設定がすっ飛んでいますが(笑)、妹やその家族との関係を紐解く物語の流れの中で、極端に人との関わり方を恐れ、自分の考えを人に押しつける事を躊躇するようになった主人公の行動や心情が徐々に描かれていくことになります。

 紐解いてみれば、極々ちょっとしたすれ違いや言葉の捉え方の違い程度の、そんなやり取りのズレや、些細な考え方の違いからの行き違いが過去にあっただけの話。普通にその辺に普通にいる”人間”の悩みと葛藤、そしてそこから逃れようとする逃走本能に従って行動しているだけ、、、と言うことが明らかになっていきます。

 ちょっと妹の行動と言動もブキミというか、恨みもあるのかかなり”ダーク”な部分も感じられたりしますが、それも何かのキッカケ等があっての事なんでしょう。それも追々描かれていくのだろうと思います。

 それぞれの登場の仕方から何から、結構突飛ですが(笑)、物語を薦めるに連れて、色々な謎や心に引っかかっている何かが明らかになっていき、恐らく心の中にわだかまった何かが、超天然AIな”ロボ子さん”によって、徐々に紐解かれていく、、、そんな物語になるのだろうなあ、と思ったりします。

 まあ実際のところ、”ロボ子”の目的も妹の何も、ハッキリとはしない部分もあります。そんな謎を紐解きながら、ロボ子さんの暴走を楽しむ(笑)、そんな作品なのだろうなあと。

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2018/04/25

赤瀬由里子 「サザンと彗星の少女」 上下巻 リイド社

 地球が様々な宇宙人とも交流し、生活している数百年後の未来、他星人の居住用の小惑星の整備を生業としている青年サザンは、ロケットバイクに跨がる一人の少女と出会い、そして大冒険活劇へと巻き込まれていく事になります。。

 あらすじ云々は読んでからのお楽しみとして、この作品は非常に独特な雰囲気を醸し出しています。
 独特といっても、いわゆる雰囲気は1980年代のアニメの世界ってところでしょうか。何しろこの作品、<全フルカラーコミックス>な訳です。そしてカラーインクのような着色だなと思ったら、水彩で彩色しているっつーんですから、まあノスタルジー感を感じるのも当然でした。
 ※フルカラーで、1000円台/冊という価格帯に抑えるというのも凄いですが。

 全て彩色されているが故に、動き的にはあまり激しい描写がされるのではなく、イメージとしては昔のアニメのフィルムコミックス(アニメの画面をコマ割したもの。最近はあまり見かけませんが)といった雰囲気です。

 そこを冗長と感じるか、一周まわって新鮮と感じるかは人それぞれですが、WEBコミックとして発表され、それなりに掲載時に人気を獲得できたということは、単なるノスタルジーを感じた人だけが引き込まれた訳ではないのでしょうね。

 SF的な要素もかなり入り込んでいますが、その辺りの考証はまあ大きな問題ではなく(笑)、そういう意味では<おおらかにサイエンス・フィクションを楽しむ>というコンセプトだと言えるかなと。

 結構なスケールで離ればなれになったり、迷惑が掛かると遠ざかる彼女を追いかける、特に凄い特殊能力があるわけでもない等身大の主人公は、感情移入しやすい部分もあり(けどまあ色んな意味でムチャクチャですが(笑))、敵対する謎の飛行船のボスと彼女との、ある意味では共通点に至るまでのストーリーなど、いい意味での<スペース・オペラ>として存分に楽しめる、そんなエンターテイメント作品になっているかなあと。

 微妙な懐かしさ(笑)と引き込まれるようなストーリー、そしてアメリカ映画的な大団円など、、、最後の方はセオリー通りに「こうなるよな」って、どう読んでもわかるんですが(笑)、けどなんか判っている結果なのに、のめり込んで読んでしまっている自分がいました。

 そういう意味で、漫画ではあるんですけど、映画的な手法も使って観客を引き込むような、そんなテクニックも使われているような気がします。これは全てのページを極彩色で装飾した、そういう色彩センスの良さも大きく貢献しているのかもしれません(よく考えたら暗い宇宙の話なのに、本当に色彩豊かなんですよね(笑))。
 

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2018/04/23

サメマチオ 「魔法少女サン&ムーン〜推定62歳〜」 全1巻 BAMBOO COMICS 竹書房

とあるキッカケでコンパクトを手にした二人の少女は、返信する度に復活してくる大魔王と戦いうわけですけど、「変身している間は時間が止まる」というより「身体時間が変身前まで巻き戻る」事に気がつき、、

 そして数十年以上が経過したある日、ペアの一人がガンで余命三ヶ月であることが判り、年老いた彼女達は、再び<魔法少女>への変身を繰り返すという行動に出るわけですが。。

 おばーちゃんが魔法少女になる、というお話は、「××ですけど魔法少女になれますか?」でも丁度出てきたネタですし、他にも作品はあると思いますが、この物語の場合には、ベクトルが全く違う方向に向いていて、コメディーのように見えて全くもてシリアスなストーリーが展開する、魔法少女ものというより、ファンタジーSF作品と言った方がいいんじゃないかな、という。

 悪く言えば、コンパクトを使うと大魔王が復活する、というくだりは<とても雑に>扱われています(笑)。彼女達も気がつきますが、大魔王が復活するから魔法少女になれるのではなく、魔法少女に変身すると、セットで大魔王が復活し、やっつけると変身が解ける、という形です。けど、コンパクトの正体も、魔王の正体も、結局は深く語られる事もありません(そこは重要ではない、ということでもあります)。

 そして先にも書いたように、変身直後の身体時間に戻るということは、繰り返し使えば使うほど<(彼女達の)時間が止まる>ということを意味します。そして、彼女達の時間は同級生達や同年齢の人々よりも若いままの状態が維持されますが、コンパクトが記憶している「身体時間」は、ある程度時間をおくと(数ヶ月くらい?)リセットされ、次に変身した時点が”変身後に戻る時間”に更新されます。

 徐々にですけど「時間が遅れていく」事に気がつき、同じ歳なのに若々しいままである彼女達は、次第に周囲から浮いていくようになります。大学生になり、社会人になるに連れて、彼女達も変身をすることを止め、やがて人並みに結婚もして、、という段階まで行きますが、そこに至るまで、非常に紆余屈折な人生を”二人で”歩んでいきました。

 この作品では、余命3ヶ月を孫の顔を見るまでは伸ばしたい、という必死の思いのために、再び<魔法少女>に変身することを決めた彼女達の、そこまでに至る過去の履歴が綴られていく、、、そんな作品といっていいかもしれません。

 ここまで読めば概ねこの作品が「コメディーではない」という事は判ると思います。まあシニカルなコメディーとも言えないこともないですし、自分達は自分達なりに、大魔王と戦うことも一つの使命だと思っていた時期もあります。

 けど、コンパクト自体が「時間を止めるための道具」としての機能しか実はなく、その効能を判った上で再び使おうという決断に至るまで、一応62年も生きてきた彼女達は、あるときには浮かれ、あるときには悩み、人々と違う時間軸の中でそれなりに悩み、考え、そして苦労を重ねてきたと。。人生を変えた「コンパクト=魔法少女との出会い」が、本当に良かったのかどうか、そしてこれからの人生をどう生きていくのか。。非常に示唆に富んだストーリーになっています。

 彼女達は後悔のない人生を歩んだのかどうか、そんなことを色々と考えさせられる、そんな作品です。

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2018/04/19

山城良文 「反逆のオーバーズ」 1巻 BEAM COMIX エンター・ブレイン

 数々の超能力を持ったヒーロー、通称「オーバーズ」達が、互いに争い、そして世界が崩壊したのち、復興しつつあるとある世界。。

 オーバーズは「悪」というレッテルを貼られ、残党は管理組織によって追われ、そして消されていく、、、そんな世界の中で、オーバーズに憧れる一人の少年が大戦を生き残った超能力者達と出会い、管理局と反逆する彼らとの泥沼の戦いに巻き込まれていく、そんなお話です。

 まあ、彼自体がこの戦いの始まりでもあり、そして”鍵”となる人物ではありますけど、ヒーロー達が反逆者として追われ、消されていくという世界観、そして平和を愛し人々を守る筈のヒーローが「そうではない」という辺り、常識的な部分を壊しながら、追われる身となったヒーロー達と、管理局に協力する”元”ヒーロー達の、壮絶な戦いが繰り広げられます。

 まあ、1巻だけではまだストーリーの全体像は見えてきませんが、ストーリーの構成や魅せ方については、アクション系少年漫画として、既に十分過ぎるくらいの領域には達しているかなと。

 物語は、かなり残酷な方向に流れていくのか、本当の意味の「正義」は何なのか、これは2巻以降の展開を乞うご期待、といったところでしょうね。流れ的には、面白いと思った人は裏切らない展開となっていくかな、と思いますが(希望的観測)。
  

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2018/04/11

坂木原レム 「ペンタブと戦車」 上下巻 まんがタイムコミックス 芳文社

 コミケ修了の帰りに会場で発生したカスミに飲み込まれ、”萌え系”擬人化戦車オタクが飛ばされたのは、昭和14年のノモンハンの日本戦車部隊の目の前。。  そこで出会ったのは、擬人化キャラに理解を示し、、、、示しすぎてコジレまくる戦車長と、自分の子孫達の面々、、、。

 兵器は好きだけど実際の戦い=殺し合いは望んでいない、そんなミリオタな主人公が逃げつつも実戦に巻き込まれ、そして”自分の存在の危機”に直面しながら、自分の能力を駆使して解決策を模索していく、そんな物語です。

 タイムスリップした先で、”擬人化戦車絵”を武器に(?)様々な騒動に巻き込まれ、さらに日本軍の戦車部隊と、当時のノモハン周辺の状況など、マニアックな軍事ネタが満載な上に、SF的にも<超変則球>を投げ込んでくる、タイムスリップSFミリタリー作品ですな。。

 この辺の時代考証は詳しい人に譲るとして(しかしまあ、軍服の襟の形から戦車自体の配備の状況から、結構細かく調べられています)、タイムスリップものとしては、ちょっと異色な流れもあり、予想をどんどん裏切っていくは、平行世界だからと歴史も微妙に変わっちゃうわ(笑)、そしてある意味、本能のままにオタ絵を量産し続けたりしながら戦う、主人公と一緒に飛ばされた先輩などなど、まあ本当に<予測不能>なSFコメディー作品です。

 本物の歴史では戦士することとなっていましたが、完全に擬人化された89式にのめり込み、「俺の嫁」にしちゃう戦車長のその後などなど、、、変な話、アンソロジーで「もし○○が××だったら・・・」とやってるような内容が、完全に本編でやられちゃってるんですから、もう変則球としか言い様がありません(笑)。

 そしてパラレルワールドでもしっかりオチも付いているという、、SFとしても変化球ながら、なかなか凝った作りの作品でもあります。

 命の取り合いである戦場でありながら、そういう面はあまり強調し過ぎず、けど主人公はそれなりに葛藤していくという、リアルな戦争というよりは少年向け&アニメ的な味付けではありますけど、当時の価値感なども踏まえた作品全体の構成は、人間模様の物語として、そしてSFとして楽しく読めるんじゃないかな、と思います。

 ちなみに、、、結局最後までペンタブ(ry

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2018/02/28

今井大輔 「セツナフリック」 全1巻 ヤングチャンピオンコミックス 秋田書店

 近未来の登場人物達の微妙な心情とその変化を描く、そんなSF(スコシフシギナ)短編集です。

 いや、SFという括りは適切ではないかもしれません。作品を通して語られるのは、「もしも○○ができたら」とか、「もしも○○が○○だったら」という、ある意味、誰もがふと「こうしたら便利かも知れない」という事柄が<実現>した近未来であり、それが当たり前のように社会に浸透している、という世界です。

 実現性は別としても、あくまで<それが浸透し、当たり前になっている>ということがミソです。そんな世界で、「それをどう使うか」は個人の裁量というか使い方によります。そしてある意味では「依存症」などの社会問題にも発展し、「発売禁止」となるテクノロジーもあると。

 そういう「個人の使い方によって、黒にも白にもなる」という部分に、この作品はフォーカスを当てているんですね。

 運が好きなように使いこなせたら、意識をロボットに移せたら、バーチャル世界に没頭し過ぎたら、そしてあらゆる身体能力がインストールできるようになったら、etc.

 そんな世界設定の元で物語を描く場合、その世界全体を「群集」として、ある意味現代人から見れば狂気な世界として描くか、それに反発する登場人物を描くか(その世界に疑問を抱く、あるいは他の世界から来たという形など)、というのが、ごく一般的なセオリーだと思います。が、この作中ではあくまで空気のように「あたりまえのもの」として描かれているだけで、そのテクノロジーの詳細にはまったく触れず、家電製品の如く、「それを使って何をするか」が、この作品で焦点を強く当てている部分です。

 絶望的な状況に陥る、という状況はこの作品の中ではあまりありません(無い、とも言えませんけど、個人的にはそこまで最悪な状況に陥ってるようにも見えない)。あくまで「最新テクノロジー」を使いこなし、日々を生活する「普通の人々」の日常と喜び、挫折を描いた、そういう作品だということです。

 50年以上前の人々は、50年後には誰もが携帯電話(スマホであれば、パソコンと言ってもいい)を持ち歩いて生活しているなんて、想像も出来なかったでしょう。その頃なら、なんか百年以上未来なら、、というイメージでしたが、数十年で実現してしまったわけです。空中に画面が出るなんてのも、ヘッドアップ・ディスプレイは既に実現済で、普及段階に移行しつつあります。空中で機器を操作なんてのも、実験段階ではクリア(手を振るだけで音楽奏でたり、ゲームしたり)。何より「O.K.!○○○le」なんて声で機器を操作しちゃう世界が、お茶の間で使えるようになってしまいました。これなんか10年前の人達でも、こんなに早く実現するなんて思ってませんでしたよね。。

 そんな数十年後の「ちょっと便利になった未来」で、人々は新たなテクノロジーに囲まれ、どう生きているのか。。

 作者が意図して、または意識ているかは判りませんが、少なくともこの作品を実写にするとした場合、作中でCGや特殊技術が必要な部分は<ほぼ皆無>です。やろうと思えば、そのまま小道具を少し作る程度で実写化できますし、あるいは演劇でやるのにも耐えられるかもしれません。

 ある意味、こんな作風がこの作品の「味」であるとも言えますし、想像を超えた凄い世界ではない分、誰にでも読めるライトなSF作品であるとも言えるでしょう。どちらかと言えば、作品の世界観より、どんなシチュエーションでも「その中で足掻く人々」を、色々な角度から描くことに注力している、そういう部分に着目すべきな作品だなあと。

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2018/02/16

杉谷庄吾【人間プラモ】 「猫村博士の宇宙旅行」 全1巻 宙出版

 初っぱなの太陽系<キッチュな宇宙人てんこ盛り>に見事に騙されてしまいますが、読み進むうちにそんな設定も全て<伏線>であることに気付かされ、つい唸ってしまいそうに。。

 とにかく何というか、SF考証を駆使しまくった壮大なスペース・オペラ的な作品になっています。主人公の「宇宙美人ハーレム計画」以外は(笑)。
 ・・・と言いつつ、その行動原理すら植え付けられた脳内記憶であったというオチの凄さに、感服といった感じです。はい。

 最初の設定の不純さ(笑)から、和気アイアイとした太陽系の旅あたりまでは完全に”罠”です(断言)。

 そこからは空間跳躍から古代文明の謎、そして「宇宙の果てには何があるのか」まで、相対性理論から空想科学の粋を尽くしたといっても過言ではないくらい、本当にてんこ盛り。
 そして時間跳躍まで駆使して<全ての始まり>が何であるのか、全ての伏線が綺麗に折り畳まれていきます。そしてラストのオチの何とスピーディーなことか(笑)。

 帯の宣伝文句である「これは、SF好き、冒険好き、漫画好きに贈られた素敵で楽しいプレゼントである!」という言葉だけで、この作品の全てが語られちゃってる気がします。いやまあ本当にこの通りです。読み進むうちに「なる程」と心の中で頷いて納得してしまうことを、何回も繰り返してしまいました。。漫画のストーリーとしても、ホントによく練られているなあと。

 下手にあらすじなんて書く必要はない、上記のキーワードに一つでも引っかかるものがあったら、絵柄に騙されずに「まあ読んでみなさい」としか言い様がない、そんな作品だと”強く”思います。
 

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2018/02/14

椙下聖海 「マグメル深海水族館」 1巻 BUNCH COMICS 新潮社

 深海の生物を紹介し、そして水中展望所でもそれが見られる、そんな近未来の深海専門水族館の舞台裏を描く、空想科学物語です。

 まずひとつ目に、近未来=SFという形を取ってはいますが、扱っている深海生物については実在するものであり、また生態や飼育方法上の問題点なども、概ね最新の知見が生かされている感じがします(ここは細かく見てませんけど)。

 その上で、そういう深海生物を誘き寄せられれば、水族館というかは水中展望台でもある、この施設の目玉になるだろうという、そういう設定ものと、空想科学作品として描かれているのが本作といったところでしょうか。

 水族館を扱った漫画というのも、こうしてみると沢山あります。その多くは「飼育員」と、扱う生物の生態や飼育する上での苦労などのエピソードで構成されています。

 この作品も「空想科学」と言いながらも、そういう文法に倣って構成されていますが、「人がまだ多くを知らない深海世界」へのロマンと共に、そして生きものを扱うという現実についても、しっかりと描かれています。

 現在ある水族館も、様々な展示の工夫や飼育する上でのノウハウで楽しめます。そして深海生物を扱い、展示している水族館も結構あります。恐らくそういう場所でのノウハウなどについても、この作品では取材したり調べるなどして活かしていると思います。

 そういう意味で、生物好きな人でも楽しめ、そうでない人にも「生きものを見せる施設とは何か」について、とあるアルバイト(1巻では)の視線を通じて、結構根本的なところから描いている、そういう作品でもあったりするんですね。

 SF(空想科学)という衣を羽織りながら、動物園や水族館など、生きものを展示する施設の存在意義と、そこで働くためのモチベーション、そしてその施設の可能性について描いているような、そんな感じがするんですね。

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2017/08/18

やまむらはじめ 「SEVEN EDGE」 2巻 ホーム社

 大震災により崩壊し、大阪に遷都したことによって、日本から見捨てられた首都圏。  そこから徐々に復興しつつある、混乱を引きずった無政府状態に近い状況下において、謎の組織からの指示で<暗殺>を行う組織に引き抜かれることになった青年の活動を描く、そんな<必殺>系のハードボイルド作品です。

 一応、秩序は戻りつつあるものの、銃が普通に使われるような無政府状態の首都圏は、少し前によくあった「近未来の世界」に近いものです。

 作品の世界観は、かなり昔の作品になりますが、「境界戦線」のその後、という位置付けになるかもしれません。

 日本が壊滅的に無くなってしまった訳でもなく、位置づけが中途半端な都市で生き残らざるを得ない人々がいる、というシチュエーションは、どこか80年代も彷彿とさせるような感覚もあります。まあ、近未来モノも色々なパターンがありますが、そんな中では結構私は好きな世界観です。

 内容的には”必殺”と書いてしまいましたが、不法地帯の復興といえば、色々な利権やしがらみ、そして金の流れなどもあり、処罰されない悪も当たり前のように闊歩しています。少しずつでも正常に戻りつつあるように見えて、そのような”悪”が暗躍する、そこに入り込む「暗殺集団」が「EDGE」という組織、という形です。

 ただし、その存在自体が絶対の正義という感触もありません。謎のスポンサーから悪事の証拠を踏まえた依頼が来ることで、ターゲットの暗殺が実行されるわけですが、スカウトされた主人公も、元々は銃を持った学生運動家のようなものに近い、組織的には何人も人を殺してきたガンマン。その腕を買われて(ついでに曲芸師のような暗殺少女との成り行きで)「EDGE」に加わることになったわけで、組織に対する不信感も抱えたまま、活動しているといったところ。

 それだけだとちょっと暗い話になってしまうわけですが、前出の曲芸少女や無表情なスナイパーなど、登場人物はどれも個性的で能力も半端なく、かなり際どいミッションをギリギリの判断力とその能力で切り抜けていきます。

 ある意味では正統派のハードボイルド作品、といったところだと思いますね。そういう意味で、こういう銃を本気で撃ち合う作品が最近少なくなったなあ、と思っていたので、ちょっと喜ばしい限りです。

 P.S 余談ですが。。やまむらさんはマニアックな鳥を描くのが好きで、私もとても嬉しいんですけど、たまに生態的な描写がアレな事になっていて、ジレンマに陥るのです。。この作品ではなく、先日完結した「碧き青のアトポス」(全7巻)で、そんな描写があったので、それについて書こうと思いつつ、ずっと躊躇して今日に至ります。。が、一言だけ書いておきます(今頃すみません)。
 「オオミズナギドリは、(カモメと違って)小さなボートの上に降りられません(体の構造的に)。」
 まあ、、、鳥を知っている人にしか判らない話なのですけどね(種名書いてないですから、言われないとどの鳥か判らないでしょうし)。

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2017/08/10

園田俊樹 「シンギュラリティは雲をつかむ」 1巻 アフタヌーンKC 講談社

 レシプロ機が飛び交うという世界観の中で、一寸どういう理由かは分からない、合理性がどこにあるかも判らない<人型>の全身翼航空機と出会うことで、戦いの世界に巻き込まれ、、、いや、飛び込んでいこうとする、ある天才工学少年の軌跡を描こうという作品です。

 設定的には「ラピュタ」の世界観を想像した方が判り易いかもしれませんけど、あれはオーバーテクノロジーの話。こちらは人型とはいえ、各方面の天才エンジニアが、その世界での最先端技術を駆使して作り上げた機械であり、足が地に着いているという部分が大きく異なります(まあ、いわゆるロボットではないので立てませんが)。

 ある意味では、レシプロ機などを超えたテクノロジーとも言えますが、大きな問題がありました。それは「操縦用ソフトウェア」が、30箇所もの可動部分があるメカのテクノロジーにまったく追いついていないというか、その機体が開発された当時、誰も開発ができなかったということです。そのため、その「凄いけど使えない」機体は、谷がちな田舎の小さな町工場の中に、ただ佇んでいるだけであったと。。

 そんな機体が、ある意味では天才肌で自己中、そしてある意味ではコミュ症(笑)の少年と出会い、そして予期せぬ外部からの攻撃により、出撃するというシチュエーションが生まれます。。そして、「レシプロ飛行機」の操縦系から開放されたその機体は、想像を超えた機動を始めることに、、、

 と書くと、結構よくあるアニメーション作品の物語の組み立てなんですけど、この作品の場合、ひと味違う所があります。

 それは主人公である少年が、純粋に誰かを助けたいとかそういう衝動ではなく、「この機械を使いたい」「自分を認めてもらいたい」という欲望に対して、素直に行動することを求められていく、というところでしょうか。。
 親父も開発に何らかの形で関わっていたようですが、豪快ながらかなりの曲者です。
 そして少年は、自分の欲求を叶えるためにはどう行動すればいいのか、それを真剣に考え始め、そして実行し始めると、、、、

 戦闘という非常事態を利用し、そしてクラスメイトや市民達を巻き込みながら。。

 そういう精神面の駆け引きが、この作品のちょっと違った味となっている気がします。ちょっとまだ構成にぎこちない部分もあるんですが、先の物語がかなり気になる作品です。

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