これかわかずとも 「東京カリニク鉄砲隊」全1巻 Kadokawa comics A 角川書店
この作品は、そういう銃猟の入口に立った作者の体験に基づく、誇張のない素の<狩猟の今?を描いている作品じゃないかな、と思います。といって、色々と考えさせられるとか、そんなことではなく、要するに「地に足が付いた狩猟の世界」ってとこですね。
まず狩猟の目的が「食べる為」という点が明確です。勿論、銃を撃つ、獲物を倒すといったところに重点を置いてやっている人もいて、ゲーム性も勿論楽しんではいるもと思います。
が、多くの人は 「自分で捉えた獲物を食べたい」、そして「(きちんと処理したら)ジビエは旨い!!」ってところが主目的であろうと思います。そこに至るまで、数々の<面倒臭い手続き(免許の取得から各種申請から、そして高い銃器の購入、さらに高い保管庫の購入整備等等)>を経るわけですが、時間も含めて全ては「美味しいジビエ」に対する投資であるわけです。
そういうハンティングの実際を、自分の経験を元に描いていくわけですが、この中でも実は「奥さん」のポジションが、結構重要な位置を占めていたりします(笑)。
※表紙に描かれているのは、奥さんとは全然関係のない狩猟仲間のお一人。
奥さんは当然、狩猟自体はせず、家で獲物を待つ立場ですが、コスト意識が高く、様々な機器の購入に大して、厳しく「コストに見合う」かどうかを査定してくれるわけです(笑)。皮を剥がすための専用ナイフの使いやすさに感動し、購入のためのプレゼンをするも、初っぱなはあえなく玉砕したり、けど諦めずに様々な試行錯誤を繰り返すという、なんとゆーか駆け引き(というか家庭内の力関係(笑))が、妙にリアルなんですね。そして思い込んだら突き進む作者と、冷静に成果(要するにジビエの肉)とを天秤に掛ける奥さんの駆け引きが繰り広げられると。
またそれとは別に、目の前に獲物が飛び出てきた時の一瞬の判断も、非常に緊迫感とリアリティーがあって良いです。車両の通行も多い道路を挟んで斜面に現れたホンドジカを見つけた一瞬、人への危険も鑑みて、どの時点で狙い引き金を引くべきか、、、、。
これが戦争なりバイオレンスアクションなりであれば、敵か味方かの判断以外は、先に引き金を引いたものが勝ち、という単純な世界ですが、実際の銃猟の世界では、銃を向けていい方向、角度、そして距離などがあり、見つければ遅滞なく撃てばいいという世界ではない訳です。それを一瞬のうちに判断しなければいけない、というのが、、、ある意味そこも面白いところなんでしょうね。まあ、そのお陰で滅多に獲物を射止めることも出来ない世界ですが(笑)。
そして狩った獲物は素早く丁寧に血抜きして解体し、仲間同士で分けるという、実際の狩猟におけるコミュニティーの重要性についても、きちんと描かれています。映画みたいに一人でじっと獲物を待つ、というのはフィクションとは言いませんが、現実として日本で普通に狩猟をしている人達のリアルではないわけです。
このコミュニティー自体、非狩猟期には有害鳥獣駆除などを請け負う窓口にもなっているので、狩猟期以外にも銃猟はされているという実態も、ある意味では丁寧に描かれていると言えます。
ただ、これはサンデー狩猟者というか、それなりにハンター人口もある関東地方周辺だから、この人数のコミュニティーが成立しているとも言えるんでしょうね、、、
地方に行けば、こんな猟自体が行えないほど、狩猟人口は激減していると思います。実際のところ、ホームグラウンドを離れて地方に狩猟に行く、というのも、手続きも色々あって面倒だろうとは思いますから、なかなか手伝いに地方に行く、というのも限度があるのだろうなと。。
ただ、色々な意味でけものも増えすぎ、シカやイノシシなど、ある程度はコントロールが必要な状況が現実としてあります。単に撃ち殺してしまうゲームハンティングではなく、「それを美味しくいただく」という、こういう狩猟は受け継がれていくべきだろうなあ、と思ったりします。
まあ、狩猟漫画もなんだか色々と随分増えてきましたけど、ノンフィクションに近いながらも上手にストーリーを作ってあり、そして妙なリアリティ(笑)もあるこの作品は、最初にも書きましたが、「地に足が付いているなあ」と思ったりしました(※個人の感想です)。
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