C_サイエンス

2017/09/12

西餅 「僕はまだ野球を知らない」 1巻 モーニングKC 講談社

 実は野球をほとんどやったことがない(やろうと思ったけど自分は競技に向いていないから諦めた)、けど何故か野球への情熱は人一倍、そして論理や科学などを駆使して「頭脳野球」をやろうとする、、、けど、スポーツを実際しているからは相手にされない、ある高校教師。

 そんな中、希望してコーチをしていた(けど監督からは疎まれ、選手からも半ば無視?)高校野球部で、ひょんなことから監督になることに。。

 やり始めたことは、ただの理論野球ではなく、工業高校であることを活かして各種センサーや機器を他の先生に作って貰ったり、3Dスキャナでの解析等も駆使しながら、選手の欠点や癖を矯正していくという、ある意味ではプロのスポーツ選手も取り込んでいる<科学スポーツ>の世界。

 単なるスポ根、身体が動かせればいい、けど思い通りに成績が伸ばせなかった選手達が、少しずつ「変わっていく」自分達の能力を実感し、そして対外試合に挑むことになるわけですが。。

 ある意味、スポーツに「科学”だけ”で」アプローチするという、ありそうですけどちょっと無かったジャンルの作品かなと。いわゆるスポーツ科学などに基づいた合理的な解析、そして修正点が判り易いという利点を、弱小な高校野球チームのレベルで行おうという訳ですから、おいそれと上手くいくかどうかは別です。

 しかし、相手のチームの選手や監督までを徹底的にリサーチ(という名のストーキング)をして、データに基づいた戦略を打ち出す、という辺りは、1巻のここまでは順当に当たっているといった感じですね。

 けど、スポーツというのもメンタルな部分もやはり大きいです。。また戦略と言っても勝負所では賭けに近い部分もある。勿論、そういうものをカンだけでやっているスポーツ選手や監督も多い訳ですけど、そこに「科学」という客観的な視点からの確認が加わることで、また少し変わっていくわけです。

 センスの問題もありますし、科学もカンもどちらも重要ですが、そこにどんな折り合いを今後付けていくのか(主人公は本当に野球を”知らない”んで、必ずまた挫折というのも津波のように押し寄せて来ると思います)、今後の展開がちょっと手に汗握る感がある、そんな作品です。

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2017/08/24

小林銅蟲 「寿司 虚空編」 全1巻 三才ブックス

 まずもってして、この本をどう紹介すればいいのか、という問題があります。

 寿司、、そう。寿司屋の場面から始まるこの作品ですが、もう1ページ目を開いて2ページ目から、全て崩壊しています。

 突如始まる<グラハム数>探求の旅、そして<フィッシュ数>への数学的怒濤の展開、、あらゆる数学記号が飛び交い、数の大きさ=強さという前提で探求される数式の積み重ね、、、

 要するに「巨大数」を追い求めるという数学的なプロセスを、漫画という枠を使いながら、ビジュアル的に魅せてくれるという、、、そういう漫画・・・なのかもしれない何かです。

 というか、そもそも寿司屋であることが何の関連性もなく、異次元と繋がるわ、ヒロインは○○だわ、今どき珍しいくらいの崩壊型<不条理漫画>と化しているんですね。落語的な不条理ではなく、まあ吾妻ひでお的なカオスな不条理というか・・・。

 けどまあ、実際読んでいても数学アレルギーな私には、内容はちんぷんかんぷんなんですが(こらこら)、関数を使いながら展開し続け、数式だけで4ページ以上ズラズラと並べることで<数学をビジュアル的に表現する>という事をしているところが、何というか凄いなあと思ったんですね。

 内容は理解できなくとも、そのプロセスの面白さ、展開を続けていくと、あるとき突然、左右で消せる数字や枠が出てきて、そしてかなり単純な数字と記号の関数が導き出されてきた時、解りもしないのに(爆)、なんだか「・・・美しい、格好いいかもしれない。。。」と思わされてしまったりします。

 正直、この作品はどういう人が読むべきなのか、勧める相手がよく判らないという感じがありますが、思い切って<数学アレルギー>なヒトが読んでみたら、なんか数学の見方が急に変わってくるような、そんな感じも受けるかもしれません。

 ・・・が、ちょっとこのカオスな不条理展開は、その部分でかなりヒトを選ぶかもしれない・・・。私はもうこの部分だけでごはんが食べられるんですけど、一般的には不条理漫画って「理解できない」ということで敬遠されてしまうんですよね。。

 まあ、嫌われている数学の世界と敬遠されている不条理の世界がここで融合し、新しい世界が開けていく・・・そんなことには・・・なってないかもしれませんけど、なんか頭の中がグネグネされる、そんな漫画です。

 けど、中身のメインテーマ(?)である「巨大数」については、査読まで付けて超本気モードな本です。これは御本人が好きでかなり拘ってやっていないと、ここまで踏み込み、そして噛み砕いて漫画として描くなど絶対できません。そういう意味では「巨大数とは何か」というとっかかりの入門漫画本としては、凄い本なのかもしれません。。

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2017/07/21

早良朋 「へんなものみっけ!」 1巻 ビッグコミックス 小学館

 博物館に務める学芸員さん達(結構変○)の日々のお仕事を詳細に紹介した、そんな作品です。

 主人公は博物館に派遣された事務局員ですが、そこで様々な<生態>の研究員さん達を”観察”することになっていきます。ある意味では純粋に「第三者の眼」として、(恐らく私以上に)生き物にのめり込み、日々を様々な生物の採集や研究、そして標本の管理などに費やす、そんな人々を描いています。

 ヒロインが鳥類専門で鳥類標識員というのが、なんだか妙に嬉しいですね。この中で、ぶり縄を使って木を昇るというシーンがあります(たった数ページですが)。

 「ぶり縄」というのは、見た目は2本の眺めの太鼓のバチを、長めのロープの端に1本ずつ縛っただけの、何の変哲もない、知らない人が見れば「何に使う道具?太鼓叩くの?」としか思えないものです。
 それを使って10m以上もある樹にガシガシと昇ったりというのは、私は出来ませんけど(体験させていただいて5mくらい昇ったことはありますが)、身近で使える人がいまして。。まあ、信じられないスピードでヒョイヒョイと昇っていくんですね。20m近くあるスギなんかに。そのスピードと不思議なぶり縄の使い方は、あっけにとられること請け合いです。馴れている人は、直径1m以上もあるモミなんかも平気で昇る人もいます(この場合、ロープの部分を少し長くする必要があるので、木の直径に応じて何種類か用意している人もいます)。

 林業なんかでは、最近はもっと誰でも使える簡易なアイゼンみたいなものなどで登る場合も多くて、あまり高くなければ簡易ハシゴで登る場合もあるようですけど、鳥類の調査の場合には、山中でそもそもハシゴなんか運べませんし、樹をあまり傷つけたくないというのもあり、「ぶり縄」を使う場合が結構あります。

 と、鳥のお話だけではなく、水生生物から花の破片の調査から、いろいろな動植物の意外性などや日々の博物館の目的や仕事などが、ちょっと変わった学芸員さん達を通じて描かれていきます。

 著者が博物館でアルバイトをしていた、という経験が、もの凄く役立っているようで、動植物の描写やその取り扱いについては文句なしといったところです。


 このように結構いろいろとトリビアな記載があって(私も知らなかった情報もあり)面白かったんですが、初っ端のカモシカのお話だけ、ちょっと気になったんですよね。。


 血だらけのニホンカモシカの死体を背負って運んでいる、そんなシーンから始まっているのですけど、何度か読み直したんですけど気になる事が。。。

 ニホンカモシカは特別天然記念物です。

 特別天然記念物の死体を発見した場合には、まず国に報告が必要で、当該市町村の教育委員会に連絡する必要があるんですが(その間、その死体は動かしてはいけない)、そういう手続とかがされてる気配がないんですよね。市町村の博物館の職員の場合には、県からこういう業務を委託されていたりもするかもですし(調査員として実際動いているのが博物館の職員ということもあるようなので)、この辺の手続きは必要ないのでしょうかね?

 まあ、博物館の指定は教育委員会がしているわけで、教育委員会の関連機関とも言えますし、手続きは簡略化されていてるのでしょうかね?

 鉄道の仕事をしている知り合いから、山中でニホンカモシカをはねてしまった場合の手続きが、本当に面倒くさくて大変(調査員が来て必ず立ち会わないといけないし、報告内容も面倒)、というお話を聞いたことがありましたんで、そういうのも気になったキッカケなんですけどね。。(まあ、道路で車やトラックではねてしまった場合は、放置する人の方が多そうですが、線路ではそうもいかないようです)。

 他の部分の描写が実にしっかりされているもので(鳥類の標識とかその他)、ここだけが何か手続き的に合ってるのかなあ?、、、ということが気になったのでした。。

 まあ、この辺りを真面目に書き始めたら、これだけで1話分になっちゃいそうなので、省略した方が正しいのかもですけどね(けど、その場合はコラムとかでも書いておいて欲しいなあ、とちょっと思ったりしました)。

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2017/04/04

左藤真通 「アイアンバディ」 2巻 モーニングKC 講談社

 ロボットの開発を題材とした、ある天才と秀才の戦いを描く作品、、と私は解釈しました。

 主人公は、ある天才肌の科学者であり、ロボット技術に並々ならぬ情熱を傾ける男です。が、正直に言えばコミュ症とも言えるくらい、人付き合いは無頓着、お金にも無頓着、そして好意的に対応して貰っても無頓着、という、人間的にどうよ?というくらい「天才と●●は紙一重」と言っても過言ではないくらい、孤高の人という感じですね。
 多分、イメージして貰うなら「スティーブ・ジョブス」から攻撃性を省いたような、そういう人物です。そう考えていくと、彼の考え方は合理的で、まさにアメリカンな発想なのかもしれません。

 町工場の片隅に場所を借りながら開発をしつつも、何ら成果を上げられないまま資金不足に陥り、その工場の経営者である同僚(女性)から退去を命じられ、開発途中のロボット(脚だけ)の「ロビンソン」とパソコンだけを抱えて、ホームレス同然という状況に陥ります。

 起死回生の展示会での発表を通じて、彼の特異稀なる才能は、徐々に世界に”発見”されていくことになります。

 夢中になると周りが見えない、面倒な過程はすっ飛ばして「必要なことだけを順番にやっつけていく」というスタンス。同僚にしたら勘弁してよ、、な感じを受けますが(笑)、ある意味、実際に動き始めた”ロボット”の驚異的な性能を見せ付けられると、誰もが<放っておけない>と感じさせる、それも納得ができます。

 作中では、彼のライバルとして、研究を諦めて大企業へ就職していった同僚がいます。彼は一見、ロボット開発のような夢を追いかけるだけの研究は「現実を見ていない」「お金にならない」と一蹴するわけですが、実は彼の中には、大企業の人脈や開発資金を活用しながら、<ロボットを開発するための土壌作り>を虎視眈々と進めているわけです。自分の夢を実現するためには、どのようなアプローチが必要なのか、そういうベクトルで行動し、次々と課題をクリアしていく、そういう秀才肌な人物として、対照的に描かれています。

 彼から見れば、その才能はどこかで認めつつも、そんなお金の心配もせず、ビジネスも何も考えず、自分のやりたいように研究を進めながら廻りの人々を巻き込んで迷惑をかけ続ける主人公の存在は、疎ましいとしか思えません。

 資金の目処が何とか付いた天才肌の主人公と、ライバルである秀才肌の”もう一人の主人公”。目指すところは同じ場所なのかもしれません。どのような展開が待ち受けているのでしょうね。


 物語のあらすじと感想としてはこんな所ですが、この作品、1巻目では食指が動かなかったんですね。改めて表紙・裏のあらすじ、帯を見ても、パッと内容がイメージできなかったんです。2巻目の表紙やあらすじを見て、それから帯を見てから面白いかも?とやっと感じて1~2巻まとめて読んだんですが、それで「あ、結構面白いかも」とやっと”発見”した次第です。

 いわゆる今ある「ロボコン・ブーム」の先、行く末を見つめている作品だなあと思いました。

 ロボコンは私も好きですが、あそこで育まれたアイデアや情熱は、本当に日本でこれから<もの作り>に活かされていくのだろうか?という現実面を見た場合、少し不安があるんですね。物語の最前線は、ある意味では「中小の町工場」だと思うんです。最近は、その町工場の底力を題材にした番組も随分作られていますが、成功した事例というのは、そんなに多くありません。現実的には、開発などという世界は町工場にはほとんど無く、大企業の中でも<ビジネス>という名のもと、日の目を見るのはほんの一握りでしょう。

 そんな情熱や隠れた才能を、どのように今後日本で活かしていくのか。中小企業から大企業まで、色々なパターンを組み込みながら、シミュレーションしていく。。夢を夢で終わらせないためには、何をすればいいのか、そんな段取りや道順があるのかを、この作品は見せてくれてるんじゃないかなあ、と思うんです。

 ロボコンに参加している人達や、今でも趣味でもの作りをしている人にこそ、じっくり読んで貰いたいなあ、という気がします。現実の中なら”夢”を拾い上げ、それを”実現”していくまでの地道な足取り。これからどうなっていくのか、ちょっとワクワクする作品です。

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2017/03/28

ごまきち 「鷹の師匠、狩りのお時間です!」 1巻 星海社COMICS 講談社

 これは現代の鷹匠の物語といえば、まさにその通りのお話なんですが、他の鳥作品と一線を画するのは、作者本人が<鷹匠>であるということです。

 そして内容は半端ないです!!

 最初、タイトルを見てから、鷹匠と猛禽類を題材にした4コマコメディ漫画かな?と思って読み始めましたが、実はタイトル自体に重い意味が込められているのですね。。

 内容の半端なさは、その経験に基づく知識と、猛禽類という人間とは全く異なる生物と共同作業を行い、向き合う姿勢に表れています。タイトルの通り、タカと人間の関係は信頼関係もさることながら、外側から見ているのと違う、<主従関係が逆>に近いものであることが、読みながら理解していくことができます。

 動物やペットであるなら、犬と人間の関係が一般化し過ぎて、人間がヒエラルキーのピラミッドの上位に位置する、という思い込みというか<刷り込み>がある気がするんですね。

 しかし、鳥の場合には全く異なる訳です。基本的に猛禽類は単独行動ですし、群れといってもリーダーが居るわけではなく、実は結構バラバラだったりと、違うのが当然なんですが、どうも<飼う>という行為が身近な体験から一般的に認知されているなあ、、と思ったりしました。

 鷹匠の場合、人間は鷹のための”発射台”に徹する、いかに狩りがし易いよう、タイミングや獲物の状況もよく見極め、タカの反応を見ながら”合わせ”る、、、という事になるそうですが、本当にドキュメント番組を見る以上に、リアリティーをもって描かれているんですね。。

 絵柄はシンプルな4コマ系の絵柄ですし、緻密に描き込まれている訳ではないんですが(けど鳥の絵はどれもやはり上手い。特にバランスが)、飼っている猛禽の描写や行動、そして習性、彼らとの付き合い方、そして獲物tとなるキジやカモ類の性質や特徴、行動特性など、一応、鳥の調査をしている人間から見ても、「え、そんな違いがあるの!?」とか「おお、ここまで描くのか!」とか「やはり自分で触ってると違うよな。。」とか、驚愕と感心の繰り返しでした。

 本当に勉強になるというか、聞いてビックリな内容がさりげなくてんこ盛りでした。。オオタカとハヤブサの狩りの行動の違いは、それなりに結構な時間、観察もしていましたし知っていると思い込んでいましたが、嘴の形状がそれぞれ微妙に違い、そこには狩猟方法に基づく合理的な理由がある、というのをサラッと1コマで描かれていて、本当に目からウロコでした・・・。勉強になりました。

 何より、野生動物の保護施設(アニマル病院)への手伝いに行った際、保護されたオオタカの胸部や腹部の肉の付き方を触りながら、遺伝的に野生のオオタカでありながら、それが巣などから違法に捕獲されて飼育された個体だと見抜いたあたり、本気で猛禽類と付き合い、対峙し、観察しているからこそ判る、本物の”プロ”なのだなあと、ある意味では畏怖すら感じたりしました。。

 取材してというのではなく、自ら師匠について学び経験したことを描いていくわけですけど、鳥を題材にした漫画というのも色々とありますが、とにかく自分で観察した内容を描くということに勝るものはないなあ、、、と改めて思いました。

 勿論、鷹匠について本気で取材し、もの凄いリアリティーと共に描いた作品は、他にも無いわけではなりません。矢口高雄の「イワナの恩返し」の中に、オオタカでもハヤブサでもなく、クマタカを用いた、スポーツ的な鷹狩り(オオタカ)とはまた違う、”生活のための鷹匠”についての物語が描かれています。

 これがまた野生のクマタカを捕まえる所から何ヶ月もかけて訓練するところまで、実に丹念に時間をかけて行う姿が描かれている秀作です(但し、現在は種の保存法などもありますので、クマタカを使った鷹狩りは、もう行われていないですけどね。。)。

 他にも未読ですが、「はばたけ!太郎丸」もクマタカ(角鷹)を使う鷹匠を描いた作品です(これは電子書籍で読めるみたいですね)。


 脱線しましたが、とにかく4コマで少しコメディタッチで描かれているこの作品ですが、実は内容は半端ない、ということで。
 けど、マニアな人にしかその凄さは伝わらない、、、のかもしれませんね。。。
 漫画として面白いか、というよりも、コミックエッセイ的な作品と割り切った方がいいかもです(と予防線)。

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2016/11/10

梶谷志乃 「想幻の都」 全2巻 BEAM COMIX エンターブレイン

 脳の記憶を別の肉体に移し替えることができれば、人は永遠に生き、死ぬことなく幸せになれるのか。。

 冒頭からの死体の腑分け作業など、全体的に非常にアナログでオカルト的な雰囲気を醸し出していますが、あくまで科学的な記憶のコピーと人体再構築により、新しい肉体に記憶を移動する、といういわゆる”人造人間”技術が確立された近未来の”パリ”の街を、その技術者であるAI搭載の人造人間の視点から描いた、そんな作品です。

 実際にはこの技術には制約もあり、新たに構成した(というかほぼフランケンですな)人造の肉体は、長期間の維持は困難で、定期的に新しい<死体>が必要になります。
 その死体の提供元は、死刑相当の重罪人であったり、脳死と判定された怪我人であったり、そしてモラルハザード状態ですが、「新しい体が欲しい」と希望する人の元の肉体も、”人造人間”の材料として提供されます。

 人造人間にも、そういう記憶を移したタイプと、いわゆるAIを搭載した、人とロボットの中間に近いタイプ、そして完全に労働力の不足などを補う、意志を持たないロボットに近いタイプの3種類に分かれます。
 その人造の肉体を構成するために、技術者達は日々スプラッタに人体を切り刻に、不要となった人造人間は容赦なく”処分”すると。。

 最初は労働力の不足を補うための技術でもあったわけですが、ある意味では<理想の肉体を手に入れる手段>として意味を成し、パリの街はモラルがどんどんと崩壊していっている、と言ってもいい状態です。そしてそんな中で人造の肉体を手に入れようとする人々と、それを手にした後の葛藤、そしてその顛末が、淡々と描かれて行きます。

 この物語のテーマは「命とは何か」そして「死とは何か」という、そんな根源の命題もあります。命は限りあるものという「当たり前」が、当たり前ではなくなった世界では、人々は欲望のままに何を求め、そしてどうなっていくのか。。

 物語の顛末は、ある意味ではそのドロドロの欲望の果てに生じた<破綻>として描かれています。。

 定期的に肉体の限界が訪れる人造人間の体。基本的には新しい体に乗り換えることにより、命を保つことができ、ある意味では永遠の命を得られた状態とも言えますが、それは何の犠牲の上に成り立つ世界だったのか。。

 生きるとは、命とは何かについて、この作品では結論は出していません。完全に生命モラルの破綻した、死体だらけの世界の上に成り立つこの「幻の街」の顛末から、「生きること」、あるいは「生命」の意味を問おうとしているんではないかなあと。

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2016/10/12

せきはん 「のーどうでいず」 1巻 アーススターコミックス 奉文堂

 田舎の水路の生き物を追いかけて田園風景を満喫する、そんなのどかな女子中高生の日常を描いた作品です。

 基本的には一番年長のお姉さん(生物部らしい)が、子分よろしく妹&道ばたで出会った中学生の女子を巻き込み、生物採取したり、ちょっと遊びに行ったりと、ほんとに埼玉の田舎の日常(?)を描いたような作品です。

 ほのぼのと、そしてゆっくりと楽しむ田園アウトドアライフ?

 全ページフルカラーで、パステルカラーで描かれる作品は雰囲気よく、、、というか、これで今は800円で出せるんですね。技術の進歩というか、時代の進歩というか。。まあ、スマホでカラーで読めちゃう訳ですから、単行本を白黒って訳にもいかないですよね。

 作中で「許可を取ってます」というくだりがありますが、ここをちょっとだけ補足しておきます(要らん豆知識ですが(汗))。

 川で生き物を捕る場合、まあ個人で飼育目的でという場合には見逃されるかもですが、正しくは「特別採捕許可」という許可を各県から出してもらう必要があります。埼玉県の場合には、ここで手続き方法の確認ができます。
 って、、メッチャ面倒そうですが(いや、ホントに面倒なんですが)、ざっくり言うと「①捕獲する場所の漁協の同意書をもらう(案外小さな川でも漁業権が設定されていたりします。水路だと無い場合もありますが、念のため近くの漁協に行く方が無難)」「②どういう道具でいつからどんだけ取るかとか申請する(実施計画書)」「③仕事として調査をする場合には、その契約書の写しも添付」という感じです。

 まあ、小川なら近くの各漁協に行けば、調査だったら同意書はすぐ書いて貰えるでしょう(どちらかというと文面作ってサイン&漁協印を押して貰う感じ)。あとは担当の県の窓口に行くだけですが、郵送可のところもあります。

 この辺り、結構よく押さえてあるなあと思ったり。

 ただ、この作品のさわりは、「グッバイエバーグリーン」の巻末にオマケとして入っていたんですが、その時からどうしても気になる事が。。といっても、繰り返しになっちゃうんですけど、冒頭のタナゴリストですね。

 「タイリクバラタナゴ」がリスト上で一等探したいものに花丸付きで挙がっています。

 考え方は色々あるんですが、タイリクバラタナゴは外来種。正確には「要注意外来生物」です。
 在来種の「ニッポンバラタナゴ」と交雑してしまい(純血のものは、絶滅に近いです)、もう全国に分布してしまっているので、特定外来生物には指定されてませんし、場所によってはオオクチバスなどに捕食されて、数も減らしつつあるんですが、、、

 野外でこれを見つける事に情熱を燃やすというのが、ちょっと解せないだけなんです(釣り好きではなく、生物部という範疇なので)。単に色が綺麗だから、って理由なのかしら?

 在来のタナゴは他にも作中に出てきますが、ヤリタナゴなど沢山の種類がまだまだいます。タイリクバラタナゴは、これらの生息場所を奪ってしまう場合も多いので、本来はあまり歓迎されない気もしています。

 ただ、場所によってはもう定着してしまっているしということと、「見た目が綺麗」というこで、保護をしている場所もあるらしいので。。まあ、単純に「外来種だから悪!とも言い切れないよ!」、と考える人もいるので、複雑なんですよね。

 アメリカザリガニなんかでも同じことを言う人はいます。昔からザリガニ釣りなんて普通にやってたんだから、外来種じゃなくてもう日本の動物!と(実態は、水草から他の水辺の小動物・昆虫を食べ尽くして単純化してしまう元凶なんですが、いまのお父さん世代が子供の頃には、アメリカザリガニに在来種が駆逐されたあとだったので、それが認識しづらいのですよね)。

 まあ、こんなことで引っかかるのは私くらいなのかもしれませんけど、作中ではそこまで深刻には扱わない方向なのかなあ?と、ちと考えただけでして。

 まあ、あまり深いところは気にせずに、自然と戯れながら田舎生活を楽しむ、そんな少女達を眺めているだけでも楽しい作品でもあります。

  

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2016/09/15

小原ヨシツグ 「ガタガール」 1巻 シリウスKC 講談社

 クラスメイトの気になる美少女が、実は<干潟オタク>だったということで、いつの間にやら”生物部”に入部させられ、日々ドタバタな学校生活が始まると。。

 この作者がいわゆる「生物部」経験者なのかは判らないんですが、部員のバラエティーに実にリアリティーがありますね。取材したのかもしれませんけど、なんか学生の頃を思い出してしまいました。

 私は高校生になった時、生物部に何となく入ってみたんですが、中々面白かったんですね。そこも魚好きな先輩とかもいましたが、ほぼ活動は自由にしていいということで、OBの資産というか異様に昆虫関係の標本や書籍が充実していたため、「ひとり昆虫班」を作って他の部員を巻き込んで山に採取に行ったりしていました。その時の部員の方々は、虫には興味なく超生物好きという程ではないけど、なんか合宿でも付き合いで山に行ってくれるいい人達で、(それをいいことに)随分と引き摺り回しました。。

 その頃のことが、何だかこの作品にとても被って見えるんですよね。

 生物部っていっても(私のように)変人ばかりではなく、ごくごく普通の学生さんが、何となく自然が好きだなあ位でやってる場合も多いんです。大学に行って生物部に入ったときもそう。

 冬には虫がいないので、バードウォッチングに誘って貰い(・・・それが人生を狂わせましたが(違))、その時の先輩方のカジュアルな装いに、ある意味ではカルチャーショックを受けました。今は当たり前の「ヤマガール」よりも、さらに軽装な出で立ちで、海や山に鳥を見にOG含めて女性の先輩方がやってくるんですね。それでいて、歩かせたら平気で藪だろうが何だろうが歩いてついて来ちゃうので(体力もありまくり)、それまたカルチャーショックでした。。。

 (あ、女性以外もいましたよ。・・・・・勿論・・・・・)

 そういう先輩達にも影響されて、昆虫以外の動物や植物にも一気に興味が広がり、しまいにはスキューバダイビングの免許まで取ってしまった上に・・・・動物関係の仕事にまでしてしまった訳ですけど(謎)、まさにそういう「普通にオシャレなんだけど生物部な人たち」を、漫画として描いているのが、この作品だったりします。

 マニアックとはいえ、知識・経験とも若干こころもとないヒロインと、それぞれ少しずつ興味のベクトルが違う2人の女子部員に囲まれて、干潟のスペシャリスト(?)を目指すことになるラブコメ作品です。

 最後のあとがきで、何だか予防線を張っていますけど、、、きっと<私みたいに>細かいことにツッコミ入れたがる<ハタ迷惑な人>を恐れているのかもしれませんが、、、それぞれの動物の生態とかしっかり調べて描けていると思いますですよ。
 そんなに心配するレベルじゃないと思いますけどね。作品の端節で、それがちゃんと判りますので。。。

 ラブコメとしても中々面白く描けていると思いますし、次巻以降も楽しみにしております。

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2016/08/29

藤田勇利亜 「ミドリノユーグレ」 1巻 少年チャンピオンコミックス 秋田書店

 健康食品として認知されている「ミドリムシ(=ユーグレナ)」。量産のために改良されたり色々していますが、その改良ミドリムシが原因で、猟奇的な殺人が発生するようになっていく。。やがてそれは人類自体、地球自体をも変えようとする流れになっていく。。

 いわゆるバイオハザードもの、というジャンルになると思いますが、タイトルにもあるようにこの物語の”主人公”は「ミドリムシ」です(いやまあ、それと戦うことになるヒロインが本当の主人公、なんですけどね)。その研究過程を通じて、謀略や暴走事故、そしてパンドラの箱は何だったのか、少し長いスパンの時間軸で綴られていきます。

 極普通に健康食品としても出回っているそれが、いかに人類破滅への引き金となっていくかは、まあ作品を見ていただくとして(ちなみに1巻では、まださわりの部分までの描写ですね)、生物的な見地から見ると、面白い発想かなあ、と思います。

 ミドリムシの個体をいくら改良したところで、小さな細胞の生物ですから限界はあります。それを群体として構成することができたらどうなるのか、というあたりが、この物語の発想です。こういう研究(=進化)の過程をきっちりと下敷きにして追っているという辺りが(それでいて物語として読ませられてしまうよう、上手く構成されている)、丁寧な作品作りだなあと、ちょっと思ったりしました。そして若干不安な雰囲気もあり。。

 2巻後半になると、人が襲われる様になってくるのですが(ミドリムシが群体で襲ってくるのではなく、人を介在して、ですが)、この辺りはゾンビ化(感染?)した人が人を襲う的な構図になっています。ただ、それがサプリを通じて世界規模で起こり始めている訳ですから、スケールは結構大きくなる可能性が高いですね。2巻はいわゆるアクションものか、サバイバルものの流れになりそうな雰囲気もありますね(ヒーローモノにも近い流れになるのかな?)。

 現状では、その先に研究の成果は移行している様子ですが、それは2巻以降の内容になります。ここまで丁寧に<進化>を描いてきているので、理路整然とした<群体化と凶暴化のその先>を見せて欲しいものですね。

 そういう意味での不安な要素としては、ここまで丁寧に<ミドリムシの進化>に拘って物語を構築していきながら、いきなり人類滅亡に直面して何だか救世主が現れて、、、みたいな安直な(?)バイオハザードものになって欲しくないなあ。。というところです。

 ここまで丁寧に引っ張ってきて、物語の核心を端折るみたいな流れになってしまったら、ちょっとガッカリしそうなので。。そういう意味では、1巻の後半の流れを見ると少し不安要素はあるんですけど、全体として読者の予想を裏切るようなストーリー構成できちんと物語が描かれているようなので、期待と不安を胸に、2巻以降の展開に注目したいと思います。

 なんせ、巻頭の地球の状態に、一体どういう流れでなっていくのか、この段階でも想像が付かないんですよね。そういう意味で、初連載ということで若干、荒削りな部分も少しありますけど、上手に作られている作品だなあと思ったりもします。

   

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2016/08/24

REDICE/藤見泰高 「巨蟲列島」 3巻 チャンピオンREDコミックス 秋田書店

 飛行機が墜落したことにより、”無人島”に漂着した高校生達を待ち構えていたのは、人をも襲う巨大化した昆虫たちであった。。

 ざっくりと言えばこんなストーリーであり、エログロ・サバイバル・パニックB級ホラー漫画といったところでしょうかね。。

 ちなみに1巻、2巻の表紙を飾る迷彩服にベレー帽の女性は、軍事関係者でも何でもなく、昆虫採集が好きな昆虫オタクな主人公です(読むまで何かバイオハザードもので軍が関係しているというお話かと思ってたんですが、違いました(汗))。なぜ巨大化したとか、そういう謎の部分には、まだ3巻でも到達していません。とにかく次々襲われては犠牲者が増え、逃げ惑うという状況が続いています。

 掲載している雑誌の関係もあると思いますが、ちょっとエロ描写は強め(まあ青年誌ですし)、そして昆虫に襲われる様が本気でグロいですので、そこは駄目な人は要注意です。スプラッタが好きな人なら全然平気でしょうけど。

 昆虫オタクな主人公のお陰で、危機は色々と乗り越えるには乗り越えるんですが、必ず昆虫出現時には犠牲者が出ます。しかも犠牲者はほぼ<瞬殺>です。昆虫自体、襲うときはジリジリではなく速攻で急所を狙い、毒や消化液を注入し、あとは貪り喰うだけですから、その対象が”人”となると、自ずとえげつない描写になるのは必至ということですね。

 そして巨大化した昆虫は、たとえミヤマカラスアゲハ(林道でよく見かける金属光沢で綺麗な黒いアゲハ)でも吸汁という行動で人を襲えるという、もう人間は虫の”餌”以外の何者でもない世界となっています。けど、巨大化してるのは何故か虫(クモやダニ、寄生虫も含むので)ばかり。他のものは植物も含めて巨大化はしていません。

 昆虫については、もし巨大化したらどうなるだろう?という想像をも含めて、そこそこ正しい生態知識に基づいていると思われます。まあ細かなところは言い出すとアレなので、「もし○○だったら」な漫画なんですから、それなりに楽しめばいいかと思います。

 ですが、、、原作者からは、昆虫の性質や何をしたら駄目か、どうやったら逃げられそうか、という部分を渡して、物語の部分は編集さんと作画担当者で描いているのかな?と想像しますが、描いてからのチェックとかはしているのかな?という部分がちょっとありました。

 ある意味、寄生虫は専門外だから気がつかなかったのかな・・・?(ちょっとだけネタバレになります)

 2巻の作中で、カタツムリの寄生虫と同様の状態になるシーンがあるんですが、目玉が鋭角に突き出て横縞が出てくるという描写があります。

 「実際の写真」はあまりオススメはしませんが、「ロイコクロリディウム(Leucochloridium)」で検索して下さい。
 これはカタツムリの寄生虫で、緑色のシマシマ突起物状に変形した眼が何とも気色悪いですが、アメリカやヨーロッパには普通にいるそうです。

 誰もが知っているカタツムリ。眼がどういう風に付いているかは誰でも御存じと思いますが、触角のような先に眼が付いていると。この角の部分を「後触角」というそうです(Wikipedia参照)。この寄生虫に感染すると、この後触角の部分が”膨らんで”異様な形になるわけです(実際には、先の尖ったイモムシ状の寄生虫がこの後触覚に入り込んでくるので、太くなるようです)。

 判る人はすぐ気がつくと思いますけど、人間の眼球に後触角なんて無いわけです。であれば、寄生されたカタツムリのような形状になることはあり得ない筈なんですけど、なんかインパクト優先なのか、<思いっきりカタツムリのように出っ張らせて>しまってるんですよね。。まあ、寄生されているという描写を強調するために、あえて漫画的な演出なのかもしれませんけど。。

 他の昆虫の描写とかには最新の知識等も駆使して描かれているのに、何でここだけこんな描写にしちゃったのかな?と、残念でならなかったり。。まあ、絵のチェックまではしなかったのか、昆虫が専門なので軟体動物だから(恐らく寄生虫も含めて)判らなかったのか。。あまり深く考えない人なら気にならないんでしょうけど、私は妙にここだけは気になってしまいまして。

 ただ、それ以外の描写については、昆虫の知識総動員でグロさも徹底しつつ描写されているなあと感心しています。まあ、外骨格な昆虫同士の喰う喰われるは、じっくり野外で見ていてもそんなにグロくないんですが、生身の人間が襲われたら、ここまでグロくなるか。。。と変な感心もしきり。

 ちょっと異常な先生達も含めて、人間関係が破綻しすぎだろう(笑)な高校生達ですが、この残虐シーンのオンパレードで精神的に平気なのかよ!ってツッコミも出来なくもないですが。。

 どちらかというと、B級ホラー的な感覚で読むのが一番正解かもしれませんです。

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