C_芸術系

2018/02/19

美代マチ子 「ぶっきんぐ!!」 1巻 裏少年サンデーコミックス 小学館

 美大を出て画家を目指すも挫折しかけ、放浪する中で入り込んだ街中の小さな本屋さん。。  とある事件をきかっけに、そこで働くことになってしまった主人公と、やる気のない店長代理との奮闘を描く、本屋再生物語です。

 本屋の日常業務や取次との関係など、本屋素人の主人公が働きながら知ることになる様々な問題が、作中で淡々と綴られていきます。本屋さん専門の問屋さんが神保町にあるなど、本屋さん経営に関連したウンチクも掲載され、本屋さんを経営してみたいとか、働いてみたいと思っている人などには、色々と有用なお話も掲載されています。

 そういう中で、街中にぽつんとある、チェーン店でもない中小書店の課題が山積、、、という部分が如実に描写されていきます。特に大きいのはやはり万引きですね。漫画1冊でも万引きされれば、その損失分を回収するためには数十冊以上売らなければいけないという理不尽さ・・・。しかし、万引き対策とはいっても、人の目を増やすか、高価な商品はレジ近くに並べるとか、限度があります。監視カメラを大量に付けるにしても、まあ最近は単価も安くなっていますが、数十万円以上の投資と運用ノウハウも必要です。

 そしてもう一つの大きな問題は、「無い本を注文しても、届くのに1週間~10日以上掛かる」という大問題です。これは機械的に取次からの配本だけを扱っていたり、新刊を注文しても必要部数を廻せて貰えない中小書店で起きまくる事態。そんならAmazonで買うわ、ということにどうしてもなってしまいますよね。実際、出来るだけ私は本屋で本を買いたいと思っているんですが、マイナー本ばかり買おうとするもんで、数軒の本屋を探し回っても新刊本なのに<無い>ということが発生します(大きな書店でも売り切れて消滅している)。その場合、1週間くらいで諦めて(でないと買い忘れてしまうので(汗))、Amazonで注文することはあります。。

 1週間も本を探し回って彷徨うなら、決まった本屋で注文すればいいじゃん、と言われればそうなんですけど、やはり出来るだけ早く読みたいという気持ちもあるわけで、じゃあAmazonで買えばいいじゃんと言われればそれもそうなんですけど、「本屋さんに頑張って欲しい」という気持ちがあるわけです。。

 妙なジレンマを毎日体験している昨今で御座いますが、「取次」を含む再販制度が中小書店を救ってきたという一面もあるものの、この大手偏重で出版社都合なシステムが根本的に変わっていかないと、少なくとも中小書店の未来は無い、、、と言えると思うんですよね。


 時系列的には現在(2018年)から10年前くらい、という時間軸である点には、一つ留意しておく必要があります。・・・これは暗に、「今でも通用するのか」という根本的な問題への暗示・・・でもある気がします。勿論、この時期を描いているのは、作者が自分の働いていた経験を活かすため、だとは思うんですけどね。

 10年経っていまどうなっているかと言えば、Kindleを筆頭とした電子書籍が、特にコミックス市場を席巻しており、業界の総売上げで見れば、紙ベースの出版金額とほぼ同等の市場規模となっています(ちなみに電子書籍の8割が、コミックスで占められています)。さらに言えばスマホで配信されるような媒体でコミックスが大量消費されており(この金額については電子書籍にはカウントされていないはず(カウントしようもないので))、紙ベースのコミックスは衰退の一途という状況です。

 まあ本は漫画ばかりではありませんが、実際に漫画の売上げが書店に貢献している比率は、雑誌に次いでやはり高いのが現状です。街中で生き残っている中小書店を見る限りにおいては、個性をウリに特定の分野に特化(芸術系とかサブカル系とか、特定の趣味系等)するというのが、一つの逃げ道というべきか、生き残り策の一つではありますよね。。これはある意味、この本でも取り上げている”救済策”の一つでもあります。

 けどそれが、どんな規模の書店でも通用するかと言えば、やはりそうではないよな・・・と思います。

 うちの近所で潰れた書店は3~4軒くらいは憶えています。小さな零細な書店で、雑誌等の取り置きで何とか凌いでいたような、そんなところばかりでした(憶えている限りは)。それがじゃあ、色々な方法を駆使すれば救えたかと言えば、、、それは多分無理だったでしょう。最低限、ある程度の広さと品揃えは必要だと思います。縦長で10畳もないような小さな本屋は、消えるべくして消えたということでしょうね。。

 この作品を読んでいると、色々な想いが頭の中を錯綜しまくるんですが、「応援したいけど出来ないもどかしさ」が特に強いんです。そしてPOPを作ったり特設コーナーを作ったり、サイン会を開催したりという頑張りは、色々な書店でも実際に見かけます。が、それは店主や店員さんを含めて「特定の人の頑張り」で維持されているものであり、その人が何らかの理由で辞めてしまえば、そこでプツッと切れてしまうものでもあります。。

 知り合いが居たわけでもないんですが、よく利用する書店の品揃えが如実に変わるということを、何度も見てきています。平台の作り方から新刊本の並べ方、そして既刊本にどんな本を並べるか、全て店員さん達の個性が表れる場所です。そこがガラッと・・・大抵は悪い方向に変わるのを目にする時、とても寂しく感じるんですよね。。

 色々な意味で「本屋さんを経営すること」が、過酷なデス・レースに成りつつあるいま、既存作品の愛蔵本化、文庫化や、簡易製本でコミックスに並べ続ける出版社(要するに、過去の遺産を再消費し続けているだけ)、大口の大型書店やチェーン店相手をしていれば食いっぱぐれがない取次問屋、再版システムがあるからと惰性で経営し続けている中規模以上の書店など、作家をどう育てていくかも含めて、真剣に考えなくてはいけない時期に、2018年は突入しつつあるんではないかなあと。。

 電子書籍は避けられない波です。私も完全に乗り遅れてはいますけど(色々な事情がありまして・・・)、毎月数十冊も購入している漫画を、どういう形態で買っていくかという部分を、今年は改めて考え直そうと思いました。

 この作品はある意味、長年モヤモヤしていた部分をハッキリと再認識させてくれて、そして書店の理想と現実について改めて考えさせられるきっかけを与えてくれた感じがします。
  

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2017/09/30

宇佐江みつこ 「ミュージアムの女」 全1巻 株式会社KADOKAWA

 B6変形版なのがちょっと惜しい、博物館や美術館、そういう場所の展示会場の隅に、ひっそりと佇んでいる<監視係>の方々のお仕事について描く、4コマ形式の作品です。

 人間をネコに置き換え(ますむらひろし的な)、何というか、とても丁寧な語り口で、ちょっとクスッとするような言葉廻しや展開を入れてくる、読み物としてもとても楽しい作品ですが、ちょっとへりくだって監視係のお仕事や日常を描いてくれている中で、なる程というトリビアが沢山ちりばめられています。

 わたしは知識とかはからっきし無いくせに、なんか美術館とか博物館に行きたくなってしまい、地方に行くと、ちょこちょこ寄ってみたりしています。意味が判らないながらも、現代アートとか近代美術、あとは日本画なんかは好きで、、、、好きな割には作者名なんて憶えられず、毎回、絵の横に書いてある解説を読んで、「ふんふん。」なんぞと言っている、変な観客です。

 東京でもたまに企画展に行くことはあるんですが、激混みで死ぬような思いをすることも多々、、、それに比べれば、本当に地方の美術館は空いていて(こらこら)、案外、「あれ?こんな作品が?」というものが、ひっそりと置いてあって、本当にじっくりと見られるので、結構お得感もあって楽しいんですよね。

 そんな中、確かに各美術館の展示室には、ひっそり座っていたり、あるいは立っている女性の方々がいるのは気になっていましたが、その方々がどういう立場の人なのか、一日中座っていて飽きないのか(こらこら)とか、改めて考えると疑問だらけなこの部分が、この作品を読んだお陰で全て瓦解しました。

 ただのパートのアルバイトだと思っていた方々は(大変すみません。。)、学芸員資格を持った方々だったのですね。勿論、資格を持っているだけでは博物館等の「学芸員」になれる訳ではなく、ある意味、展示全体を構成する「学芸員」と、「監視係」については、作中でも非常に気を遣って丁寧にその違いを解説してくれています。美術系といわゆる文系の大学での学芸員資格の違いなども、実に判り易く解説されていました。

 何というかですね、この解説自体、色々なところに散りばめられているんですけど、とても判り易く、長文で4ページくらいで解説しているページも、本当に読みやすいんですよね。こういう部分って、やはり様々な作品の解説を読んだり、判り易く簡潔に説明してくれる学芸員の方々の言葉を吸収されることで、自然と身につけられたのだろうなあ、と思ったりもしました。

 そういえばうちの大学にも文系で美術史等を扱う学部があり、絵も描かないのに美術の勉強していることを他の人になじられ、意気消沈していた同級生もいたんですが(学芸員の資格も頑張って取っていました)、なんかこの作品を読んでから、ああ、きっと彼女達もその後、こういう道に進んで楽しく活躍している、あるいは楽しんで鑑賞をしている人もいるんだろうなあ、と改めて思ったりもしました。

 とにかく、「気になった人達が、なる程こういう人達なんだ」ということが判ったことが、本当に収穫と言えば大収穫な、そしてその日常を垣間見ながら、くすっと笑わせて貰える、そんな作品です。


 まあ、一つだけ残念なことは、冒頭にも書きましたがこの作品、変形本であることです。。

 こういう本は本屋さんなどでは、新刊コーナーには並べて貰えるのですが、1ヶ月も経つと本棚に入れられないため、そのまま返本されてしまう確率が高いのです。。
 とはいえ、4コマの横のコメント欄などのバランスを考えれば、作品の形としてはこれがベターにも見えますので、装填の際には拘ったのだと思います。

 願わくば、いろいろな美術館等のミュージアムショップなどに並べて貰えたら、本当にいいだろうなあと思います。。 きっと楽しく来場者に読んで貰えそう。。
  

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2016/06/17

大塚志郎 「漫画アシスタントの日常」 2巻 BANBOO COMICS 竹書房

 これは恐ろしい本でありまする。。。。

 非常に優秀だけど、ちょっと揉め事も起こしてしまう、渡りの漫画アシスタントさんの視線から、<漫画のマネジメントとは>を詳細に裏側まで露骨に描いている、そんな作品です。

 勿論、作者もアシスタント経験者ですし、色々な付き合いも含めて収集した実例を踏まえた上で、赤裸々な内部事情と共に<どうやって漫画を描くという”ビジネス”を成立させるか>という、心構えも含めたハウツー本的な構成で仕上げられています。

 なんか仰々しく書いちゃいましたけど、普通に読めば「漫画家&アシスタントあるある」な作品ではあります。
 けど、サラッと書かれている危機管理的なチーフアシの仕事(仕事場のコントロール)や、逆境をどう克服していくか、そして現場によくいる”困ったちゃん”のあしらい方等々、実に示唆に富んでいるなあと。

 私は漫画業界の人ではありませんので(学生時代に(ヘタクソナ)同人漫画描いた程度。漫画家さんとお知り合いになった事はありますけど、手伝いをした経験は皆無)、描かれている事がウソかマコトかは保証できませんけど、他の漫画家の生態(?)を描いた作品などでも描かれている内容も結構あるので、かなり真実味が高いことは想像できます。

 そういう過去の漫画家の日常系作品と大きく違うところは、「使えない(能力の低い)アシスタントの使い方」であるとか、「知らずに職場のモチベーションを下げてる奴を糾弾」といった、現実に生じる問題は何とか解決しつつ、そしてどーしようもない奴には鉄拳を!(違)という潔いがゆえに敵も作ってしまう、そんなプロアシスタントを主人公に据えているところでしょうかね。

 ※普通は漫画家さん本人からの視点で描かれることが多いですからね。

 ※漫画家の日常描くと言えば、「燃えろペン」「吼えろペン」などがありましたけど、
  あれは演出が過激すぎて(笑)、どこまでが本当でどこまでが演出だか判らない
  という。。いや面白いですけどね(笑)。

 漫画家さんや多くのアシスタントな方々には本当に耳が痛い、強烈なメッセージも込められています。漫画家として消えていくパターンはどうか、そして万年アシスタントになってしまうのは、心構えの問題ではないかという問いまで、ある意味、キャラクターの性格を利用して(笑)、言いにくいことも全部ズケズケと言いまくりという感じです。
 けど、非常にある意味では、真面目な真面目な後輩達へのメッセージであり、アドバイスであり、「心構えの書」でもあると思います。。

 と、業界の裏側までは知らない私が書けるのはここまでだと思うんですけど、 この作品、正直に言ってしまうと「漫画家やアシスタント」じゃなく、この業界のことに別に興味がなくても、100%楽しめる筈、ということかなあと。

 まだまだ仕事に慣れていない新人アシの使い方や、それぞれのアシへの仕事の振り方など、普通の会社のビジネスシーンでも「うんうん、そうだよな」という風に思える、そんなノウハウも散りばめられているんですよ。そしてアシスタントから漫画家への道を進む際、持ち込み作業は企業のプレゼンに通じるノウハウが必要なんだなと改めて痛感しますし、そして漫画家がアシスタントを使う場合、「自分でやった方が効率いいし何倍も絵も綺麗に描ける」という状況であっても、アシスタントに時間が倍掛かってクオリティーが落ちても仕事をお願いしなければいけない、というのは、普通のビジネスマンならデジャビュなシチュエーションですよね。「アシスタント」を「部下」に置きかえればいいだけです。

 一人前にできないのは判っていても、アウトソーシング=任せなければ<仕事>として成立しない、、、読みながら「うんうん。」と心の中で何度もうなずいてしまいましたわ。ビジネスのノウハウ本としても、十分通用するクオリティーだと思うんですよね。ちょっとウンチクなセリフ廻しは長すぎるかもしれませんけど(笑)。

 サラリーマンの経歴はなさそうですけど、これだけのノウハウを身につけるのに、どれだけ苦労をされたんでしょうね。。
 元々が同人誌での掲載作品で(そりゃそうかもw)、続きはまた同人誌でも出すそうですけど、久々にコミティアに行きたくなってきましたね(・・・いつの間にやら、ビッグサイトに移ってたんですね。。東京流通センターの頃しか行ったことないなあ)。

 

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2015/07/09

大久保圭 「アルテ」 3巻 ゼノンコミックス 徳間書店

 職人などの職業に女性が就くことが非常識とされた中世の世の中で、昔から絵が好きだった裕福な家庭育ちの娘が、絵師を志して厳しい世界に突入していく、そんなお話です。

 この作品の場合、恐らく設定上、悩んだんじゃないかなあと思うところは、主人公であるアルテの出自の設定じゃないかなと。。

 逆境に立ち向かい、どん底から這い上がって一流の職人に、という王道パターンをあえて取らず、「金持ちが職人の世界に」というところ。別に家の事情とかは特に問題はなく、親の反対を押し切って、彼女の意志だけで弟子入りを決めたわけです。

 サクセスストーリーではあるんですが、若干ベクトルが違ってくるところを、あえてこの構成で挑んだのは、少なくとも絵画の極々初期の基本的なところは(父親が手習いという形で習わせていたので)修得している、というところから物語を始めたかったからでしょうか。。
 まあ、それを本当の基礎の基礎から始めてしまうと、物語が冗長になってしまいますし、また女性を弟子にするという当時の慣習からすれば尋常ではない決断までは、単なる情熱だけでは出来ないと(なんか凄い才能があるとか天才現るって設定じゃないと)。

 自分が恵まれた環境で育ったことは意識しつつも、「女に出来るわけがない」という周囲の逆境に、誠心誠意で堂々と努力して挑む、そういう女性を描きたかったのでしょう。

 彼女の元の境遇と職人の世界では、本当に天と地ほど身分が異なります。さらに女性ということで、逆境の大きさは測りしれません。が、「絵師になりたい!」という強い意志と、曲がったことは許せない、そういうまっすぐな心意気で、周囲の人々に少しずつ認められていくわけですね。。

 そういう成長物語と共に、この作品では当時の「絵師」の仕事ぶりや社会システム、画材や技法などの描写が細かくされていて、当時の美術関係の環境などが、実によく判るように描かれています。そういう部分でもなんだか勉強になるなあ、と思って読んでしまったり。

 特に3巻では、表紙でも描かれていますが、広間の天井から壁一面に描かれる巨大な壁画に取り組むわけですが、何十人もの絵師が共同で作業していく様は、なかなか圧巻。こうやってあの壁画達は描かれていたのかと、昔にヨーロッパに旅行したときに見た荘厳な情景と重ね合わせて読んでいました。

 「どうせ金持ちの道楽」という視点でしか見られない中、これからどう足掻いていくのか、女性らしい感性やセンスを、どんな風に発揮していくのか、そんな彼女の日常をのんびりと眺めていると、当時の人々の生活も垣間見えてきます。

 1巻目あたりでは、この難しい設定でどう話を展開するのかなあと思っていたんですが、2巻、3巻と読んでいくと、狙いも何となく判ってきて、心配しすぎだったなという感じでした。
 4巻以降、どんな現場が待ち受けているんでしょうね。。

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