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2018/04/23

サメマチオ 「魔法少女サン&ムーン〜推定62歳〜」 全1巻 BAMBOO COMICS 竹書房

とあるキッカケでコンパクトを手にした二人の少女は、返信する度に復活してくる大魔王と戦いうわけですけど、「変身している間は時間が止まる」というより「身体時間が変身前まで巻き戻る」事に気がつき、、

 そして数十年以上が経過したある日、ペアの一人がガンで余命三ヶ月であることが判り、年老いた彼女達は、再び<魔法少女>への変身を繰り返すという行動に出るわけですが。。

 おばーちゃんが魔法少女になる、というお話は、「××ですけど魔法少女になれますか?」でも丁度出てきたネタですし、他にも作品はあると思いますが、この物語の場合には、ベクトルが全く違う方向に向いていて、コメディーのように見えて全くもてシリアスなストーリーが展開する、魔法少女ものというより、ファンタジーSF作品と言った方がいいんじゃないかな、という。

 悪く言えば、コンパクトを使うと大魔王が復活する、というくだりは<とても雑に>扱われています(笑)。彼女達も気がつきますが、大魔王が復活するから魔法少女になれるのではなく、魔法少女に変身すると、セットで大魔王が復活し、やっつけると変身が解ける、という形です。けど、コンパクトの正体も、魔王の正体も、結局は深く語られる事もありません(そこは重要ではない、ということでもあります)。

 そして先にも書いたように、変身直後の身体時間に戻るということは、繰り返し使えば使うほど<(彼女達の)時間が止まる>ということを意味します。そして、彼女達の時間は同級生達や同年齢の人々よりも若いままの状態が維持されますが、コンパクトが記憶している「身体時間」は、ある程度時間をおくと(数ヶ月くらい?)リセットされ、次に変身した時点が”変身後に戻る時間”に更新されます。

 徐々にですけど「時間が遅れていく」事に気がつき、同じ歳なのに若々しいままである彼女達は、次第に周囲から浮いていくようになります。大学生になり、社会人になるに連れて、彼女達も変身をすることを止め、やがて人並みに結婚もして、、という段階まで行きますが、そこに至るまで、非常に紆余屈折な人生を”二人で”歩んでいきました。

 この作品では、余命3ヶ月を孫の顔を見るまでは伸ばしたい、という必死の思いのために、再び<魔法少女>に変身することを決めた彼女達の、そこまでに至る過去の履歴が綴られていく、、、そんな作品といっていいかもしれません。

 ここまで読めば概ねこの作品が「コメディーではない」という事は判ると思います。まあシニカルなコメディーとも言えないこともないですし、自分達は自分達なりに、大魔王と戦うことも一つの使命だと思っていた時期もあります。

 けど、コンパクト自体が「時間を止めるための道具」としての機能しか実はなく、その効能を判った上で再び使おうという決断に至るまで、一応62年も生きてきた彼女達は、あるときには浮かれ、あるときには悩み、人々と違う時間軸の中でそれなりに悩み、考え、そして苦労を重ねてきたと。。人生を変えた「コンパクト=魔法少女との出会い」が、本当に良かったのかどうか、そしてこれからの人生をどう生きていくのか。。非常に示唆に富んだストーリーになっています。

 彼女達は後悔のない人生を歩んだのかどうか、そんなことを色々と考えさせられる、そんな作品です。

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