草野 ほうき KADOKAWA 2018-02-22
物語自体は、アウトドア生活に精通した人間が、なぜか異世界のシロクマに転生し、野外生活などしたこともないお嬢様育ちの少女達をサバイバル技術で助ける、といった作品です。
最初に断っておきますが、、、転生ものネタは少々食傷気味ながらも、作品のストーリー自体は面白い作品だなと思います。絵柄も可愛いですし。けど、ここからは少し辛辣なコメントになる事は御容赦下さい(マイナスな内容はあまり書きたくないんですが、こういう作品を描く上で、絵描きさんにもう少し大事なところを認識して欲しいと思ったりするので)。
野外生活素人に対して、サバイバル術を教えるということで、動物を捕まえて解体したり、家を作るために木を倒したりといった描写が出てきます。そこの描写・・・なんですよね。。
捉えた動物の解体。いきなり皮を剥ぎ始めるシーンからですが、、、、「血抜きは?」
動物はどんなものでも「血抜き」をしなければ、マトモに美味しく食べる事は出来ません。それをせずに狩猟した動物を不味い状態で調理して「不味い」と誤解しているハンターもいるようです。「血抜き」はとにかく大事で、血抜きをすることを前提として、ベテランの猟師はシカなどの獲物を、尾根など水がない場所では撃たず、沢沿いに追い詰めて初めてそこで撃ち、できるだけ早く沢まで獲物を運んで首を切り、沢水に晒しながら血抜きをするそうです。そこまで迅速には出来ずとも、「血抜き」を出来るだけ速やかにすることは、狩猟した動物を美味しくいただく上ではとても大事なことです。
皮剥などの描写はまあまあ描けているのに、一番大事なところが端折られているのが、”サバイバル術”を駆使して異世界の住人を守る、という設定の漫画としてはどうなんだろう。。。と思ってしまうわけです。
まあここは「主人公が過去の経験が少なく、見よう見まねでやっただけで、本当の動物の解体方法は知らないアマチュアさん」という言い訳も成立しますので、私が気にしすぎで言い過ぎなのかもしれません。
けどですね。。家を作るための樹を伐採するシーン。これはちょっとなあと。。
斧で木を切り倒すシーン。綺麗に丸い切り株が、背景に並びますが・・・。これ斧ではこうならんのですよ。
20cm未満の樹をチェーンソーで真横に切れば、まあこういう切り口になるでしょう。
けど山で木を切り出している人なら、チェーンソーでもこうは切らないんです。
①まず斜面であれば、斜面の下側の幹に斧を入れ、くさび形に切り取る(半分まではいかない、幹の1/3くらいまで)
②次に丁度反対側の少し上辺りに、斧を入れていく(くさび形にこれも切っていきます)。
③ある程度まで行くと、樹は斜面の下方向にギギギっという感じで倒れていきます(たおれるぞー、というのはこの時点ですね)。
最初の切り込みは、倒したい方向に付けます(木が倒れる方向に別の樹があれば、地面まで倒れずに引っかかってしまうので、倒す方向は慎重に選び、反対側からの切り込みを入れる際にも、倒す方向を意識しながら調整する)。
チェーンソーで大きな樹を切る際にも、普通は倒す方向にまずくさび形に切れ込みを入れるように切り、それから反対側から切っていき、倒したい方向に倒していきます。基本は同じということです(細い木であれば、切り込みを入れずに倒したい方の反対側から切って時短することはありますけど)。
このようにして斧で切った木の切り株、バームクーヘンみたいに綺麗な輪になっているでしょうかね?
斧ではどうやったって、いわゆる絵本に出てくるような綺麗に平面な切り株の形にはならないんです。
もっとデフォルメされた絵柄であるとか、木を切るシーンが特に重要ではないなら、こんな省略絵柄でも構わないと思うんですが、仮にも「サバイバル術を駆使して・・・」という部分をウリにしている作品なんですよね。
狩猟(獲物の捌き方)にしても、樹の切り方にしても、専門書とまでは言わずとも入門書的なものでもある程度は網羅されています(ジビエの本とか、ブッシュクラフトの入門本など)。これから”ロープ結び”も出てくると思うんですが、そこで間違った結びを使っていたり(何か工作物を作るなら、巻き結びにねじ結び、角しばりや筋交いしばり、他にも色々な結索法が必要になります)、変な結び目を描いていたら、また幻滅してしまいます。。
こんな事が気になる人はあまりいないとは思うんですが、やはりこういう部分は描く前にどれだけきちんと調べたかが如実にあらわれてしまいます (作者だけではなく、編集者も含めて)。今からでも幾つか書籍を購入して読まれた方が、リアリティーが出てくると思います。。
余計な事かもしれませんが、知っている人が見れば「ああ、何も知らないで描いているんだ」と思われちゃうだけですので。。