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2018年2月

2018/02/28

今井大輔 「セツナフリック」 全1巻 ヤングチャンピオンコミックス 秋田書店

 近未来の登場人物達の微妙な心情とその変化を描く、そんなSF(スコシフシギナ)短編集です。

 いや、SFという括りは適切ではないかもしれません。作品を通して語られるのは、「もしも○○ができたら」とか、「もしも○○が○○だったら」という、ある意味、誰もがふと「こうしたら便利かも知れない」という事柄が<実現>した近未来であり、それが当たり前のように社会に浸透している、という世界です。

 実現性は別としても、あくまで<それが浸透し、当たり前になっている>ということがミソです。そんな世界で、「それをどう使うか」は個人の裁量というか使い方によります。そしてある意味では「依存症」などの社会問題にも発展し、「発売禁止」となるテクノロジーもあると。

 そういう「個人の使い方によって、黒にも白にもなる」という部分に、この作品はフォーカスを当てているんですね。

 運が好きなように使いこなせたら、意識をロボットに移せたら、バーチャル世界に没頭し過ぎたら、そしてあらゆる身体能力がインストールできるようになったら、etc.

 そんな世界設定の元で物語を描く場合、その世界全体を「群集」として、ある意味現代人から見れば狂気な世界として描くか、それに反発する登場人物を描くか(その世界に疑問を抱く、あるいは他の世界から来たという形など)、というのが、ごく一般的なセオリーだと思います。が、この作中ではあくまで空気のように「あたりまえのもの」として描かれているだけで、そのテクノロジーの詳細にはまったく触れず、家電製品の如く、「それを使って何をするか」が、この作品で焦点を強く当てている部分です。

 絶望的な状況に陥る、という状況はこの作品の中ではあまりありません(無い、とも言えませんけど、個人的にはそこまで最悪な状況に陥ってるようにも見えない)。あくまで「最新テクノロジー」を使いこなし、日々を生活する「普通の人々」の日常と喜び、挫折を描いた、そういう作品だということです。

 50年以上前の人々は、50年後には誰もが携帯電話(スマホであれば、パソコンと言ってもいい)を持ち歩いて生活しているなんて、想像も出来なかったでしょう。その頃なら、なんか百年以上未来なら、、というイメージでしたが、数十年で実現してしまったわけです。空中に画面が出るなんてのも、ヘッドアップ・ディスプレイは既に実現済で、普及段階に移行しつつあります。空中で機器を操作なんてのも、実験段階ではクリア(手を振るだけで音楽奏でたり、ゲームしたり)。何より「O.K.!○○○le」なんて声で機器を操作しちゃう世界が、お茶の間で使えるようになってしまいました。これなんか10年前の人達でも、こんなに早く実現するなんて思ってませんでしたよね。。

 そんな数十年後の「ちょっと便利になった未来」で、人々は新たなテクノロジーに囲まれ、どう生きているのか。。

 作者が意図して、または意識ているかは判りませんが、少なくともこの作品を実写にするとした場合、作中でCGや特殊技術が必要な部分は<ほぼ皆無>です。やろうと思えば、そのまま小道具を少し作る程度で実写化できますし、あるいは演劇でやるのにも耐えられるかもしれません。

 ある意味、こんな作風がこの作品の「味」であるとも言えますし、想像を超えた凄い世界ではない分、誰にでも読めるライトなSF作品であるとも言えるでしょう。どちらかと言えば、作品の世界観より、どんなシチュエーションでも「その中で足掻く人々」を、色々な角度から描くことに注力している、そういう部分に着目すべきな作品だなあと。

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2018/02/26

椿歩実 「××でも魔法少女になれますか?」 全2巻 裏少年サンデーコミックス 小学館

 魔法少女ものも色々とありまして、熟女や男性が何故か変身してしまう系など色々とありますが、まさに<老婆>が魔法少女になってしまう、というのがこの作品。まあ、他にも女子ではない者が”魔法少女”にされたりしていますが(笑)。

 老婆といっても”癒し系”の系統ですね。変身してしまうと若返っちゃう訳ですが、心の闇に取り憑かれた”魔人”達を、ある意味では<癒やし>て浄化してしまうという、そんな感じで活躍します。そして、そこに何故か”感情を奪い”ながら魔人を消去していく、別の魔法少女”達”が現れ、直接ではないにしろ、この二組の魔法少女達が、ついに決戦(?)に挑むことになるという。。

 部品だけを見てしまうと、他の作品でもありそうなシチュエーションも色々あるんですけど、全2巻でのまとめ方が秀逸だなあと思いました。

 変身できるようになっても、実は昔から魔法少女に憧れている孫には打ち明けられないヒロイン(88歳)。ある意味敵対している魔法少女達も、誰かを助けたいという意志で行動し、そして泥沼に填まってしまう(まあ、ダークサイドに堕ちてしまうというか。。)訳です。が、それらの伏線となっていた数々の問題を、上手に畳んで大団円に持ち込んでいるわけです。

 全2巻となった事情などは何かあるのかもしれませんけど、物語のスパン的にも、なんか”映画を一本”を見ているような、そんな丁度いい尺でまとまっている感じです。そして伏線の取りこぼしもなく、心の痛みを乗り越え、みんなある意味では”幸せ”になれる、そんな感じにまとまっているかなあと。。

 魔法少女を題材にした作品は沢山ありますが、設定を昇華しきれなかったり、持ち味(個性)を活かしきれない作品もまあ多い中、この作品は、ほのぼのとした雰囲気を最後まで活かし、ちょっとウルトラCもありますが、ドラマも一気に展開して楽しめる、全2巻に実に上手に収まっている作品かと思います。
 

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2018/02/21

茂木清香 「赤ずきんの狼弟子」 1巻 KCコミックス 講談社

 タイトルからして、「これどういう作品なんだろ?」と疑問に思われるでしょうが、「赤ずきん」とは、主人公である赤毛の”狩人”の通称です。

 ファンタジーではありますが、世界観にちょっと捻りがあります。この世界に存在するのは、「人間」と「獣人」、そして人と区別がつかない、獣人狩り専門の「狩人」の3種類。人の中から狩人が産まれるのかどうかは、1巻の段階では微妙に判りませんが、少なくとも”狩人”は人間とは違う存在、という位置づけで描かれています。

 そういう特殊な世界観による一つの制約というか、この物語の一つのキーは、「狩人は獣人の声は聞こえない(意図的に遮断?)」という特殊な設定です(逆に言葉は、人間も獣人も狩人も共通。狩人から獣人には言葉は伝わりますが、逆は出来ないということ)。

 これにより、ヒロインである”人狼”少女とは、かなり一方的なコミュニケーションとなり、行動に相当の制約が生じる、という事になりますが、まあそもそも少女を手元に置くことになったのも、ある意味では気まぐれ(といいつつ、過去に因縁はあるようですが)。

 人と獣人が相容れず、人を襲う獣人と戦い続けるクールな狩人と、ある意味ではかなり微妙な立ち位置で、幼獣がゆえにろくに戦えもしない人浪少女との凸凹コンビの活躍を描く、一風変わったファンタジー作品です。

 まあファンタジーといえば何でもアリとはいえ、そこに「どういう制約を設けるか」が、ある意味ではその作品のキモではないかな、と思います。まあ、その理をぶち壊すような主人公が出てくる、というのも王道ですが(笑)、この作品の場合、能力とかそういう部分への制約ではなく、「言葉が一方に通じない」という、一風変わった制約を設けているところが、結構個性的だなあと。。

 実はこの方の作品、前々から気になりつつも、ちょっと手を出していなかったのですが(汗)、こういう捻った仕組みを入れ込んでくる辺り、中々面白いなと思ったので、遡って読んでみたいなあ、という気になりました。。

 迫力もあり、そして登場人物達の行動原理も(ある意味では)判り易く、なかなか楽しめる作品です。

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2018/02/19

美代マチ子 「ぶっきんぐ!!」 1巻 裏少年サンデーコミックス 小学館

 美大を出て画家を目指すも挫折しかけ、放浪する中で入り込んだ街中の小さな本屋さん。。  とある事件をきかっけに、そこで働くことになってしまった主人公と、やる気のない店長代理との奮闘を描く、本屋再生物語です。

 本屋の日常業務や取次との関係など、本屋素人の主人公が働きながら知ることになる様々な問題が、作中で淡々と綴られていきます。本屋さん専門の問屋さんが神保町にあるなど、本屋さん経営に関連したウンチクも掲載され、本屋さんを経営してみたいとか、働いてみたいと思っている人などには、色々と有用なお話も掲載されています。

 そういう中で、街中にぽつんとある、チェーン店でもない中小書店の課題が山積、、、という部分が如実に描写されていきます。特に大きいのはやはり万引きですね。漫画1冊でも万引きされれば、その損失分を回収するためには数十冊以上売らなければいけないという理不尽さ・・・。しかし、万引き対策とはいっても、人の目を増やすか、高価な商品はレジ近くに並べるとか、限度があります。監視カメラを大量に付けるにしても、まあ最近は単価も安くなっていますが、数十万円以上の投資と運用ノウハウも必要です。

 そしてもう一つの大きな問題は、「無い本を注文しても、届くのに1週間~10日以上掛かる」という大問題です。これは機械的に取次からの配本だけを扱っていたり、新刊を注文しても必要部数を廻せて貰えない中小書店で起きまくる事態。そんならAmazonで買うわ、ということにどうしてもなってしまいますよね。実際、出来るだけ私は本屋で本を買いたいと思っているんですが、マイナー本ばかり買おうとするもんで、数軒の本屋を探し回っても新刊本なのに<無い>ということが発生します(大きな書店でも売り切れて消滅している)。その場合、1週間くらいで諦めて(でないと買い忘れてしまうので(汗))、Amazonで注文することはあります。。

 1週間も本を探し回って彷徨うなら、決まった本屋で注文すればいいじゃん、と言われればそうなんですけど、やはり出来るだけ早く読みたいという気持ちもあるわけで、じゃあAmazonで買えばいいじゃんと言われればそれもそうなんですけど、「本屋さんに頑張って欲しい」という気持ちがあるわけです。。

 妙なジレンマを毎日体験している昨今で御座いますが、「取次」を含む再販制度が中小書店を救ってきたという一面もあるものの、この大手偏重で出版社都合なシステムが根本的に変わっていかないと、少なくとも中小書店の未来は無い、、、と言えると思うんですよね。


 時系列的には現在(2018年)から10年前くらい、という時間軸である点には、一つ留意しておく必要があります。・・・これは暗に、「今でも通用するのか」という根本的な問題への暗示・・・でもある気がします。勿論、この時期を描いているのは、作者が自分の働いていた経験を活かすため、だとは思うんですけどね。

 10年経っていまどうなっているかと言えば、Kindleを筆頭とした電子書籍が、特にコミックス市場を席巻しており、業界の総売上げで見れば、紙ベースの出版金額とほぼ同等の市場規模となっています(ちなみに電子書籍の8割が、コミックスで占められています)。さらに言えばスマホで配信されるような媒体でコミックスが大量消費されており(この金額については電子書籍にはカウントされていないはず(カウントしようもないので))、紙ベースのコミックスは衰退の一途という状況です。

 まあ本は漫画ばかりではありませんが、実際に漫画の売上げが書店に貢献している比率は、雑誌に次いでやはり高いのが現状です。街中で生き残っている中小書店を見る限りにおいては、個性をウリに特定の分野に特化(芸術系とかサブカル系とか、特定の趣味系等)するというのが、一つの逃げ道というべきか、生き残り策の一つではありますよね。。これはある意味、この本でも取り上げている”救済策”の一つでもあります。

 けどそれが、どんな規模の書店でも通用するかと言えば、やはりそうではないよな・・・と思います。

 うちの近所で潰れた書店は3~4軒くらいは憶えています。小さな零細な書店で、雑誌等の取り置きで何とか凌いでいたような、そんなところばかりでした(憶えている限りは)。それがじゃあ、色々な方法を駆使すれば救えたかと言えば、、、それは多分無理だったでしょう。最低限、ある程度の広さと品揃えは必要だと思います。縦長で10畳もないような小さな本屋は、消えるべくして消えたということでしょうね。。

 この作品を読んでいると、色々な想いが頭の中を錯綜しまくるんですが、「応援したいけど出来ないもどかしさ」が特に強いんです。そしてPOPを作ったり特設コーナーを作ったり、サイン会を開催したりという頑張りは、色々な書店でも実際に見かけます。が、それは店主や店員さんを含めて「特定の人の頑張り」で維持されているものであり、その人が何らかの理由で辞めてしまえば、そこでプツッと切れてしまうものでもあります。。

 知り合いが居たわけでもないんですが、よく利用する書店の品揃えが如実に変わるということを、何度も見てきています。平台の作り方から新刊本の並べ方、そして既刊本にどんな本を並べるか、全て店員さん達の個性が表れる場所です。そこがガラッと・・・大抵は悪い方向に変わるのを目にする時、とても寂しく感じるんですよね。。

 色々な意味で「本屋さんを経営すること」が、過酷なデス・レースに成りつつあるいま、既存作品の愛蔵本化、文庫化や、簡易製本でコミックスに並べ続ける出版社(要するに、過去の遺産を再消費し続けているだけ)、大口の大型書店やチェーン店相手をしていれば食いっぱぐれがない取次問屋、再版システムがあるからと惰性で経営し続けている中規模以上の書店など、作家をどう育てていくかも含めて、真剣に考えなくてはいけない時期に、2018年は突入しつつあるんではないかなあと。。

 電子書籍は避けられない波です。私も完全に乗り遅れてはいますけど(色々な事情がありまして・・・)、毎月数十冊も購入している漫画を、どういう形態で買っていくかという部分を、今年は改めて考え直そうと思いました。

 この作品はある意味、長年モヤモヤしていた部分をハッキリと再認識させてくれて、そして書店の理想と現実について改めて考えさせられるきっかけを与えてくれた感じがします。
  

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2018/02/16

杉谷庄吾【人間プラモ】 「猫村博士の宇宙旅行」 全1巻 宙出版

 初っぱなの太陽系<キッチュな宇宙人てんこ盛り>に見事に騙されてしまいますが、読み進むうちにそんな設定も全て<伏線>であることに気付かされ、つい唸ってしまいそうに。。

 とにかく何というか、SF考証を駆使しまくった壮大なスペース・オペラ的な作品になっています。主人公の「宇宙美人ハーレム計画」以外は(笑)。
 ・・・と言いつつ、その行動原理すら植え付けられた脳内記憶であったというオチの凄さに、感服といった感じです。はい。

 最初の設定の不純さ(笑)から、和気アイアイとした太陽系の旅あたりまでは完全に”罠”です(断言)。

 そこからは空間跳躍から古代文明の謎、そして「宇宙の果てには何があるのか」まで、相対性理論から空想科学の粋を尽くしたといっても過言ではないくらい、本当にてんこ盛り。
 そして時間跳躍まで駆使して<全ての始まり>が何であるのか、全ての伏線が綺麗に折り畳まれていきます。そしてラストのオチの何とスピーディーなことか(笑)。

 帯の宣伝文句である「これは、SF好き、冒険好き、漫画好きに贈られた素敵で楽しいプレゼントである!」という言葉だけで、この作品の全てが語られちゃってる気がします。いやまあ本当にこの通りです。読み進むうちに「なる程」と心の中で頷いて納得してしまうことを、何回も繰り返してしまいました。。漫画のストーリーとしても、ホントによく練られているなあと。

 下手にあらすじなんて書く必要はない、上記のキーワードに一つでも引っかかるものがあったら、絵柄に騙されずに「まあ読んでみなさい」としか言い様がない、そんな作品だと”強く”思います。
 

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2018/02/14

椙下聖海 「マグメル深海水族館」 1巻 BUNCH COMICS 新潮社

 深海の生物を紹介し、そして水中展望所でもそれが見られる、そんな近未来の深海専門水族館の舞台裏を描く、空想科学物語です。

 まずひとつ目に、近未来=SFという形を取ってはいますが、扱っている深海生物については実在するものであり、また生態や飼育方法上の問題点なども、概ね最新の知見が生かされている感じがします(ここは細かく見てませんけど)。

 その上で、そういう深海生物を誘き寄せられれば、水族館というかは水中展望台でもある、この施設の目玉になるだろうという、そういう設定ものと、空想科学作品として描かれているのが本作といったところでしょうか。

 水族館を扱った漫画というのも、こうしてみると沢山あります。その多くは「飼育員」と、扱う生物の生態や飼育する上での苦労などのエピソードで構成されています。

 この作品も「空想科学」と言いながらも、そういう文法に倣って構成されていますが、「人がまだ多くを知らない深海世界」へのロマンと共に、そして生きものを扱うという現実についても、しっかりと描かれています。

 現在ある水族館も、様々な展示の工夫や飼育する上でのノウハウで楽しめます。そして深海生物を扱い、展示している水族館も結構あります。恐らくそういう場所でのノウハウなどについても、この作品では取材したり調べるなどして活かしていると思います。

 そういう意味で、生物好きな人でも楽しめ、そうでない人にも「生きものを見せる施設とは何か」について、とあるアルバイト(1巻では)の視線を通じて、結構根本的なところから描いている、そういう作品でもあったりするんですね。

 SF(空想科学)という衣を羽織りながら、動物園や水族館など、生きものを展示する施設の存在意義と、そこで働くためのモチベーション、そしてその施設の可能性について描いているような、そんな感じがするんですね。

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2018/02/12

島崎無印 「乙女男子に恋する乙女」 1巻 星海社COMICS 講談社

 幼い頃のトラウマで男性恐怖症に近い女子高生を、電車の中で助けてくれたのは、どう見ても女性にしか見えない「女装男子」の”ゆき”で、、、様々な友人達も絡んでの複雑なお話の始まりです。

 対人恐怖症的に男性を怖がる主人公ですが、この「綺麗な男の娘」はさらっと男性であることを早速カミングアウトしますが、何故か彼(?)だけは平気。「男の娘カフェ」で働く彼(?)とも徐々に仲良くなるわけですが、当たり前ですがそれを心配する親友と、密かに彼女に想いを寄せる同級生(男子)も、この複雑な物語に巻き込まれていきます(笑)。

 「ココロは乙女」にも、実際のところ色々とあるわけですが、この物語の女装男子は、キラキラしたものが好きで女装をしているのであって、恋愛対象は男性という設定になっています。LGBTにも色々とありますけど、それも少し絡めつつも、かなりソフトに”男の娘”を描いている感じでしょうか。

 この作品である意味、感心したのは登場人物達の心理設定や行動原理が、「こういう状況ならこうするよな」「こうなったらこう考えるよな」と、まったく無理がないので、すーっと物語の中に入っていけて、そしてそれぞれが色々な想いを持ちながら、自然に行動していることかもなあ、と思いました。

 まあ男の娘をどう描くかも色々とあるんですが、ある意味、ヒロインだかヒーローだか複雑な「ゆき」は、本当に可愛いものが好きなだけで、そういう物を身につけてみたいと素直に思うだけの、そんな”男の子”だったわけです(巻末の番外編で触れられていますが)。そういう意味で、ある意味では非常に判り易い性格でもあるので、何というか「感情移入も案外し易い」キャラ設定だなあと。

 そして多少ネタバレになりますが、密かに想いを寄せていた男子も、何気に料理が上手くて女子力高いが為に見事に”巻き込まれ”ていったり(笑)、親友は親友である意味がさつで男の子(少年)っぽさのある設定となっており、それぞれのキャラと対照的な立ち位置を演じていたりと、いろんな意味でバランスが絶妙だなあと思ったりしました。

 ”男の娘”を描く作品もあまたありますけど、ちょっと独自な方向性を感じる、そんな作品かなあと思いました。

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2018/02/10

かばた松本 「路地裏バンチ」 2巻 ジャンプコミックス 集英社

 おてんばで暴走気味(笑)な少女(いわゆるお嬢様)が、屋敷から抜け出して迷い込んだのは、街の片隅にできた、ホームレス達のたまり場・・・。

 そしてそのたまり場には、様々な過去を持つ人間達がたむろしており・・・。

 まず最初に断っておきますが、作品の主人公は誰なのか?という部分。
 とりあえずは、2巻の表紙に出てくる青年の視点で主に描かれていくのですけど、災いの元(?)でもあるおてんばな少女と共に、ヒーローとしての謎の老人(1巻表紙)が登場します(まあ、こちらが主人公とも言えますが)。

 作風としては、アメリカのB級アクション映画といったところかなあと(西部劇的な感じもあるかな?)。

 いわゆる青年は、(色々と事情はあるかもですが)ごく普通の路地裏ホームレスで、真面目で優しいけどヘタレな、何の得意技もない一般人という立ち位置です。ホームレス達も、癖はありますけど、概ね一般人が殆ど。そういう普通の人々が、様々な<特殊な技能を持った奴ら>の戦いに巻き込まれていく、という感じでしょうかね。

 なので、ある意味では読者は感情移入しやすく、そして路地裏に次々と現れる輩の異常さが引き立つといったところかも知れません。。

 まあ、何にせよ「ハト」と呼ばれる謎の老人が無双すぎますけど、それと同等にやり合える、お嬢様付きの執事も曲者です(笑)。そしてニヒルで何を考えているか判らない、路地裏のもう一人の”危険人物”に加え、2巻では「歩く凶器(いや狂気?)」のような人間まで現れ、殺伐とした雰囲気になります。
 物語的には、まだまだどんどん殺伐として生きかねない雰囲気ですなあ。。

 ”今は”人は殺さないと誓った老人と、平気で人を殺戮できる人間(実際に死人も出てくる)との対峙は、コメディー調な仮面を被りながら、実はかなり”ハードボイルド”な作品でもあったりすると。。
 静である意味、平和なはずの路地裏が、徐々に殺伐とした雰囲気に浸食されていくわけですね。。

 「アメリカのB級アクション映画」と書いたのは、こういう表現が雰囲気が判り易いかな、と思ったのですけど、何といっても2巻巻末の「特典映像」という後書きが、構成的にも面白かったので、それも踏まえてのお話です(笑)。

 よく話と話の間の空きページ(1ページほど)に、オマケで一コマとか4コマで、その後のオチを描くというのはよくやられていますけど、これを巻末に集めてDVDなんかによくある”特典映像”という括りにして、結構なページ数を割いて遊んでいる(笑)んですね。

 ああ、こういう方法があったわ(笑)と、ちょっと楽しませてもらいました。

 そしてこれを見ながら、「ああこの人、映画が結構好きなんだろうなあ」と思った次第です。そう思いながら作品全体を見てみると、目指しているのはアメリカのB級アクション系の作品なのかもなあと(※私が想ってるだけなので、違うかも知れませんけどっ!)。

 何にせよ、少年漫画でありながら、かなりハードボイルドな作品でもあるという、表紙の見た目からはちょっと判りにくい、そんな作品だなあと思ったりしました。
  

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2018/02/08

環望 「泪~泣きむしの殺し屋~」 1巻 アクションコミックス 双葉社

 様々な事情から、一人の人間を勢いで殺してしまった女性。。  しかし、何故かその証拠が次々と隠匿され、届いた謎のスマホからの指令を受け、新たに別の人間を殺める事になっていく、そんなサスペンス・ストーリーです。

 冒頭での”殺人”に至る事情は、1巻の中でストーリーが進むと共に、徐々に明らかになっていきます。そしてそれ以上に不気味なのが、スマホから指令を送ってくる”謎の組織”の存在、、、

 殺害する相手は、ある意味では殺されても一向に構わない程度の悪人という設定なので、「必殺系」とも言えなくはないんですが、その刺客に向かわされるのが、その日まで何の訓練すらも受けたこともない、一介のOLであるということです。

 しかし、その”組織”の謎については、徐々にジワジワと存在感を増していきます。
 何でもない日常の中に潜む”協力者”達の存在が、ある意味では不気味です。出会い頭に「話は聞いている。」という一言で存在が明らかになりますが、どこをどう見ても普通に生活している”市民”でしかないと。

 そんな普通の”市民”を、色々な弱みを握りながら組織化しているのかもしれない、、、そんな予感がよぎります。

 凄腕の殺し屋ではなく、「そこらにいる普通の人」を協力者、もしくは暗殺者に仕立てるという辺りが、何というかリアリティーもあり、不思議な感覚なんですね。

 様々な伏線から”彼女が何をしたのか”も明らかになっていきますが、そういう謎解き的な部分の周到さもなかなか深いなあと。

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2018/02/06

井上小春 「死神坊ちゃんと黒メイド 」 1巻 サンデーうぇぶりSSC 小学館

 ”魔女の呪い”によって、手に触れるものから生命エネルギーを吸い取ってしまう=殺してしまう体質となってしまった貴族出身の少年と、その少年の面倒を見る、”ちょっと困った”メイドとのやりとりを描く、ちょっとHなコメディー作品。

 主人公の少年は、別に死に神や悪魔というわけではなく、子供の時代に”魔女”に掛けられてしまったその”呪い”のために家族からも隔離され、生きものや草花すら触れる事ができなくなってしまい(触れると死んだり枯れてたりしてしまう)、寂しい日常を送っています。
 その少年の面倒を見る立場のメイドですが、まあ容赦なく”実に困った迫りかた”で、少年を”誘惑”し、翻弄してきます(笑)。

 少年は触れることができない(=優しい)訳ですが、もうチラリズムから何からで寸止め的にメイドに精神攻撃されまくるというか(笑)。大人しく静かに、けど大胆にチラチラと迫るメイド、、、病的と言ってもいいかもしれませんが(笑)、それに必死にあがなうウブな少年と、翻弄しつつもある意味では優しいメイドとの、微妙な交流を描いている、と言ったらいいんでしょうかね。

 魅惑的と行っても少年誌レベルです(笑)。
 そんなに露骨ではありませんが、まあ普通の少年なら理性と忍耐で耐えるところを、物理的に「触れてはいけない=相手の死」という枷をはめる事で、コメディーとしても成立していますし、心情的な葛藤で乗り切るしかない、という部分もある意味、うまく描けているんじゃないかなあと。

 まあ基本はコメディーですが、状況設定が結構よくできているので、二人のやりとりがなかなか面白い、そんな作品です。

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2018/02/02

ドリヤス工場 「テアトル最終回」 全1巻 サイコミ 講談社

 ある意味、「一発ネタ」として何かの物語の最終回から始まるというのは、とり・みきやその他の方がやられていますが、それを単行本1冊まるまる全部、オムニバス形式で「何かのお話の最終回」だけで構成するという(ありそうなお話ばかりなので、そのパロディ的な)、なんかもう吉本喜劇か何かのノリで描かれた、ある意味では実験的な凄い作品です。

 物語もSFから人情ドラマから多岐に渡り、似たようなキャラが、ちょっとずつ違った設定で繰り返し登場する「スター・システム」で構成され、延々と様々な「よくありそうなお話の最終回」が登場しますが、オチはなんだか不条理っぽいものもあり。。

 それぞれが面白いかどうかは意見も色々分かれそうですけど、この「延々と繰り返す」という吉本喜劇的なノリは、並大抵の根性とエネルギーがないと出来ないことだと思ったりします。

 ちまたで話題となった「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」についても、省略の仕方についての意見はあれど、3冊も続けて描き続け、クオリティーも落としていないという辺りで、その根性と注がれているエネルギーは凄まじいような気がしています。読んだことがある作品で、結構納得のいくまとめ方をされているので、未読の作品のアレンジも「ああ、こんな感じのお話なんだ」って妙に納得が出来てしまうというのは、相当大変な作業だとは思いますけど、なんか凄いなと思ってしまう次第。。

 ある意味では小ネタではあるんですが、そういうエネルギー量は、この作品からもほとばしっている気がしたりします。漫画って色んな事が出来るんですねえ。。

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