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2017年8月

2017/08/24

小林銅蟲 「寿司 虚空編」 全1巻 三才ブックス

 まずもってして、この本をどう紹介すればいいのか、という問題があります。

 寿司、、そう。寿司屋の場面から始まるこの作品ですが、もう1ページ目を開いて2ページ目から、全て崩壊しています。

 突如始まる<グラハム数>探求の旅、そして<フィッシュ数>への数学的怒濤の展開、、あらゆる数学記号が飛び交い、数の大きさ=強さという前提で探求される数式の積み重ね、、、

 要するに「巨大数」を追い求めるという数学的なプロセスを、漫画という枠を使いながら、ビジュアル的に魅せてくれるという、、、そういう漫画・・・なのかもしれない何かです。

 というか、そもそも寿司屋であることが何の関連性もなく、異次元と繋がるわ、ヒロインは○○だわ、今どき珍しいくらいの崩壊型<不条理漫画>と化しているんですね。落語的な不条理ではなく、まあ吾妻ひでお的なカオスな不条理というか・・・。

 けどまあ、実際読んでいても数学アレルギーな私には、内容はちんぷんかんぷんなんですが(こらこら)、関数を使いながら展開し続け、数式だけで4ページ以上ズラズラと並べることで<数学をビジュアル的に表現する>という事をしているところが、何というか凄いなあと思ったんですね。

 内容は理解できなくとも、そのプロセスの面白さ、展開を続けていくと、あるとき突然、左右で消せる数字や枠が出てきて、そしてかなり単純な数字と記号の関数が導き出されてきた時、解りもしないのに(爆)、なんだか「・・・美しい、格好いいかもしれない。。。」と思わされてしまったりします。

 正直、この作品はどういう人が読むべきなのか、勧める相手がよく判らないという感じがありますが、思い切って<数学アレルギー>なヒトが読んでみたら、なんか数学の見方が急に変わってくるような、そんな感じも受けるかもしれません。

 ・・・が、ちょっとこのカオスな不条理展開は、その部分でかなりヒトを選ぶかもしれない・・・。私はもうこの部分だけでごはんが食べられるんですけど、一般的には不条理漫画って「理解できない」ということで敬遠されてしまうんですよね。。

 まあ、嫌われている数学の世界と敬遠されている不条理の世界がここで融合し、新しい世界が開けていく・・・そんなことには・・・なってないかもしれませんけど、なんか頭の中がグネグネされる、そんな漫画です。

 けど、中身のメインテーマ(?)である「巨大数」については、査読まで付けて超本気モードな本です。これは御本人が好きでかなり拘ってやっていないと、ここまで踏み込み、そして噛み砕いて漫画として描くなど絶対できません。そういう意味では「巨大数とは何か」というとっかかりの入門漫画本としては、凄い本なのかもしれません。。

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2017/08/18

やまむらはじめ 「SEVEN EDGE」 2巻 ホーム社

 大震災により崩壊し、大阪に遷都したことによって、日本から見捨てられた首都圏。  そこから徐々に復興しつつある、混乱を引きずった無政府状態に近い状況下において、謎の組織からの指示で<暗殺>を行う組織に引き抜かれることになった青年の活動を描く、そんな<必殺>系のハードボイルド作品です。

 一応、秩序は戻りつつあるものの、銃が普通に使われるような無政府状態の首都圏は、少し前によくあった「近未来の世界」に近いものです。

 作品の世界観は、かなり昔の作品になりますが、「境界戦線」のその後、という位置付けになるかもしれません。

 日本が壊滅的に無くなってしまった訳でもなく、位置づけが中途半端な都市で生き残らざるを得ない人々がいる、というシチュエーションは、どこか80年代も彷彿とさせるような感覚もあります。まあ、近未来モノも色々なパターンがありますが、そんな中では結構私は好きな世界観です。

 内容的には”必殺”と書いてしまいましたが、不法地帯の復興といえば、色々な利権やしがらみ、そして金の流れなどもあり、処罰されない悪も当たり前のように闊歩しています。少しずつでも正常に戻りつつあるように見えて、そのような”悪”が暗躍する、そこに入り込む「暗殺集団」が「EDGE」という組織、という形です。

 ただし、その存在自体が絶対の正義という感触もありません。謎のスポンサーから悪事の証拠を踏まえた依頼が来ることで、ターゲットの暗殺が実行されるわけですが、スカウトされた主人公も、元々は銃を持った学生運動家のようなものに近い、組織的には何人も人を殺してきたガンマン。その腕を買われて(ついでに曲芸師のような暗殺少女との成り行きで)「EDGE」に加わることになったわけで、組織に対する不信感も抱えたまま、活動しているといったところ。

 それだけだとちょっと暗い話になってしまうわけですが、前出の曲芸少女や無表情なスナイパーなど、登場人物はどれも個性的で能力も半端なく、かなり際どいミッションをギリギリの判断力とその能力で切り抜けていきます。

 ある意味では正統派のハードボイルド作品、といったところだと思いますね。そういう意味で、こういう銃を本気で撃ち合う作品が最近少なくなったなあ、と思っていたので、ちょっと喜ばしい限りです。

 P.S 余談ですが。。やまむらさんはマニアックな鳥を描くのが好きで、私もとても嬉しいんですけど、たまに生態的な描写がアレな事になっていて、ジレンマに陥るのです。。この作品ではなく、先日完結した「碧き青のアトポス」(全7巻)で、そんな描写があったので、それについて書こうと思いつつ、ずっと躊躇して今日に至ります。。が、一言だけ書いておきます(今頃すみません)。
 「オオミズナギドリは、(カモメと違って)小さなボートの上に降りられません(体の構造的に)。」
 まあ、、、鳥を知っている人にしか判らない話なのですけどね(種名書いてないですから、言われないとどの鳥か判らないでしょうし)。

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2017/08/15

さがら梨々/岡本健太郎 「ソウナンですか?」 1巻 ヤンマガKCスペシャル 講談社

 女子高生だけの無人島で遭難サバイバル、というフラグが立ちすぎなシチュエーションなんですが、中身はかなりしっかりとした<本気サバイバル>をベースにした構成になっています。

 無人島生活ネタのテレビ番組も結構多いですけど(まあ、、、本人達には過酷でしょうけど、リタイヤは出来る環境ですからね)、まあそれの超リアル版といったところでしょうか。

 飛行機が落ちて海上で干されるところから、本気のサバイバルは始まります。そして何とか陸へと辿り着けるわけですが、水すらも得るのが困難な無人島で、生き延びることはできるのか。。

 女子高生4人を主人公にする、というところは、結構当たっているなあと思います。

 うち一人は、父親に鍛え上げられた、あらゆるサバイバル術を身につけた猛者であり、彼女達の命綱でもありますが、、、当然ですが、普通の女子高生には耐えられないような<モノ>を、飲んだり喰わせたりしようとするわけですね(笑)。

 それに対して抵抗を思いっきり感じつつも、本気で死を感じながら徐々に受け入れざるを得ない、そんな葛藤の日々を、女子高生達の肌感覚を通じて伝えてくれている訳です。ここで男性がいるとまた方向性が変わってしまうと思うんですが、とりあえず皆女子高生という構成は、作品的には正解じゃないかな、と思ったりしました。

 サバイバル術に長けたスーパー女子高生も、何でもできると言えばできるっぽいですが、ある意味ではコミュ症でもあります。そういう苦手意識や距離感も含めて、4人で克服していこうという、そんな物語になっていますので、サバイバル術も本気ですけど、物語としても結構練ってあるなあ、という感じがします。

 サバイバル部分は、「山賊ダイアリー」の岡本健太郎氏なので、特に狩猟部分がかなり拘っている感が強いです(笑)。が、あえて一言だけ言えば、、、、離島にウサギって居るんかなあ?といったところだけ、引っかかりました。。

 離島であれば、野鳥の方が可能性があるような気はするんですが(この島だと海鳥の繁殖地などは微妙な気もしますが、無いとも言えないですし。そういえば、鳥の描写が殆ど無いのがちょっと不自然というか気掛かり?)。

 まあ元々は無人島ではなく、人が住んでいた可能性もあるという設定なのかもしれませんね(まだ本体は見えていませんが、恐らくアナウサギのような気もしますし。実はノウサギだったらちょっとビックリしますが(汗)。結構広い島という想定であれば、アリなのか、、、)。

 という上げ足取りみたいなことは置いておいて、、、ある意味、本気のサバイバル術を楽しく、そして常人の感覚の代弁として葛藤してくれる女子高生を通じて描いた、なかなか面白い作品な気がします。
  

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2017/08/10

園田俊樹 「シンギュラリティは雲をつかむ」 1巻 アフタヌーンKC 講談社

 レシプロ機が飛び交うという世界観の中で、一寸どういう理由かは分からない、合理性がどこにあるかも判らない<人型>の全身翼航空機と出会うことで、戦いの世界に巻き込まれ、、、いや、飛び込んでいこうとする、ある天才工学少年の軌跡を描こうという作品です。

 設定的には「ラピュタ」の世界観を想像した方が判り易いかもしれませんけど、あれはオーバーテクノロジーの話。こちらは人型とはいえ、各方面の天才エンジニアが、その世界での最先端技術を駆使して作り上げた機械であり、足が地に着いているという部分が大きく異なります(まあ、いわゆるロボットではないので立てませんが)。

 ある意味では、レシプロ機などを超えたテクノロジーとも言えますが、大きな問題がありました。それは「操縦用ソフトウェア」が、30箇所もの可動部分があるメカのテクノロジーにまったく追いついていないというか、その機体が開発された当時、誰も開発ができなかったということです。そのため、その「凄いけど使えない」機体は、谷がちな田舎の小さな町工場の中に、ただ佇んでいるだけであったと。。

 そんな機体が、ある意味では天才肌で自己中、そしてある意味ではコミュ症(笑)の少年と出会い、そして予期せぬ外部からの攻撃により、出撃するというシチュエーションが生まれます。。そして、「レシプロ飛行機」の操縦系から開放されたその機体は、想像を超えた機動を始めることに、、、

 と書くと、結構よくあるアニメーション作品の物語の組み立てなんですけど、この作品の場合、ひと味違う所があります。

 それは主人公である少年が、純粋に誰かを助けたいとかそういう衝動ではなく、「この機械を使いたい」「自分を認めてもらいたい」という欲望に対して、素直に行動することを求められていく、というところでしょうか。。
 親父も開発に何らかの形で関わっていたようですが、豪快ながらかなりの曲者です。
 そして少年は、自分の欲求を叶えるためにはどう行動すればいいのか、それを真剣に考え始め、そして実行し始めると、、、、

 戦闘という非常事態を利用し、そしてクラスメイトや市民達を巻き込みながら。。

 そういう精神面の駆け引きが、この作品のちょっと違った味となっている気がします。ちょっとまだ構成にぎこちない部分もあるんですが、先の物語がかなり気になる作品です。

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