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2017年5月

2017/05/29

阿部洋一 「新・血潜り林檎と金魚鉢男」 全2巻 アース・スターコミックス 奉文堂

 頭が<金魚鉢>の背広の紳士が唐突に現れ、金魚鉢の中の金魚が人を襲うと、その人は<金魚>になってしまう。。

 そんな恐怖に怯える街で活躍するのが、スクール水着を着た少女、”血潜り”達で、彼女達でしか金魚男の毒を処置できない。但し、その能力を使って”潜れる”のは、襲われたばかりでまだ金魚になっていない人のみ。金魚になってしまった人々は、もう金魚のままで居るしかない。。

 スク水女子が街中を走り回ってる段階で、なんかもう小さな劇団のアングラ演劇の世界を彷彿とさせますが(・・・アングラは死語かしら?)、まさにそういう雰囲気の漂う作品です。

 敵対する同士とも言える「金魚鉢男」と「血潜り」ですが、ある意味では「血潜り」も特殊な職業。金魚鉢男が消えてしまえば、存在意義は当然消滅してしまいます。既に彼女らも”人ではない”とも言えますし、そんな葛藤を巡る戦いに、話は急展開していくことになります。

 2巻ではとうとう宿敵の「金魚鉢男」を倒すことに成功はしたものの、それによって却って最悪の事態が引き起こされ、街そのものが金魚毒に飲み込まれていきます。その状況を打開するためには、ヒロインである”林檎”の存在が不可欠となる訳ですが。。

 ストーリーや設定が突拍子ないので、なかなかストーリーの説明をするのが難しんですが、この作品自体は「文化庁メディア芸術祭漫画部門」の審査委員会推薦作品にもなっています。

 ところが電撃コミックスジャパンが2012年に休刊。 その後、2015年にコミックアーススターで復活を遂げる、という経緯がありました。電撃コミックスジャパンでの既刊本(全3巻)も再版され、5冊目にしてやっと完結を迎えることになったわけです。

 どこか夏休みの終わりのような不思議な世界観と、唐突に現れる謎の<金魚鉢男>の存在が、何とも独特な雰囲気を作り出しています。

 想像を超えた意外な”結末”を迎えた作品ですが、ある意味では”この世界観を維持しつづけた”ということでもあるのかもしれません。勿論、ここに至るまでのストーリーもなかなか面白く、ワクワクとは違うかも知れませんが楽しませてくれる作品でした。

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2017/05/26

史群アル仙 「史群アル仙のメンタルチップス 不安障害とADHDの歩き方」 全1巻 秋田書店

 作者が自分の不甲斐なさにさいなまされ、誤診による薬物障害で迷走し、ある日やっと”自分を発見”し、そしてネット上で”史群アル仙”が発見されるまでを描いた、ある意味では「史群アル仙のこれまでの足跡」を、ADHDという障害との長い付き合いを通じて淡々と綴った、そんな一作品です。

 作者が抱えていた数々の問題や、自分でコントロールできない感情、情動を淡々と綴っていますが、何かに集中しすぎると周りが見えなくなるとか、ついつい思った通りの事を喋ってしまって湿原を繰り返す、という辺り、私自身も少し経験があるというか、、、思い当たる節は沢山あったりします。。まあ、生活に支障を来すほどの悩みや大失敗、とまではいかない程度ではありますが。

 とはいえ、私自身がADHDなのか、という話ではなく(とか言いつつ、簡易チェックはやってみて陰性でしたが(汗))、ある意味ではその延長線上に、”生活に支障を来す程の問題”となるレベルで悩み続けた作者がいたという、、、つまりはADHD(注意欠如多動性障害)は、病気というわけではなく線引きというか”程度の問題である”という事を、改めて認識させられた、という感じですね。

 現在も別に症状が直った訳ではないようですが、自分自身が何なのか、何故そう行動をしてしまうのか判らない、理解ができない、、、幼少の頃からそんな生活を続け、そしてアルバイトや仕事でも失敗ばかりで、まともに働くことも困難を極め、そして最悪なのは”ヤブな精神科医”(・・・という表現は、作者は極力避けているようですが)に当たってしまった為に、さらにアンコントロール状態に拍車が掛かり、、、とうとう精神病院に自主入院するところまで追い詰められてしまったという。。

 それを救ったのは、いろいろな意味で周囲の人々の気遣いだった、ということなんですよね。

 勿論、周りの人もなぜ作者が極普通と思われることが全く出来ないのか、不思議でしょうがなかったと思います。本人以上に。けど、ある意味では、それも”個性”と捉えて支え続けてくれたということですよね。。

 私はネットではなく本屋さんでの初見でしたが(デビュー作「今日の漫画」)、1ページめくって、2ページめくってと1ページという短編を読み進める中、こんな話をたった1ページに収めるのは凄い才能だなあと思ったんですが。。

 実は、それが完全に<誤解>であったことが、この本を読むことで判ってしまいました。。
 要するに”発見された当時”「1ページというスパンでしか作品を作れなかった」んですね。この症状のために。

 けど、その1ページの中に、何故ここまで訴えかけるような深いメッセージが込められるのか、というのも逆にこの”症状”如何だったような気もしてきます。そして、ある意味では”才能”として開花した部分でもあったのだと思います。

 本人も発表直後、ツイッターのフォロアーが爆発的に増えるのを見て恐ろしくなったでしょうけど、当時”発見”した人達も、本当にビックリしたんじゃないかなあ、と思ったりします。それだけのインパクトが、1ページずつの作品の中に押し込められていましたから。

 ADHDについて理解して欲しいという作者の想いと共に、この作品はある意味では”史群アル仙のautobiography(自叙伝)”とも言えるんじゃないかなあ、と思ったりしました。

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2017/05/24

横山旬 「あらいぐマンといっしょ」 上巻 BEAM COMIX エンターブレイン

 愛用していたアライグマのぬいぐるみを、彼女と一緒になるために捨てようとした際、落雷にあって意識不明のまま病室で昏睡し続けていた一人のサラリーマン、、、数年後にひょんな事から目覚めてみると。。

 奇想天外&ノンストップな、ドタバタ珍道中、といったところでしょうか。

 何を書いてもネタバレになっちゃいそうなので難しいところですが、簡単に言うならば意識のない時にも病院に通い続け、実家に”痕跡”を残していった彼女を、小さな手がかりを元に探して訪ねる、そんな”旅”物語です。”

 けどまあ、旅というかは珍道中、さらに言えば”大冒険”みたいな事になっちゃってますけどね。

 そのお供は病院で出会った、ちょっと何かが足りない大声の大男。ぶっきらぼうで”足りない”ながらも、じつに実直で真面目で人を疑うことも知らない、ちょっと扱いにくい相棒と”ぬいぐるみ”が、様々な出会いやトラブルに振り回されながら、少しずつ目的の核心に迫っていくという、、そんなお話です。

 上下巻なので次で終わるんですけど、そもそも読み始めてからのぶっ飛びぶりが半端ないですね。。

 想像を超えて展開するトラブルと、やけくそな主人公の異様なまでの”順応力”でもって、まさにジェットコースターのようにお話は進んでいきます。

 ただ、途中のトラブルやドタバタや葛藤を省いてしまえば、物語はいたってシンプルで判り易い構図でもあるので、いろいろな意味で脱線と暴走を繰り返しながらも、ストーリー自体を見失うことはありません。

 まあ、<驚愕の事実>が下巻では待ってそうな気もするのですが、、、上巻だけを読んでしまうと、どんだけ奇想天外で想像を超えた事実がそこにあっても、この主人公なら<まあいいか>って(いいかげんに)順応して乗り越えてしまいそうな、そんな気もしたりします(笑)。

 そういう意味で、暴走しまくりな物語ながら、ちょっと安心して読める、ドタバタコメディーといったところですね。
 

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2017/05/23

大宮宮美 「つるぎのない」 全1巻 マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ マックガーデン

 「ゆるゆるファンタジー」というジャンルがあるなら、まさにそんな感じの聖剣と伝説の勇者の物語です。

 そもそも論で、”聖剣が頭に刺さってる女の子”というその設定がかなり突拍子がないわけですが(笑)、その割には記憶を無くしていて、のほほんとした性格のヒロイン。そして聖剣を抜く事ができる伝説の勇者の子孫で、7人兄姉の中では妹よりも”あらゆる才能”がない、いわゆる落ちこぼれの最弱の勇者(結構荒んでいる?)が、何の因果か旅・・・というか兄妹達の追跡を振り払って逃避行を行うことになるという、そんなお話です。

 抜けないと思っていた聖剣が、なんだか意味不明なものを付けたまま抜けてきたり、色んな伝承(例えばドラゴン伝説)が、何だか話が誇張されていたり歪んでいたりして伝わっているのが徐々に判ってきたりと、兄妹達には追われながらも、いろいろな場所でいろいろな人に出会いながら、のんびりゆるゆると”海を目指して”旅を続け、、、、

 そして最後に、全ての伏線は一気に紐解かれ、事態は急展開していくことになるわけですが。。

 正直に言えば、漫画としては、幾らかつたない感じを受けるんですが(コマ割や絵の安定度など。人のこと言える立場ではないですが(汗))、物語というかドラマ自体との構成と設定、そして展開については実に楽しめる作品だなあと。

 ある意味では勇者と魔物が存在し、ドラゴンも存在し、勇者が平和を守るというファンタジー世界なんですが、<絵本>というか<おとぎ話の世界>なんですよね。最後には”魔王”も降臨する訳ですが、そこに至るまでの伏線とストーリー展開、そしてその結末は、「小さい頃に読んだ絵本の世界」に繋がる、そんな作品になっているんですね。

 描いていけば技術なんてのは後から付いてくるものですが(・・・まあ描き続ける事はとても大変な事なんですが、それは置いておいて)、こういう物語の構成力とかセンスというのは、それとは別のものだろうなあと思います。

 オチへの賛否はあるかもしれませんが、読後感はとても良かったので、他の作品もちょっと読んでみたいなあ、と思いました。
  

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2017/05/22

双龍 「間違った子を魔法少女にしてしまった」 1巻 BUNCH COMICS 新潮社

 地球で魔法少女のなり手を捜していた謎生物は(定番設定ですが(笑))、偶然であった”清楚な雰囲気”の少女に、魔法少女になって貰うようお願いします。しかし、彼女の”真の姿”とは。。。

 表紙のおどろおどろしさが全てを物語っているとも言えますが、実は引っかけが一つあります。けっして「不良少女」を選んだというわけではありません。ある意味では、不良少年・不良少女よりも恐ろしい思考回路で行動する、破壊的な少女かもしれませんが。。

 行動は破壊的ですが、行動原理はいたってシンプル。「気にくわない奴は徹底的に潰す」です(別に正義がどうこうとか、そんなのは関係ありません(笑))。

 って書くと結局アレですが、その性格を別に隠している訳でもなく、学校では成績優秀ながらすぐバックれてしまい、授業中も教師無視。気にくわない奴が例え札付きの不良であっても、完膚無きまで粉砕し、破壊してしまうような身体能力を兼ね備え、<筋は通すが沸点が異様に低い、歩く最終破壊兵器>と言っても過言ではない、、、というのが、あくまで変身もしていない少女の素性です。

 敵に追われて傷ついていたとはいえ、潜在能力だけをスキャンしてその場で彼女を<魔法少女>にしてしまった謎生物は、いろんな意味で後悔することになっていくわけですが。。

 けどまあ、変身もせずに敵を撃退してしまうその潜在能力。まさに変身してないのに全身からほとばしる”殺意”は、戦闘能力としては申し分なし。魔法のステッキも彼女にかかれば「物理兵器」でしかない訳ですが(笑)、生来の破壊力が倍増どころの話じゃありません。

 そんな彼女の潜在能力に呼応して、敵のレベルも勝手にアップ。地球にどんどん吸い寄せられるという事態に陥るという、、、結果的には、今のところ全ての敵は粉砕されているものの、いろんな意味で何か間違っているというか、、、、

 タイトルがシンプルながらも、それを踏まえた上でどんでん返しというか、想像を超えたストーリーが展開する、結構奥が深い設定に凝った作品だったりします。

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2017/05/18

おざわゆき 「傘寿まり子」 3巻 KCDX 講談社

 「傘寿=80歳のお祝い」というのをあまり知らなかった私です(汗)。

 主人公はそのまま、80歳でひ孫もいる、小説家のおばあちゃんです。

 旦那さんには先立たれ、息子夫婦と同居をしていたわけですが、もの凄い理不尽な話ですが(・・・けど、実際にあり得る話なのかなあ、、)、家のリフォームを家人で検討する中、主人公の部屋は作らないという強硬な嫁の自己主張(主人公の持ち家ですよ?)に嫌気がさし、家出することにした主人公。。。

 ある意味では、部屋に籠もって小説を書き続けていたために、世間知らずで過ごしてしまい、そして義理で続いていたエッセイも打ち切り目前という現実にも打ちのめされ、、、

 ともすれば、とても暗いお話になってしまいそうなんですが、そこを乗り越えられたのは、異様な程ポジティブで好奇心旺盛な80歳の性格(笑)。ネットカフェで寝泊まりしながら、若い頃に憧れた殿方と出会い、ラブロマンスが生まれたりと、、、”老人の青春”していたりします。

 ただ、楽しいことや好奇心の赴くままに行動する中、必ずそこに立ちはだかるのは「80歳」という年齢です。。

 家出をして部屋を借りようにも、保証人のない、下手すれば何時死ぬかもわからない80歳に、すんなり貸してくれる不動産屋などある筈もなく。あらゆるところで何らかの形で老人扱いという<差別>をされ、一方的な思い込みで怒鳴り散らされ、、、

 それでも彼女は、逆境を噛みしめながらも諦めず、好奇心という武器を片手に、3巻ではとうとう「ネトゲ(ネットワークゲーム)」にまで突入することになりました。すげー!

 いろいろなことを考えさせられる作品ですが、いわゆる老人を主人公とした様々な作品と少し違うところは、主人公の考えの中には「今どきの若いもんは」とか、「昔は良かった」というような、ありがちな感情が皆無であるということですね。

 ある意味では、小説書きに没頭していたが故に、社会から隔絶されていたわけではなかったんですが、意識が社会から遠ざかってしまった期間が長すぎた、、、ある意味では、若い頃から80歳にタイムスリップしたのに近い感覚なのかもしれません。

 なので、自分の身や周囲の人々に起きる出来事を、素直にストレートに捉えて感想を述べている訳です。自分は老人であるという感覚はなくとも、廻りがそう見るという現実、同年代の人々は自分とは違う考え・立場に置かれているという現実、またある意味では、若者と何の先入観もなくコミュニケーションを取れば、いろいろなことを教えて貰え、判ってくるという現実。。

 家族のあり方、老後の過ごし方、そして老人とは一体何なのか、何ができ、何ができなくなるのか。。

 気持ちは若く、ポジティブな主人公の快活さや好奇心に救われながら、様々な重い現実とともに、ある意味では自分の思いや周囲の視線で、思い込みで作られた<老人>という殻を、客観的に捉えて見せてくれる、そんな作品じゃないかなあと思ったりしました。

 また、様々な事件や出会いが次々に発生し、出会いと別れが次々と訪れるもので、ある意味ではとてもドラスティックな旅というより、御老体の<冒険活劇>とも言えるかもしれませんね(笑)。

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2017/05/17

上山道郎 「オニヒメ」 2巻 ヤングキングコミックス 少年画報社

 「剣豪ディスク」と呼ばれる刀の鍔(つば)に宿った剣豪達の技を引き出し、異界からの魔物と戦う、謎の出自の女子高生の戦いを描く、剣豪アクション作品です。

 簡単に説明してしまうなら、「特撮ヒーローもの」と言った方が雰囲気が伝わるかもしれませんね。最近の某ヒーローは色んなカードを装着して技を繰り出すわけですけど、この作品の場合にはそれは刀に付ける鍔状の「剣豪ディスク」な訳です。

 普通の剣術、剣道ものとは一線を画するのは、やはり「ツマヌダ格闘街」で培った、古武術に則った体の姿勢や動きなどのアクションでしょう。

 最低限の動きで、想像を超えた半端ないパワーを生み出す古代剣術を含む古武術・・。その基本は立ち姿を含む姿勢ですが、やはりそれをしっかり描けているからこそ、炸裂した時の迫力が感じられます。これ、普通に動画で見てしまうと、かえって判りにくいかもしれません。。ある意味、漫画だからこその表現である気もします。

 作品自体は、剣豪ディスク同士を使った、怪異との剣術による戦いです。主人公は剣道も習ったこともない少女ですが、その出自に秘密があったり。。もう一人のヒロインは、秘密組織に所属して怪異と戦う戦士の一人な訳ですが、こちらは語り部としての位置付けとも言えますね。

 で、、、、この作品の特筆すべき事は、過去の作品である「怪奇警察サイポリス」と世界観を共にしているということです!(←勝手に興奮しているらしい)。

 「怪奇警察サイポリス」は1995年まで「コロコロコミックス」に連載された全9巻の児童向け漫画です。細かな解説はWikipedia  に任せますが、児童向けという文法は守りつつも、正直、少年漫画として掲載されていてもおかしくないクオリティーの作品だったんですね(※個人の感想です)。

 現在、マンガ図書館Zで無料で読むことが出来ます。 ・・・というか、正直、コロコロコミックスの単行本を全部探すのは、他のコロコロ作品以上に、現在ではかなり難しいでしょう(私もかなり前、探すのにとても苦労した記憶がありますが、ここ10年くらいは古書店で1冊も見たことがありません。ネット古書店を探せばあるのかもしれませんが、、、)。

 当作品のヒロインは、サイポリスの登場人物の血を引き継いでいる、という設定となっています。そして2巻では、勿体ぶらずにモロにその登場人物達が現れるという大盤振る舞い(笑)。

 半ば打ち切りのような形で終わってしまった、20年以上前の児童漫画の設定を蘇らせたのは、やはり古武術への半端ない知識と、特撮ものへの熱い想い(作者本人の)とが融合して結晶した、と言ってもいいんじゃないでしょうか。

 ある意味、児童向けとはいえ細かな裏設定に当時から拘っていたからこそ、青年漫画とのコラボが実現したんじゃないかなあと思うと、なんか感慨深いですねぇ。。

 と、勝手に盛り上がっていますが(汗)、過去作品の下敷きがなくても、特撮ものが好きな人にも、そして古武術に興味がある人にも、それぞれの予備知識が全くなくとも十分過ぎるくらいのクオリティーで楽しめる作品になっているんじゃないかなあ、と思います。
 

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2017/05/15

板垣巴留 「BEASTARS」 3巻 少年チャンピオンコミックス 秋田書店

 肉食動物と草食動物が一緒に社会を作っている、そんなファンタジー社会において、学校での演劇部を中心とした青春群像劇、といったところです。

 「BEASTARS」とは、そんな演劇の頂点を極めた校内の称号ということになっています。

 一見、ディスニー映画の「ズートピア」などをイメージしてしまいそうですけど、肉を求める本能を抑えることに苦悩する肉食動物達と、そして肉食動物に対して本能的に怯えつつも表面上は仲良く振る舞い共同生活をする草食動物。。

 本来、相容れない動物達を一つの社会に無理矢理押し込むことにより、楽しいギャグ漫画やアニメの世界とは違って、根本的な問題が生じるわけです。その矛盾にどう無理矢理折り合いを付けていくのか、という辺り、社会の仕組みとして一応様々な<教育手法>が学校では取り入れられています。

 動物仲良し漫画(けものフレンズまで含めて(笑))に対して、この根本的な矛盾をリアルに表現したら一体どうなるのか、という試みの一つとして、雷句誠の「どうぶつの国」という作品がありました。この中では言葉を統一するという形でのカリスマの存在と(種族を超えたコミュニケーションは、言葉の壁があって取れないという前提で、全ての動物とコミュニケーションできる”人間”が数人だけ存在)、肉食動物でも食べられる作物を育てていくことで喰う喰われるという状況を解決していく、という形を取っていました。

 対して、この作品では、かなりシビアな”洗脳教育”のような教育プログラムによる封じ込めと、法治による社会秩序の構成によって、矛盾を孕みながらも一つの共同生活社会を形成しています。

 あまり人間社会などとの比較を行う事は野暮な気もしますが、どことなく現状、人間社会が抱えている矛盾を彷彿とさせるような、そんな錯覚も憶えさせられます。。

 作品としては、あくまで本気で<動物の習性>を理性と社会機構で押さえつけることで、果たして破綻なく成立していくのか、という部分をリアルに描いているような気がします(そういう意味では、人間社会を婉曲的に揶揄している、というのとは少し違いますね)。当然、そのはみ出した欲求のはけ口として、街中には<裏市>という戦後の闇市のようなものが非公式ながら存在が許容されていたりもするわけです。。

 そして定期的に草食動物を狩って食べてしまう肉食獣が、殺”人”犯として指名手配され、社会問題とされていくと。。ただ、殺して喰わないまでも、単なる殺人と置き換えてしまえば、現在社会でもある意味、日常茶飯事な光景とも言えなくもありません(野暮といいつつ、つい比較してしまう(汗))。

 全く文化も異なる、異質なものを法律と社会秩序だけで融合し、生じる矛盾や問題を解決していけるのかという、それをシンプルに肉食動物と草食動物を用い、ある意味壮大な<シミュレーション>をしているとも言えるんじゃないかなあと。。

 そんな中、演劇部で裏方をする灰色オオカミのレゴシは、様々な種類の動物の先輩、同級生などとの交流を通じて、本能との葛藤しつつ、自分が求めているのは何なのか、どうしたいのかを思い悩んでいくという、、、この部分は、まさに<青春物語>と言えばその通りなのかな、と言う気がします。 ←物語のあらすじこれだけかよっ!

 2本脚で服を着て歩いている動物社会という設定ですから、あまり動物の習性どうこうという部分は、リアリティーのある外観以外はそう気にならないんですが、”肉食”という本能を、どこで折り合いを付けて飲み込み、そして社会と折り合いを付けていくのか、、、その辺りを人間社会とも無意識にダブらせながら、考えさせられる作品です。

 

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2017/05/12

タイム涼介 「セブンティウイザン」 2巻 BUNCH COMICS 新潮社

 夫65歳+妻70歳。どう考えてもシルバー世代の子供のいない夫婦。

 淡々と仕事をしてきた夫は何の感慨もなく定年退職の日を迎えたその夜、70歳の妻から聞かされた大事なお話とは、、 「妊娠しました」、の一言でした。

 70歳で迎える<初産>。。。

 体外受精でも不妊治療を改めてしたわけでもなく、突然の”自然妊娠”という突拍子もない現実に、この二人はどう向き合っていくのか。。そんなある意味、<ファンタジー>とも言えますが、年齢という<現実>に厳しく立ち向かわなければいけない、二人の出産・子育て物語です。

 1巻は出産編、そして2巻は育児編(首がすわるまで)を描いています。

 とにかくあらゆる事がグルグルと頭の中を巡ってしまいます。。

 いわゆる不妊治療の一環として「体外受精」なども一般的となりつつあり、40歳を超えての出産も、まだまだ例数は少ないながらも数十年前に比べれば確実に増えてきました。

 その中で色々な問題が生じてきますが、不妊治療の辛さや成功確率がまだまだ低いことは別の体験エッセイにお任せするとして、「実際に産むことになったあと」について、コメディータッチながら、本当に真剣に考えさせざるを得ない、そういう作品になっています。

 40歳で子供を運良く授かったとして、その子が成人する頃には母親は60歳です。父親は成人するまで仕事に就いていられるか、それも真剣に考えないといけないわけです。

 ましてや70歳、、、どう考えても「おばあちゃん」の歳です。義務教育を終了するまで元気でいられるか、というより変な話、いつ何時、体調を崩して倒れてもおかしくない、そんな綱渡りしていてもおかしくない年齢ですよね。

 そんな妻を支えるのは、定年退職して悠々自適な老後を妻と凄そうと考えていた、仕事一筋のごく普通の夫です。

 ある意味、定年退職後の育児という設定にしたところは、偶然なのかも知れませんけど効果的な設定になっているな、と思いました。

 定年後に孫ならまだしも、子供が出来るなんて設定は通常あり得ないですが(笑)、あり得ないからこそ<ファンタジー>であり、極端な事例を踏まえた<高齢出産後の子育てシミュレーション>になっているわけです。

 ある意味、毎日ヒマな旦那さんを子育てのアレコレに参加させることは、夫が忙しければ全て妻がやらなければいけない手続きその他が、それがどれだけ膨大な量で面倒極まりないなのか、改めて男性からの視点からも描けているんじゃないかと思うんですね。

 大抵、この繁雑な作業は妻だけが抱え込み、愚痴ってしまうだけで終わりがちですが、高齢出産後の妻をサポートせざるを得ない立場の夫に、それを経験させつつ語らせ、考えさせているわけです。

 後期高齢化社会というだけではなく、高齢出産社会というものも、ここまで極端な事例はまずないでしょうけど、ある意味、現実問題として今後、考えていかなくてはいけないでしょう。ここでは育児という両親の問題として描かれている訳ですが、成人するまで両親が健在とは限らない、子供自身の問題についても、社会としてどう援助していくか、考えていく必要があるのだろうと思います。

 改めて高齢出産と高齢育児という現実問題にどういう心構えで取り組んでいく必要があるのか、いろいろなことを考えさせられる、けど問題は抱えつつもとても幸せそうな、そんな物語です。

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2017/05/09

丸山朝ヲ/棚架ユウ 「転生したら剣でした」 1巻 バーズコミックス 幻冬舎

 転生したら剣になっていました。という、タイトルそのままズバリな内容です。

 最近、少しタイトルが長いファンタジー作品が色々と出ていますけど、これもある意味、その系統かなあと思いつつ、描画が丸山朝ヲさんだったので手に取ってみました。
 で、原作の世界設定などがしっかりしているので、案外面白く楽しめました。

 そもそも何で生まれ変わったら剣なのか不明ですが(まあ、それも伏線ですね)、意志を持った主人公である”剣”は、近くの小さな魔物を少しずつ自力で叩き切りながらスキルアップしていき、剣なのに数々のスキルを身につけていきます。しかし不覚にも魔力を抜かれ、何年も動けなくなったところに、もう一人の主人公である猫耳少女(こらこら)と出会い、二人で旅を始めることになるという。

 剣に意志があるということ自体、この”ファンタジー世界”では普通はあり得ない設定となっており、スキル等も剣の方に宿っている形ですが、持ち主がそれを使いこなすことでさらに威力も発揮できるという設定です。

 小説が原作なものは(直近では「蜘蛛ですが、なにか?」など)、この辺りのスキルの選択であるとか伸ばし方、順序などに結構拘りがあるのか、料理のスキルとか何で要るねんと思いながら、キッチリそれが役に立つシチュエーションを用意していたりします。ゲーム感覚でどのスキルを伸ばすか、ストーリーにも合わせてしっかり組み立ててあるので、そういう意味ではRPGをやった事がある人には、ああなる程と楽しめるんだろうなあと思います。

 ヒロインである猫耳娘も、強くなりたいと思いつつも”進化”ができずに力尽きた両親の想いも受け、妖獣の中では最弱・最底辺の位置付けにされながら、謎の力も秘めている感があり(まあ定石ですけど(w))、剣の行く末も含めてなかなか楽しめそうなファンタジー作品でした。

 いやあ、、、キッカケは色々ですけど、読んでみないとやっぱり判らないもんですねえ。。
 

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2017/05/08

桑原太矩 「空挺ドラゴンズ」 2巻 アフタヌーンKC 講談社

 空中を飛ぶ龍(ドラゴン)が普通に生息している世界において、ドラゴンを喰う事に命を賭けた男が飛行船型の捕龍船で好き勝手に暴れる(違)、そんなファンタジー作品です。

 まあ喰うというのもアレですが(笑)、この世界では龍は空を飛ぶ<くじら>に近い位置付けで描かれています。退治するとかそういう対象ではなく、立派な<狩猟動物>ということですね。
 ただし、種類は龍といっても上から下まで様々であり、大きさもまちまち。能力によっては危険な種類もいるので、その捕龍船の大きさや乗組員の技能により、狩るかあるいは逃げるか(マジで)を決める事になります。ちなみに魔法とかは特になく、龍のような謎生物が生息している以外は、極普通の中世風な世界観です(飛行船やらエンジンやらは存在します)。狩りは機会の補助はありますけど、半ば”人力”といったところ。

 喰うというか狩ることがメインのストーリーになりますが(いわゆる「ダンジョン飯」ほど何でも喰いまくるファンタジーではないです(笑))、空中での捕龍船での捕り物は迫力があります(あ、2巻では”空中”ではありませんが・・・)。

 2巻では捕獲した龍を捌き、売るために村(というか街)に立ち寄る訳ですが、その街自体が<捕龍>による恩恵で成り立っているというか、、、余すところなく解体し、全てが利用できる龍は本当に<クジラ>そのものです。街自体の経済が捕獲されて持ち込まれる龍によって動いており、荒くれ者の捕龍船乗組員との間ではいざこざも発生しますが、お互い持ちつ持たれつという間柄。

 そういう意味で、ファンタジー世界ではありますけど、乗組員や街の人々の群像劇も丁寧に描かれており(この辺、学園ものの「とっかぶ」でも上手いなあと感じていましたが)、<龍>という経済生物を中心とした世界観も、違和感なく結構深く描かれているなあと思いました。

 何より、龍の解体シーンが実に丁寧で、空想生物とはいえリアリティーがあって感心しました(そんなもんに感心するのは私くらいかもですが(汗))。

 2巻でもまだまだ龍のいるこの世界の全体像が描き切れていませんが、少しずつ明らかになる世界像と伏線で、ファンタジーと謎グルメだけではなく、まだまだ色々と楽しめそうな作品です。
 

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