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2016/11/10

梶谷志乃 「想幻の都」 全2巻 BEAM COMIX エンターブレイン

 脳の記憶を別の肉体に移し替えることができれば、人は永遠に生き、死ぬことなく幸せになれるのか。。

 冒頭からの死体の腑分け作業など、全体的に非常にアナログでオカルト的な雰囲気を醸し出していますが、あくまで科学的な記憶のコピーと人体再構築により、新しい肉体に記憶を移動する、といういわゆる”人造人間”技術が確立された近未来の”パリ”の街を、その技術者であるAI搭載の人造人間の視点から描いた、そんな作品です。

 実際にはこの技術には制約もあり、新たに構成した(というかほぼフランケンですな)人造の肉体は、長期間の維持は困難で、定期的に新しい<死体>が必要になります。
 その死体の提供元は、死刑相当の重罪人であったり、脳死と判定された怪我人であったり、そしてモラルハザード状態ですが、「新しい体が欲しい」と希望する人の元の肉体も、”人造人間”の材料として提供されます。

 人造人間にも、そういう記憶を移したタイプと、いわゆるAIを搭載した、人とロボットの中間に近いタイプ、そして完全に労働力の不足などを補う、意志を持たないロボットに近いタイプの3種類に分かれます。
 その人造の肉体を構成するために、技術者達は日々スプラッタに人体を切り刻に、不要となった人造人間は容赦なく”処分”すると。。

 最初は労働力の不足を補うための技術でもあったわけですが、ある意味では<理想の肉体を手に入れる手段>として意味を成し、パリの街はモラルがどんどんと崩壊していっている、と言ってもいい状態です。そしてそんな中で人造の肉体を手に入れようとする人々と、それを手にした後の葛藤、そしてその顛末が、淡々と描かれて行きます。

 この物語のテーマは「命とは何か」そして「死とは何か」という、そんな根源の命題もあります。命は限りあるものという「当たり前」が、当たり前ではなくなった世界では、人々は欲望のままに何を求め、そしてどうなっていくのか。。

 物語の顛末は、ある意味ではそのドロドロの欲望の果てに生じた<破綻>として描かれています。。

 定期的に肉体の限界が訪れる人造人間の体。基本的には新しい体に乗り換えることにより、命を保つことができ、ある意味では永遠の命を得られた状態とも言えますが、それは何の犠牲の上に成り立つ世界だったのか。。

 生きるとは、命とは何かについて、この作品では結論は出していません。完全に生命モラルの破綻した、死体だらけの世界の上に成り立つこの「幻の街」の顛末から、「生きること」、あるいは「生命」の意味を問おうとしているんではないかなあと。

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