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2016/08/10

武田一義/平塚柾緒 「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」 1巻 ヤングアニマルコミックス 白泉社

 フィリピンに近い孤島、ペリリュー島。太平洋戦争時、そこで日本人はどのように戦い、何を考え、そしてどのよう死んでいったか、、、叙情的な絵柄で淡々と綴られていく、そんな作品です。

 この絵柄で戦争を描くというのは、ある意味では「のらくろ」を彷彿とさせられます。小さな兵隊さんがワラワラと戦っているような。逆に言えば、この絵柄だからこそリアルで凄惨な戦闘の描写が和らげられ(「あとかたの街」もそれに近いですね)、そして、主人公の周辺のそれぞれの登場人物が、どのように考え、どのようにあっけなく死に、その無念な死を見せつけられた生き残った人達が、どのように考えて行動するのか。。そういう最も伝えたい内容を邪魔していない、とも言えるかもしれません。

 ある意味、無駄に突撃をさせる指示を出す将校達だって、何も考えていない訳ではないですよね。それぞれの想いがあり、自分なりの解釈と結論を無理矢理導き出し、それを心の支えとして指示を出している訳です。この作品では、そういう「命令をする人々」の理屈や葛藤、そして割り切りといったものも描写されていきます。

 とはいえ、勿論それに全ての人が諸手で賛同していた訳ではありません。死ぬことよりも生き残ることを考える、そういう人達もいます。
 無駄死にはしたくない、死ぬなら華々しく戦って死にたい、色々な想いや願いを抱きつつ、主人公の周辺では、あっけなく人々が死んでいきます。用を足している時に慌てて岩に頭をぶつけたり、味方の銃の暴発で腹を撃たれたり。世間一般でいうところの<無駄死に>であり<無念の死>であり、、、けど、それでも人は思い通りには行かずに死んでいく。。

 この作品はストレートな戦争反対作品でも、戦争を賛美する作品でもありません。戦場という環境下で、日常生活のように起きる思い通りにはいかない<死>の意味を、様々な死の場面を通じて高密度に描いていく、そんな作品ではないかなと思います。

 勿論、こんな楽園のような美しい島で、そんなくだらない死をも巻き起こす戦争自体を起こしてはならない、というメッセージは大きなテーマとしてはあると思います。フィクションですが、史実も十分考慮して作られているようですし。けど、敵の銃弾に当たるだけではなく、あっけない無念の死も平行して描写すること、敵の米兵にも家族や人生があることなど、そして無念の死を遂げた人々が、いかに果敢に戦場で戦って死んでいったか、、、という「作り話」を創作して家族に向けてしたためる、そんな仕事もさせられながら、それらを深く考える余裕もない戦場で右往左往する、そんな極普通な主人公を通じて勝ち目のない悲惨な戦争が描かれて行きます。

 当然、作者には戦争の経験も記憶もないわけですけど、人並み以上に死について実感した体験があるが故に、妙に死生観についてリアルに描かれている、そんな作品だと思います。

 

   

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