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2016/07/20

山田胡瓜 「AIの遺電子」 2巻 少年チャンピオンコミックス 秋田書店

 人口の約1割が、人間の脳を模し、人格すら認められている「ヒューマノイド」となっている近未来。<人と同じ脳>を持った彼(彼女)らは、人間が持ち得る特有の悩みや苦悩に苛まされています。そんな彼らを非合法に治療する、そんなヒューマノイド専門の医者の裏稼業を描いた、そんな作品です。

 この世界では当然、人間とヒューマノイドは区別はされていますが、その他に人工知能である「AI」は、ヒューマノイドとは完全に区別されています。また単純なロボット型の端末も出てきますが、それもAIとはまた違う、小型ロボットとして区別されています。そして記憶の塊であるヒューマノイドは、そのデータをバックアップ・コピーすることは法律で禁じられています。

 SF作品として見るならば、今まででも良くある題材であり、舞台設定のようにも感じますが、実際に読んでみると全く違う視点で描かれていることが判ります。全ての作品は「ヒューマノイド」の視点で描かれているものの、彼らが抱える悩みは「劣等感」であったり「不安感」であったり、人間であれば誰しも起こりうる心理的な問題ばかりです。それらは”ヒューマノイド”であるが故に、ある意味では<機械的に>対処が出来てしまうという、そういう状況がこの世界を支配しています。

 では、記憶のバックアップがあるからと言って、不具合が脳に発生したから、数週間の記憶を消去して上書きしたら、それは本当に<自分>なのか?

 人間のように味わうことが出来ないからって、美味しそうに食べる姿を再現することはできないのか?

 スペック上、人間以上に能力がセーブされているヒューマノイドは、限界を越えることはできないのか?

 苛立つ心を平常に保つことにより、失うものは本当に何もないのか?

 人間の脳の仕組みを再現することで生じる、人間でも起こりうる心の悩みに対して、それがいとも簡単に解決できる場合、彼らはそれが解決することに対して、解決後の自分に対して、一体どんなことを”感じる”のか。。。

 ある意味では、人間の誰もが持つ心の悩みは、それが表面上解決することで<本当の解決>となっているのか?というアンチテーゼに近いものも感じます。

 そしてこれこそ、SFの真髄のような、そんな気もするのですよね。。

 普通であればあり得ないシチュエーションを自由に作り出し、そこで人類が思い悩む数々の問題が解決された世界を作る。
 けど、その「問題を解決した理想の世界」は、<本当に素晴らしい世界>と言えるのだろうか・・・?

 ある意味では、「理想世界のシミュレーション」が、古典SFに共通したテーマではないかと思うのですけど(勝手に私が思っただけですが、特撮CGバリバリのSF映像作品とは違う、文学SFの世界という意味で)、この作品では完全に人間をシミュレートできる「ヒューマノイド」の視点を通じて、「人間にそれしたらアウトじゃね?」という<記憶・性格操作>を行います。その結果により、本人達や周りの”人々”はどう感じ、そして本当に”満足”した結果が得られるのか?という部分を描いているんだと思うんですね。。

 その他にも、ヒューマノイドと「AI」や、会話を楽しむだけの小型端末ロボットとの比較も通じながら、ヒューマノイドでありながら、「人の心」や「気持ち」について、色々な疑問とともに、問題が解決しなくとも<幸せ>を感じることは出来るんじゃないか?(つまり、対症療法以外にも解決方法があるのではないか)というような部分も、さりげなく描いていると思いました。

 似たようなことを”人間”を使って描いてしまうと、恐らく読者の感じ方や受け止め方は、かなり違うと思うんです。
 どちらかというと、ヒューマンドラマ的な「いいお話」を読者は求めるか、倫理観の問題の方が気持ちとして先にきてしまいますからね。
 そういう意味で「ヒューマノイド」というシミュレーターを通じた「心・記憶の実験」は、そういう先入観を排除するのに役立っているんじゃないかと思います。


 「心とは何か」「幸せとは何か」という、すごくシンプルな問いに、何かヒントを沢山くれるような、そんな作品です。

 

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