永田礼路 「螺旋じかけの海 -音喜多生体奇学研究所-」 1巻 アフタムーンKC 講談社
この作品は奥が深すぎますね。。
水没した都市に住まう貧しくも活き活きと生きる人々。その世界では遺伝子操作が行われ、時限爆弾のように遺伝子を埋め込まれた人々に変異をもたらす、そんな情勢です。
遺伝子実験室から逃げたキメラ動物が、当たり前のようにその辺に生息していますが(といっても小型のものが多いので、そう脅威ではない)、とある大企業が仕組んだ人権無視の違法実験のため、水没都市に生活する孤児達に、体の一部が他の動物に変異する奇病が唐突に発症します。
そんな彼らを治療するのは、体中に変異遺伝子を取り込んでしまった一人の”生体操作師”。
いろいろなキメラ動物も出てきますが、まあもう混じってない動物はいないんじゃないか?というような世界なので、そんな異質な動物を自然に逃がそうが何だろうが(最初、キメラ動物を逃がすところで気になりましたが)、もうそんなこと気にしなくていい、遺伝子の攪乱とかそんな些末なことはどうでもいいくらい、遺伝子がグチャグチャになってる、そんな世界になっています。
けど、この作品のメインテーマはずばり、「人とは何か?」ということに尽きますね。。
まだまだ詳細には触れられていませんが、都市が水没しているって辺りで、すでに天変地異に近い社会の崩壊が一度起きていることは想像ができます。そしてその後のこの社会の秩序として、「一定の割合以上に異種遺伝子を持つ者は、”人ではない”」とする法律ができていること。人権侵害も甚だしい世界ですね。。
要は、異種遺伝子を注入するなり、時限的に発言させるように仕込まれた人間は、もう人間ではなく動物扱いされるということです。なので殺そうが売買しようがお好きにどうぞと。法律で規定されているので、警察もそれに従って異種遺伝子を持つ”異種キャリア”を、企業に協力させられて人外の生き物として捕らえなくてはならない。
ある意味で悪意と矛盾に満ちたその世界で、異種遺伝子を排除する手助けをすることで抵抗しているのが、この作品の主人公ということになります。
勿論、排除しきれない状況も存在します。そういう事例についてのエピソードも、1巻には収録されています。
SFではありますけど、確かに生物の基礎知識についてはしっかり押さえている感じがしますね。遺伝子汚染などというのも勿論意識されているでしょうけど、あえてそれはもう考えても無駄な状況を作り出し、その中で新たな秩序やモラルを作り出している感じです。人と人との境界については、理不尽な法律を企業主体で平気で作れる世界ってことなんでしょうね。。
その辺りは、どこかで追々触れられていくのかもしれませんが、何というか設定がリアルで、妙に人間くさく”地に足がついている”感じがするところが、ちょっと面白い感覚だなと思ったり。
読み切り形式で続いていくと思いますが、じっくりと読みながら、色々なことを考えさせられる作品です。
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