大久保圭 「アルテ」 3巻 ゼノンコミックス 徳間書店
職人などの職業に女性が就くことが非常識とされた中世の世の中で、昔から絵が好きだった裕福な家庭育ちの娘が、絵師を志して厳しい世界に突入していく、そんなお話です。
この作品の場合、恐らく設定上、悩んだんじゃないかなあと思うところは、主人公であるアルテの出自の設定じゃないかなと。。
逆境に立ち向かい、どん底から這い上がって一流の職人に、という王道パターンをあえて取らず、「金持ちが職人の世界に」というところ。別に家の事情とかは特に問題はなく、親の反対を押し切って、彼女の意志だけで弟子入りを決めたわけです。
サクセスストーリーではあるんですが、若干ベクトルが違ってくるところを、あえてこの構成で挑んだのは、少なくとも絵画の極々初期の基本的なところは(父親が手習いという形で習わせていたので)修得している、というところから物語を始めたかったからでしょうか。。
まあ、それを本当の基礎の基礎から始めてしまうと、物語が冗長になってしまいますし、また女性を弟子にするという当時の慣習からすれば尋常ではない決断までは、単なる情熱だけでは出来ないと(なんか凄い才能があるとか天才現るって設定じゃないと)。
自分が恵まれた環境で育ったことは意識しつつも、「女に出来るわけがない」という周囲の逆境に、誠心誠意で堂々と努力して挑む、そういう女性を描きたかったのでしょう。
彼女の元の境遇と職人の世界では、本当に天と地ほど身分が異なります。さらに女性ということで、逆境の大きさは測りしれません。が、「絵師になりたい!」という強い意志と、曲がったことは許せない、そういうまっすぐな心意気で、周囲の人々に少しずつ認められていくわけですね。。
そういう成長物語と共に、この作品では当時の「絵師」の仕事ぶりや社会システム、画材や技法などの描写が細かくされていて、当時の美術関係の環境などが、実によく判るように描かれています。そういう部分でもなんだか勉強になるなあ、と思って読んでしまったり。
特に3巻では、表紙でも描かれていますが、広間の天井から壁一面に描かれる巨大な壁画に取り組むわけですが、何十人もの絵師が共同で作業していく様は、なかなか圧巻。こうやってあの壁画達は描かれていたのかと、昔にヨーロッパに旅行したときに見た荘厳な情景と重ね合わせて読んでいました。
「どうせ金持ちの道楽」という視点でしか見られない中、これからどう足掻いていくのか、女性らしい感性やセンスを、どんな風に発揮していくのか、そんな彼女の日常をのんびりと眺めていると、当時の人々の生活も垣間見えてきます。
1巻目あたりでは、この難しい設定でどう話を展開するのかなあと思っていたんですが、2巻、3巻と読んでいくと、狙いも何となく判ってきて、心配しすぎだったなという感じでした。
4巻以降、どんな現場が待ち受けているんでしょうね。。
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